和紙文100回の許し · 第1話設定≡

100回の許し第1話

この話は約1621字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

人間は一体どこまで金持ちになれるのだろう?

私の夫は、まさにその問いの答えのような人だ。世間では彼を「雲城市の半分を牛耳る男」と呼ぶ。なぜなら、雲城市の不動産の半分近くが彼のものだから。

結婚して五年。彼が憧れの人と逢瀬を重ねるたび、私の名義で不動産が一つ増えていった。

私の名義の不動産が九十九件になった頃、夫は突然、私が変わったことに気づいた。

もう泣き叫ぶことも、彼に家を出ないでと懇願することもなかった。

ただ、雲城市で一番良いと評判のヴィラを自ら選び、不動産譲渡契約書を手に、彼のサインを待っていた。

彼はサインを終え、初めて心底から優しさを見せた。「じゃあ、僕が戻ったら、花火を見に連れて行ってあげるよ」

私は素直に契約書をしまい、「うん」と頷いた。

彼には決して教えなかったけれど、今回彼がサインしたのは、私と彼の離婚協議書だった。

* * *

オフィスでは、沢村莉緒(さわむら りお)の帰国ニュースがテレビで流れていた。

彼の視線は、ずっとニュース画面に釘付けだった。

私が差し出した不動産譲渡契約書を受け取り、サインをする時でさえも。

西の町の一等地に建つヴィラ。雲城市では金を出しても買えないとまで言われる物件だ。

雲井悠(くもい ゆう)の心には、どうでもいいことだった。

まるで、彼の心の中で私がどうでもいい存在であるかのように。

ニュースが終わり、彼は今、ご機嫌な様子だった。サインを終えたペンを指先でくるりと回し、契約書を私に差し出しながら、冗談めかして言った。

「もう60軒以上も君の名義にしたかな?今じゃすっかりプチセレブだね」

彼の声に隠しきれない喜びが滲んでいたけれど、それは私を祝福するためじゃない。ただ、彼の憧れの人が帰国するからだ。

私は彼の前に立ち、ただ頷いた。「西の町のヴィラは海が見えるから、とても気に入ったわ」

彼には言わなかったけれど、これは彼が私に譲渡した100軒目の不動産だった。

かつて私を追い求めた悠は、99回も私に振られた。彼の私への愛は、それほどまでに粘り強く、だから100回目の告白の後、私たちは結婚したのだ。

けれど、彼の私への愛は長くは続かなかった。莉緒が初めて帰国した、あの日まで。

それは、私と悠の結婚一周年記念日だった。

私は悠が手ずから用意してくれたキャンドルディナーの雰囲気に包まれ、幸せに彼の帰りを待っていた。

けれど、待っていたのは不動産譲渡契約書と、たった一言の謝罪だけだった。

「ごめん、咲良。僕たちの記念日を台無しにしてしまった。許してくれるかい?」

彼の体から漂う、濃厚で見知らぬ香水の匂いを無視して、私は掠れた声で彼を初めて許した。

私は結婚後、彼を99回許すことを心に決めていたのだ。

だが、それに続いて2回目、3回目、4回目......と続いた。

結婚して5年。彼は数えきれないほど私を置いて、彼の憧れの人と会っていた。

しまいには、憧れの人に会いに行く前に、自ら私に家を一つくれるようになった。

1軒目から、99軒目まで。

そのたびに、私は彼を許した。

そして今、ちょうど100回目。

悠、これで最後。もうあなたを許さない。

そう考えると、私は安堵の笑みを浮かべ、静かに彼を見つめた。

悠は一瞬戸惑ったが、すぐ視線を逸らした。

彼の瞳に、わずかな同情が宿っているのが見えた。

そして、少し躊躇いがちに私に言った。「帰ってきたら、花火を見に連れて行ってあげるよ」

いつもの私なら、彼が少しでも優しさを見せれば、それは彼を取り戻そうとする私の幻想に変わっていただろう。

泣き叫び、そして絶望する。

なぜなら悠はいつも、私の指を一本一本冷たく引き剥がし、「狂ってる」とだけ言い残して去っていったから。

幸い、私はもう99回も狂った経験がある。そして今、100回目が満たされた。

こんな自己欺瞞は、もう続ける必要はない。

だって、私が今彼に渡した書類の束の中に、こっそり離婚協議書を忍ばせていたから。

悠。

30日後には、もう私たちに何の繋がりもなくなる。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)