和紙文10年愛した彼に捨てられ、幽霊になった私 · 第3話設定≡

10年愛した彼に捨てられ、幽霊になった私第3話

この話は約1924字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

その夜、悠真は若菜を連れて、仕事上のパーティへ向かった。

悠真から離れられない明里も、もちろんその後ろをついていく。このパーティーには悠真だけでなく、彼の友人たちも参加していて、悠真と若菜が姿を見せると、悠真の友人たちは、お互い目配せをした。

そして、意図的なのか、それとも偶然なのかは分からないが、友人たちが次々と悠真の元へ集まってきて、若菜を悠真から遠ざけた。

表向きは悠真と世間話をしているだけのようだったが、その言葉の端々からは、若菜に対する嫌悪が見て取れる。

たとえば、彼女をいまだに秘書扱いして顎で使ったり、知り合いが酒を勧めに来れば、自分たちの代わりに酒を飲ませたりした。

また、最近耳にした噂話だと言って、既婚者の男を奪った秘書を徹底的に罵り、まるで若菜を「愛人」とでもいうように、馬鹿にしていた。

そして、若菜が涙目になってくると、悠真の顔色も曇り始め、我慢の限界になったのか、友人たちに対して、悠真が怒鳴った。「何してるんだよ!俺が若菜のことを好きになったんだから、文句があるなら俺に言え。若菜をいじめるな」

そう言われた友人たちは更に嫌悪感を露わにし、険しい表情を浮かべる。

そして、その中の一人が、苛立ちからシャンパンタワーを蹴り倒した。

「いい気なもんだな、悠真!

起業したばかりの、一番苦しかった時期をもう忘れちまったのか?明里さんが両親から遺された家を売って、その金でお前の資金を工面してくれたからこそ、今のお前があるんだろ?

本当、明里さんが不憫でならないよ。まさか、自分が積み上げてきたもの全部、最後には他の女のためになるなんて、思わなかっただろうからさ」

その言葉を聞いた瞬間、悠真は頭を殴られたような衝撃を受けた。

起業したばかりで、一番資金繰りに困っていた頃、確かに明里が突然大金を自分にくれた。

でもまさか、それが親の遺産を売ってまで作ってくれた金だったとは……

心臓が締め付けられ、何とも言えない複雑な感情に襲われたが、隣で泣きそうな若菜を見ると、やはり、友人には冷たく言い返すことしかできなかった。

「明里には、また金を返しておくから。でも、これからは若菜に対して、そんな失礼な態度をとらないでくれよ」

そう言うと、悠真は若菜を連れてその場を離れた。

明里もそのまま悠真に引っ張られ、彼の後ろをついていくしかなかったが、先ほど怒鳴り散らしていた悠真の友人の様子が気になっていた。

その男の名前は竹内知哉(たけうち ともや)といい、悠真とは幼い頃から付き合いがあった。しかし、明里と悠真が一緒になった年、知哉は海外留学へと行ってしまった。

その後、帰国したことは聞いていたが、なぜか明里のいる集まりには、いつも顔を出さなかった知哉。

だから明里はずっと自分が嫌われていると思っていた。しかし、今の騒ぎで一番憤っていたのは、他ならぬ彼だった。

それからもパーティーが続き、終わる頃になると、若菜が眠たそうにしていたので、悠真は彼女を車に乗せた。そして、スマホを取り出す。

明里が覗き込むと、彼はまた自分へとメッセージを送っていた。

どうやら、先ほどの件についてのようで、自分にお金を返すつもりらしい。

もちろん、返信が来るわけがないし、悠真が電話をかけたって、繋がらないまま。

明里は、悠真が何か変だと気付くかと思ったが、当の悠真は電話がつながらないと分かると、心配することもなく、ただ不機嫌になっただけだった。

その瞬間、明里は悟った。悠真は、今でも自分が拗ねて距離を取っているだけだと思い込んでいるのだ、と。

携帯をポケットにしまった悠真が再び口を開くことはなく、そのまま若菜を連れて帰路に就いた。

明里は悠真の横顔を見ながら、昔のことを思い出していた。

両親を交通事故で一度に失ったあの年、悲しみに押し潰された明里は、一人になりたくて、誰にも居場所を告げずに姿を隠した。

すると悠真は、そんな明里が一人で抱え込んでしまえば、壊れてしまうとでも思ったのか、何度電話を切られても、諦めずにかけ続け、明里の居場所を探しだしたのだった。

後になって、明里は悠真に聞いたことがある。「どうしてあのとき、あんなに電話をかけてきたの?私、わざと出なかったのに」

すると彼は少し困ったように笑って、こう答えた。「明里がいつ電話に出てくれるかなんて、俺にはわからなかったから。でも、もし明里が出ようと思ったとき、すぐに電話が繋がるようにしておきたかったんだ。そうすれば、俺が一番に明里を見つけられるだろ?」

しかし、彼が別の人を愛してしまった今、その言葉は完全に過去のものとなってしまったようだ。

なぜなら、たった一度、電話が繋がらなかっただけで、かけるのをやめてしまうくらいなのだから。

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