鳥は自由に第2話
この話は約1468字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
飛鳥は家へ帰る車に乗り込み、スマホを開いた瞬間、杏からのメッセージが目に飛び込んできた。
それは、あるチャット画面のスクリーンショットだった。
画像の中で杏は黒いシースルーのバニーガール衣装をまとい、床に座り込んで弱々しい表情でカメラを見つめていた。
【ご主人様が二十分以内に来てくれたら、ウサギちゃんはなんでもご奉仕しますよ♡】
その下には、黒いアイコンの景から短く返事があった。
【待ってろ】
飛鳥は画面を消して目を閉じ、胸の奥を締めつける痛みを必死に抑えようとした。
何度も見慣れたはずの光景。
それでも、刺すような痛みは慣れることなく全身を駆け巡り、骨の奥まで染み込んでくる。
目を閉じ、スマホの電源を切った。
深夜。
目を赤く腫らしたまま、ベッドの端で丸まるように眠る飛鳥。枕元のスマホは一時間ごとに振動し続け、朝になるまで止むことはなかった。
朝になり、彼女がスマホを開くと、そこには昨夜から今朝まで杏から送られてきた写真が並んでいた。
全て、使用済みのコンドームの写真だった。
【昨晩はずっと彼に抱かれっぱなしで、いろんな体位で好き勝手にされちゃって、もうベッドから降りられないくらい。彼って、あなたにこんなふうにしたことある?】
飛鳥はただ黙って、その写真と文章を何度も見つめた。
景が帰宅した時、目にしたのは、目元を赤く腫らし、ベッドの上でスマホを握りしめて横たわる飛鳥の姿だった。
心臓がひどく跳ね上がる。
慌てて駆け寄り、彼女を抱き寄せて低く問いかけた。
「飛鳥、泣いてたのか?」
その言葉でようやく我に返った彼女は、無意識に頬に触れた。
指先に冷たい涙の跡。
気づいた時、ふっと小さく笑ったものの、その笑みはどこか悲しげだった。
「大丈夫。すごく感動する写真を見ただけ」
景は優しく彼女の頬を撫で、愛おしげに囁いた。
「どんな写真?でもよかった、本当にびっくりしたよ」
飛鳥が何か言おうとした瞬間、執事がノックして、扉の向こうから声をかけた。
「旦那様、車の準備が整いました」
「ああ」
景は頷き、彼女の額にキスを落とした。
「飛鳥、昨日は悪かった。ウェディングドレスのお店に一人で残してしまって……だから今日は埋め合わせだ。オークションに一緒に行こう。欲しいものは全部買ってやるから」
飛鳥は何も言わなかった。それでも景は彼女をそっと抱き上げ、部屋を出た。
そして彼女のために服やアクセサリー、靴を次々と選んでやった。
オークション会場。
彼女を喜ばせようと、景は前半戦で惜しげもなく大金を注ぎ込み、全ての品を競り落とした。
彼女が興味を示さなくても。
中休みの時間、何人かの男たちが後ろから近づいてきた。
景の親しい友人たちだった。
「やっぱり全部競り落としたのは角田さんだったか!」
「俺なんて祖母に贈り物を買おうとしてたのに、一つも落とせなかったよ」
「愛妻家の名は本物だな。後半戦くらいは俺にも一品譲ってくれよ」
冗談交じりの言葉を聞きながらも、景はただ一瞥しただけで視線を戻し、黙々とミカンの皮を剥いていた。
「後半戦も譲る気はない。今日の品は全部、飛鳥のためだ」
男たちは胸を押さえて悲鳴をあげたが、最終的には諦めるしかなかった。
景の口元に微かに笑みが浮かぶ。
しかし、友人たちに目もくれず、皮を剥き終えたミカンを彼女に差し出した。
「どうぞ」
だが、飛鳥は静かに首を振った。
「食欲ないの。景が食べて」
そして後半戦が始まった。
その時。
会場の扉が開き、赤いミニドレスを着た一人の女性が堂々と入ってきた。
隣にいる景の体が僅かに固まったことに、飛鳥は気づいた。
顔を上げると、
杏が、目の前に現れた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)