首都圏の仏子社長第1話
この話は約2027字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
村上裕司(むらかみ ゆうじ)は誰の目にも理想の夫である。
彼は私に盛大な結婚式を挙げ、私の事業を進めることを全力で支持してくれた。
私が難産で苦しんでいるときは、一日中そばに跪いて付き添い、もう少しで意識を失うほど疲れた。
その後、彼は目を赤く腫らして泣きながら私を抱きしめて、心配そうに言った。
「千帆(ちほ)、これからはもう子供を作らない。あまりに辛すぎる……」
それ以来、彼は寺で昼夜を問わず毎日私と思真のために写経して祈り、首都圏で初の仏子社長と呼ばれるようになった。
しかしある日、無心の風が思いを掻き立て、私は彼の手書きの経文の真実をはっきりと見えた。
その一筆一画が、彼の初恋への未練が綴られていることに気づいたのだ。
私への優しさや心配りは、すべて彼女のために練習したものだった。
そして私は、彼の練習台であり、深い愛の代役に過ぎなかった……
* * *
村上裕司(むらかみ ゆうじ)が私のために仏門に入って祈願してから、私は毎月十五日に寺に彼を訪ねていく。
しかし今日、彼は部屋にいない。
部屋で彼を待っていると、突然の風によって彼の写経帳が開いた。
私は何気なく上の文字に目をやった。
すると胸が突然高鳴る。
彼は普段、この写経帳を非常に重視している。
私が何度か見せてくれと頼んでも、「香を焚き、湯浴びをし、七日間斎戒しなさい」と厳しく彼に要求された。
しかし私は思真の面倒を見なければならず、そんな過酷な要求には到底応えられない。
私は彼の思いやりを理解しているので、一度も無理に見ようとしなかった。
だが今、風が勝手に帳面をめくったせいで、その一行一行の墨の字に経文の一つもないことが明らかになった。
手を震わせながら、写経帳を一枚一枚めくっていく。
写経帳には、尾澤真美子(おざわ まみこ)という名の少女との恋愛中の細かいことを、非常に未練がましい筆致で記されている。
冬の懐炉、夏の冷やしスープ、生理にやさしいお湯。
彼がかつて私にかけてくれた気遣いは、すべて彼女のために学ぶものだった。
私が難産した日のページにたどり着く。
彼はこう書いている。【もし真美子が、こんな激しい痛みを受けたら、俺はどれほど心を痛めるだろう。想像しただけで涙が止まらない、彼女じゃなくてよかった】
【幸い男の子が生まれた。これで彼女に会わずに済む。真美子のためにまた穢れがない自分になることができる】
全身が硬くなり、血液さえが凝固している。
病床のそばで流した彼の涙は、決して私のために流されたものではなかった。
仏門に入っての祈願でさえ、私のためではなかった……
すべてこの真美子のためである。
私に対してのすべての愛情は、ただの偽りに過ぎなかった。
彼が私たちの息子に村上思真(むらかみ しま)と名付けたのは、決して「風が我が思いを知り、真の夢を大地に吹き送る」という私への愛を込めた詩のためではない。
これは真美子の名前を込めたものだ!!
何が最も美しい政略結婚か、何が最も盛大な世紀の結婚式か。
すべては彼の嘘であり、私はただ彼と真美子の恋愛ゲームの一部に過ぎなかったのだ!
その愛に満ちた文字が刃に変わり、少しずつ私の理性を切り刻んでいく。
私はただ裕司を見つけたい。
「これまでの愛は何だったのか、私たちの思真は何だったのか?!」と聞きたい。
まさか私は感情がない人間なのか?
なぜ彼はこんなにも私を弄ぶのか?!
しかし寺の住職に尋ねたところ、裕司は家に帰ったと告げられた。
私が毎月のこの日に見に来ることを彼は知っているのに、それでも彼は離れた。
つまり、彼が会いに行きたい人、やろうとする事は、彼にとってはとても重要だ。
裕司の写経帳の最後に走り書かされていたあの言葉を頭に浮ぶ。【真美子が帰ってきた】
私は怒りを込めて寺の門を出た後でやっと気づいた。裕司と結婚してからこれほど長い年月が経つのに、私は彼の友人を一人も知らない。
裕司本人以外に、彼に連絡する方法は何もない。
私たちは、よく知っている見知らぬ人のようである。
私はスマホの連絡帳を何度も見る。
心の中の怒りは磨かれるごとに、最後は魂が抜かけたような気持ちに変わった。まるで家を失った惨めな者のようである。
別荘に戻ると、一目で玄関に知らない靴が置かれているのに気づいた。
姑と裕司がいるのか?
姑とはずっと関係が良かったから、無意識に彼女に泣きつきたくなる。
しかし部屋の外まで来ると、真美子の名が耳に入る。
「母さん、真美子は随分と辛い目に遭ったんだ、俺はただ財産の半分を彼女に渡しただけだよ」
裕司の声音はとても苛立たしげである。その後は続いて姑がため息をつく。
「母さんは反対しているのではない。ただあんたがあまりにも露骨にやらないで。日高千帆(ひだか ちほ)は騙しにくいのよ。事業と感情は別物であることをわきまえなきゃ。あんた、間違いを犯しちゃだめだよ」
いつも私に優しくしてくれている姑が、口を開けば私は騙しにくいと言う。
さらに裕司が財産の半分を譲り渡すことまで支持している。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)