風にさらわれた恋第1話
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港市では誰もが知っている。
極道の大物・桐生蓮(きりゅう れん)、私を狂おしいほどに愛し、私が姿を消すことを何より恐れていた。
どんな銃弾が飛び交う修羅場にいても、「今どこにいる」「すぐ戻る」と報告してくれるほど、私に安心を与えようとしてくれたのに……
結婚式の前夜、彼は一晩中帰ってこなかった。
そして夜明けに帰ってきたとき、彼は全身に青あざだらけの気を失った女を抱きしめながら、私の前で膝をついた。
「とわちゃん、涼宮遥(すずみや はるか)は俺を助けようとして媚薬を盛られたんだ。俺は、彼女が死ぬのを黙って見ていられない!」
私が許さないと悟ったのか、彼は自分の腕にナイフで六本の傷を刻み、真っ赤な血がシャツを瞬く間に染め上げた。
けれど、結婚式が終わった直後、彼の子分たちの軽口が耳に入った。
「兄貴、婚礼服も脱がないうちにまた涼宮のとこに行く?あの愛人、どんだけ色っぽいんだ?」
蓮は低く、甘く笑った。
「この前は三日三晩、部屋から出られなかった……さて、今回はどうかな?」
雷に打たれたような衝撃。
私の中で、何かが音を立てて崩れた。
「この世界から脱出したい」
思うと、謎のシステムから、冷たい電子音が響いた。
「脱出後、この世界からあなたの存在記録は完全に削除されます。
カウントダウン開始――残り7日」
* * *
港市では誰もが知っている。
極道の大物・桐生蓮(きりゅう れん)、私を狂おしいほどに愛し、私が姿を消すことを何より恐れていた。
どんな銃弾が飛び交う修羅場にいても、「今どこにいる」「すぐ戻る」と報告してくれるほど、私に安心を与えようとしてくれたのに……
結婚式の前夜、彼は一晩中帰ってこなかった。
そして夜明けに帰ってきたとき、彼は全身に青あざだらけの気を失った女を抱きしめながら、私の前で膝をついた。
「とわちゃん、涼宮遥(すずみや はるか)は俺を助けようとして媚薬を盛られたんだ。俺は、彼女が死ぬのを黙って見ていられない!」
私が許さないと悟ったのか、彼は自分の腕にナイフで六本の傷を刻み、真っ赤な血がシャツを瞬く間に染め上げた。
けれど、結婚式が終わった直後、彼の子分たちの軽口が耳に入った。
「兄貴、婚礼服も脱がないうちにまた涼宮のとこに行く?あの愛人、どんだけ色っぽいんだ?」
蓮は低く、甘く笑った。
「この前は三日三晩、部屋から出られなかった……さて、今回はどうかな?」
雷に打たれたような衝撃。
私の中で、何かが音を立てて崩れた。
「この世界から脱出したい」
思うと、謎のシステムから、冷たい電子音が響いた。
「脱出後、この世界からあなたの存在記録は完全に削除されます。
カウントダウン開始――残り7日」
気がついたら、蓮が大勢の子分たちを連れ、慌ててこちらに向かっていた。
「とわちゃん、ごめん。港市からの緊急連絡があった。今すぐ向かわなきゃ……」
彼はそう言いながら私・星野音羽(ほしの おとわ)を抱きしめ、額にそっと唇を寄せた。
「本当にごめん。戻ってきたら、たっぷり埋め合わせしてあげる」
その唇、何回も涼宮遥とキスしたのだろう。
そう考えつつ、触れられたところを無言で拭いた。
一瞬で、蓮は動揺したように見えた。私の手を強く握り締め、彼は不安そうに口を開いた。
「もしかしたら……怒ってる?
初夜にこうなってるのは酷いと分かってる。けど今は緊急事態だから、どうしても行かなきゃ……」
七年も付き合ってきた目の前のその男、なんだか急に赤の他人のように感じられた。
ついさっき他の女との日々を噛みしめていたのに、次の瞬間、私のことを深く愛しているように演じられるなんて。
「桐生蓮。離婚しよう」
言葉を聞いたとたん、蓮は棒のように立ちすくんだ。傷つけられたように、私を見つめていた。
「とわちゃん、まだ遥のことで怒ってる?
前に一度、俺を庇うために彼女が銃弾に撃たれたんだ。今度も俺のため媚薬を盛られ、放っておけるわけがないんだよ。
そのこと、もう終わったことにするって約束しただろう?今日は俺たちの新婚初夜じゃないか、な?」
言い方は申し訳なさそうだったけれど、結局遥を庇う気持ちが言葉の端々に滲んでいた。
なんだ。今日は新婚の初夜だと覚えてるのか。おかしくて、つい心の中で嗤った。
それにしても、新婚の初夜だというのに、あの泥棒猫に会いに行くなんて、よくもそんなことができるわね。
考えるたび、胸がだんだん苦しくなり、体が思わず震え出した。
しかし私より、やはりラインメッセージの方が優先だった。蓮はスマホを弄りながら、喉仏がごくりと動き、瞳には熱が宿っているように見えた。
その反応は知っている。欲情を掻き立てられるときの、蓮の独特な仕草だ。
ようやく、蓮の視線がスマホから離れた。そっと背中を撫でながら、蓮は優しげに口を開いた。
「ほーらー、もう怒らないで。戻ってきたら、たっぷり埋め合わせしてあげるね」
そう告げて、蓮はそのまま立ち去った。
彼には、もう何も期待できなくなっていた。心が少しずつ離れていくのを感じながら、私はその場に立ち尽くした。
一体どれくらい経ったのだろう。スマホの着信音で、やっと現実に引き戻された。
それは、遥からの写真だった。
いや、違う。それはただの写真ではない。彼女の、妊娠の診断書だった!
それを見たとたん、世界が音もなく崩れ落ちた。
【蓮さんの子ができてしまって……ごめんなさい、とわさん!どうか、蓮さんを私に譲ってください!】
手の震えがどうしても抑えきれない。
この世界に来て三年目のある日、私は蓮を救うために冷たい海に突き落とされ、取り返しのつかない傷を負った。それ以来、母親になることは、もう叶わない。
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