和紙文頼る人がいない · 第1話設定≡

頼る人がいない第1話

この話は約2224字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

医者に、残された時間はあと三日だと告げられた。

急性肝不全。唯一の希望は、極めてリスクの高い臨床試験。それが、私の最後の、そして最もか細い命綱だった。

けれど、夫のデイヴィッドは、そのたった一つの枠を、私の妹で、娘のゴッドマザーでもあるエマに譲ってしまった。

彼女の病状は、まだ初期段階だというのに。

彼は言った。「それが正しい選択だ。彼女の方が、生きるに値するから」と。

私は治療放棄の書類にサインし、医者から処方された高強度の鎮痛剤を服用した。その薬は、私の内臓機能を急速に衰弱させ、死に至らしめるものだった。

心血を注いだ宝石会社とデザイン図をエマに譲渡した時、両親は私を褒めた。「これこそ、いいお姉ちゃんだ」と。

離婚に同意し、デイヴィッドがエマと結婚するのを許した時、デイヴィッドは言った。「やっと、気が利くようになったな」と。

娘にエマを「ママ」と呼ばせた時、娘は嬉しそうに手を叩いて言った。「エマママの方が、優しい良いママだもん!」と。

全財産をエマに与えた時、家族全員が当然のことだと思い、私の異変には目もくれなかった。

私は、ただただ不思議でならない。私の訃報を知った後、彼らはまだ笑っていられるのだろうか?

* * *

医者の同情的な眼差しを受けながら、私は顔を上げて高強度の鎮痛剤を飲んだ。

私の命は、残り三日へとカウントダウンが始まった。

診察室を出て、私はエマの病室へ向かった。

部屋は温かく静かで、両親がエマを囲んであれこれと気遣っていた。

「エマ、ママが作ったケーキ、食べてみて」

「ジュースもたくさん飲んで、ビタミン補給よ」

私が現れると、途端に空気が凍りついた。

「何しに来たの?」

「もう病気のふりが通用しなくなったからって、またエマに迷惑をかけに来たの?」

「ジャスミン、もうこれ以上、エマをいじめさせないわ」

母が私の前に立ち、冷たい声で言った。父も近づいてきて、エマを背後に庇った。

「まさか、ジャスミンみたいな性根の悪い子を産むなんて信じられないわ。最初から産まなければよかった」

私は苦笑した。今までなら、言い争ったり、喧嘩したりしただろう。直接エマの嘘を暴くこともしただろう。

けれど、結果はいつも同じ。誰も味方してくれず、ただ非難されるだけだった。

今や、死を目前にしては、争う意味もない。

「ちょうどいい、来たなら、話がある」父が冷たく言った。

「私が先に話しましょうか」私は笑って遮った。

「会社も、特許も、デザイン図も......エマはずっと欲しがっていたでしょう?全部、彼女にあげるわ」

両親は一瞬呆れ、信じられないといった表情を浮かべた。

「本当に?」

「またエマを陥れようとしてるんじゃないでしょうね?」

私は俯いて、小さく笑った。

「今までは無理にでも奪おうとしていたじゃないの?私が譲らなかった時は、わがままだって言われたわね。今ならあげるよ。要らない?」

母はついに満足そうな笑顔を見せた。「これこそ、いいお姉ちゃんだわ」

「エマは学生時代からデザインの才能があなたよりあったんだから、退院したらきっと会社を北米一にできるわよ」

私は黙って頷き、譲渡契約書を差し出した。エマは目を輝かせ、満面の笑みで、すぐにサインした。そして、私に勝利の眼差しを向けた。

この家では、私がどれだけ努力しても、永遠に敗者だった。

「さあ、ジャスミン、あなたもケーキを一口食べてみて。エマが少しだけ残しておいてくれたものよ」

喉が渇き、無理に頷くしかなかった。

たぶん、全てを譲り渡して初めて、彼らは笑顔で私に話しかけてくれるのだろう。

私は必死に涙をこらえた。

彼らが私の死を知り、エマが何をしたかを知った時も、まだ笑っていられるのだろうか?

少しでも後悔してくれるのだろうか?

私は退院手続きを済ませ、家に戻った。

夫のデイヴィッドと娘が手作りのチョコレートを作っていて、オーブンからはアップルパイの香りが漂っていた。

親子はとても楽しそうで、私が家に帰ってきたことにも全く気づいていなかった。

デイヴィッドは手を洗う時にやっと私に気づいた。そして、その笑顔はたちまち消え失せた。

「どうして戻る前に電話しないんだ?」

私は呆然とダイニングテーブルのカードを見つめた。ピンク色のカード用紙には、端にキラキラしたスパンコールと小さな星が貼られていた。

そこには、優雅な筆跡で二行の文字が書かれていた。

【一番美しいゴッドマザー、エマへ】

【大好きなエマ、いつまでも幸せでいてね!】

署名は娘の名前で、その隣にはデイヴィッドの乱雑だが優しい一言があった。【お前のために焼いたアップルパイ、もうすぐできるはずだよ。つまみ食いするなよ】

私がもうすぐ死ぬというのに、デイヴィッドが料理ができることを初めて知った。

生きている間は、必死に稼ぎながら、家族の衣食住の世話をしていたのに、返ってきたのは嫌悪と小言ばかりだった。

以前なら、私は崩れ落ち、問い詰め、喧嘩しただろう。

今は、何も言わず、ただ寝室に戻り、荷造りを始めた。

「ジャスミン、相談したいことがあるんだ。それは......妹さんのエマのことなんだ」

デイヴィッドが自ら私に話しかけてきた。

「あのさ......エマは手術の後、ずっと体が弱いんだ」

「ご両親が地元でタロット占い師に見てもらったら、エマは結婚しないと良くならないって言われたんだ。今すぐ信頼できる相手が見つからないから、俺が先にエマと結婚してほしいって言われてね」

「エマが早く良くなるようにと願って......」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)