頼みどころ第1話
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藤田彦治との結婚生活七年目、彼の初恋の人が帰国した。
その時、私は気づいた。この家で私は最初から最後まで、ただの代役でしかなかったのだと。
離婚届を出したその日、新幹線の切符を予約した。
唯一気がかりだった息子は、むしろ嬉しそうに言った。
「これでパパは、つづみおばさんを本当のママにできるんだね!」
さすが藤田彦治の子、女性を見る目まで父親そっくりだった。
振り返ることもなく、荷物をまとめて家を出た。
三ヶ月後、娘を連れて歩いていると、偶然彼らと出くわした。
「ママ、どうしてあのお兄ちゃん、ママを見て泣いているの?」
娘が不思議そうに尋ねた。
私は娘の手を引いて、その場を立ち去った。
「知らないわ。見たことのない人よ」
* * *
「今夜帰ってくる?晩ご飯作ったんだけど......」
話が終わらないうちに遮られた。
「つづみが暗いのが怖がるから、一人にはできないんだ」
そう言うと、電話は切れた。
もう二ヶ月、夫と息子に会っていない。
彼の初恋の人が帰国して以来、彼は息子を連れて、山本つづみのために用意したマンションで暮らしている。
「つづみは帰国したばかりで知り合いもいないから、手伝っているだけだよ」
息子の嘱言も眉をひそめて私を見た。
「ママ、そんな身勝手はダメだよ。つづみおばさんが寂しくて困るでしょ」
その真剣な表情は、まるで父親そのもの。
まるで私が悪者であるかのようだった。
黙って荷物をまとめようと階段を上がったところ、背後から息子の不満げな声が聞こえた。
「ママ、もう演技しなくていいよ。パパが言ってた、ママには僕たち以外に身寄りも、行く場所もないって」
藤田彦治も階段を上がってきて、私の後ろに立ち、冷ややかな笑みを浮かべた。
「この何年も、ちゃんとした服も持ってないくせに。誰に見せたいの、その荷物まとめる芝居は」
手が止まった。そうだ、私には行く場所がない。
彼らはみんなそれを知っている。だから、私に何をしても逃げられないと思っているのだ。
「もういい加減にしろ。つづみが戻っても、大人しくしていれば、この家にいられるんだぞ」
藤田彦治は息子を抱き上げ、嘲るような目で私を見て出て行った。
力が抜けたように、ベッドに座り込んだ。
この二ヶ月は、現実を受け入れるための時間だったのかもしれない。誰からも連絡はなく、多くのことが見えてきた。
再び荷物をまとめ、出ようとした時、階下で藤田彦治と鉢合わせた。今日帰ってくるとは知らなかった。
私を見た彼も一瞬驚いたような顔をした。すぐに眉をひそめて言った。
「また何のつもりだ?
今日帰ってくるって分かってたから、また同じ手を使おうとしてるのか?」
藤田彦治は嫌そうに言った。「前に出て行くって言ったじゃないか。まだここにいたのか?」
「森本すず、こういう駆け引きにはもううんざりだ」
面倒くさそうに近づいてきた彼は、プレゼント用の香水を私の前に置いた。
「最近元気がないって聞いて、つづみが気を遣って選んでくれたんだ。
彼女みたいに気が利くようになったらどうだ?
少しは身だしなみを整えて、キッチンの匂いも消した方がいい」
ちらりと私を見て、皮肉を込めて続けた。
「それと森本すず、お前はもう若くないんだから、考えて行動しろ。四歳の子供の母親なんだぞ」
携帯を差し出して言った。「お礼の一言くらい言えよ。これが最低限の礼儀というものだよ」
彼の携帯の待ち受け画面が目に入った。明るく笑う女性は私に似ている。特に目尻の泣きぼくろまで、私と同じ位置にある。
つづ、すず......
全てを悟った。最初から最後まで、私はただの代用品だったのだ。
完全に彼を無視し、荷物を持って出ようとした。藤田彦治は怒りに任せて私の腕を掴み、荷物を放り投げた。
「何を駄々こねてるんだ!」
その勢いで私はバランスを崩し、テーブルの角に腕をぶつけた。香水瓶が割れる音が響いた。
刺激的な香りが鼻を突いた。最近の藤田彦治の香りと全く同じ!
この香水は...表向きの贈り物で、実は当てつけ?私に同じ香りをまとわせ、私が代用品に過ぎないことを思い知らせるため?
「森本すず、お前は本当にけしからん!」
藤田彦治が怒鳴りかけたが、突然声が止まって言った。「血が......出てる」
彼の声には少しの後悔が混じっていた。近寄って私の腕を掴み、じっくりと見始めた。
その時になって初めて痛みを感じた。血がじわじわと滲んでいた。
腕には古い傷跡の上に新しい傷が重なり、一層醜く見えた。それは数年前、火事で藤田彦治を助けた時の傷跡だった。
藤田彦治は慌ててガーゼを持ってきて、傷を包もうとした。
「動くな、わざとじゃなかったんだ。早く止血しないと」
「もういい、見せかけの優しさはいらない......」
言い終わらないうちに、携帯の着信音が鳴った。画面には「つづみ」の文字が表示されていた。
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