和紙文霧が晴れたら、君はいなかった · 第2話設定≡

霧が晴れたら、君はいなかった第2話

この話は約1104字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

辰彦は淡々とした表情で、特に気にも留めない。

「病院でゆっくり休んでいればいい。プレゼントなんて気を使わなくていい」

そう言って、スマホの画面に目をやる。

隣の悠希も唇を尖らせ、興味なさげな様子だ。

その父子の反応をすべて見届け、口の端を上げる。

今は興味がなくても、離婚届を実際に見た瞬間、誰よりも興奮するくせに。

ふと、この父子にとって自分はいったい何なのだろうと知りたくなった。

感情の代用品?家政婦?それとも、ただ同じ屋根の下で暮らす、よく知った他人?

そう思うと、自然と口からその問いがこぼれ出ていた。

最後の言葉を言い終えるか終えないかのうちに、辰彦のスマホから心地よい女性の声が響いている。

「辰彦、早く電話に出て。出ないと怒っちゃうからね!」

美緒ははっとした。

社長である辰彦の着信音は、いつも決まってスマホのデフォルト音だった。

しかし、すぐに気づき、爪が掌に深く食い込む。

これはきっと、辰彦と真理奈が付き合っていた頃に録音した彼女の声で、彼女専用の着信音に設定しているのだろう。

あの無愛想な辰彦にも、こんな甘いことをしていた時期があったなんて。

しかも、六年経った今でも、その着信音を消していない。

おそらくこの六年間、彼はこの音が鳴るのを心待ちにしていたのだろう。

辰彦はためらうことなく、電話に出た。

電話の向こうから、かすかにすすり泣く声が聞こえる。

辰彦は即座に立ち上がり、そばに置いてあったジャケットを手に取ってドアに向かう。

「すぐ行く」

その口調は珍しく優しい。

ドアのところで電話を切り、何かを思い出したようにベッドの美緒を見る。

「友人がトラブルに巻き込まれた。俺が処理してくるから、お前はゆっくり休んでろ」

おそらく、真理奈のもとへ駆けつけたい一心で、自分の嘘があまりにも稚拙なことに気づかなかったのだろう。

一体どんな友人のために、あんな着信音を設定するというのか。

悠希は、辰彦が立ち上がるのと同時に、父の後ろにぴったりとついている。

「ママ、僕もパパと一緒に行きたい」

その時ようやく気づいた。この父子は自分の話を全く聞いていなかったのだと。

真理奈の家から病院に駆けつけた後も、彼らの心にあったのは彼女のことだけ。

スマホを見つめていたのも、彼女からの電話にいち早く気づくためだ。

目を伏せ、静かに「うん」と頷いた。

彼らは答えなかったが、美緒はもう答えを心得た。

父子が去った後、弁護士に電話をかける。

「できるだけ早く離婚協議書を作成して、私に送ってください」

弁護士は事務的に尋ねる。

「では、息子さんの親権はどうなさいますか?」

「いりません」

静かに告げる。

「杉山家に関する人や物は、何もいらないわ」

今欲しいのは離婚だけ。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)