霧が晴れたら、君はいなかった第2話
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辰彦は淡々とした表情で、特に気にも留めない。
「病院でゆっくり休んでいればいい。プレゼントなんて気を使わなくていい」
そう言って、スマホの画面に目をやる。
隣の悠希も唇を尖らせ、興味なさげな様子だ。
その父子の反応をすべて見届け、口の端を上げる。
今は興味がなくても、離婚届を実際に見た瞬間、誰よりも興奮するくせに。
ふと、この父子にとって自分はいったい何なのだろうと知りたくなった。
感情の代用品?家政婦?それとも、ただ同じ屋根の下で暮らす、よく知った他人?
そう思うと、自然と口からその問いがこぼれ出ていた。
最後の言葉を言い終えるか終えないかのうちに、辰彦のスマホから心地よい女性の声が響いている。
「辰彦、早く電話に出て。出ないと怒っちゃうからね!」
美緒ははっとした。
社長である辰彦の着信音は、いつも決まってスマホのデフォルト音だった。
しかし、すぐに気づき、爪が掌に深く食い込む。
これはきっと、辰彦と真理奈が付き合っていた頃に録音した彼女の声で、彼女専用の着信音に設定しているのだろう。
あの無愛想な辰彦にも、こんな甘いことをしていた時期があったなんて。
しかも、六年経った今でも、その着信音を消していない。
おそらくこの六年間、彼はこの音が鳴るのを心待ちにしていたのだろう。
辰彦はためらうことなく、電話に出た。
電話の向こうから、かすかにすすり泣く声が聞こえる。
辰彦は即座に立ち上がり、そばに置いてあったジャケットを手に取ってドアに向かう。
「すぐ行く」
その口調は珍しく優しい。
ドアのところで電話を切り、何かを思い出したようにベッドの美緒を見る。
「友人がトラブルに巻き込まれた。俺が処理してくるから、お前はゆっくり休んでろ」
おそらく、真理奈のもとへ駆けつけたい一心で、自分の嘘があまりにも稚拙なことに気づかなかったのだろう。
一体どんな友人のために、あんな着信音を設定するというのか。
悠希は、辰彦が立ち上がるのと同時に、父の後ろにぴったりとついている。
「ママ、僕もパパと一緒に行きたい」
その時ようやく気づいた。この父子は自分の話を全く聞いていなかったのだと。
真理奈の家から病院に駆けつけた後も、彼らの心にあったのは彼女のことだけ。
スマホを見つめていたのも、彼女からの電話にいち早く気づくためだ。
目を伏せ、静かに「うん」と頷いた。
彼らは答えなかったが、美緒はもう答えを心得た。
父子が去った後、弁護士に電話をかける。
「できるだけ早く離婚協議書を作成して、私に送ってください」
弁護士は事務的に尋ねる。
「では、息子さんの親権はどうなさいますか?」
「いりません」
静かに告げる。
「杉山家に関する人や物は、何もいらないわ」
今欲しいのは離婚だけ。
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