雲の如く、自由な空へ第1話
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小野寺司(おのでら つかさ)の誕生日、彼の「欲しい」という一言に応えるため、古泉雫(こいずみ しずく)は映画館の暗闇の中で、一糸まとわぬ姿になった。
しかし、革ベルトで椅子に縛り付けられた雫を残し、司は女秘書からの電話一本で、振り返ることもなくその場を去っていった。
雫は、そのあまりにも屈辱的で無様な格好のまま、夜が明けるまで拘束され続けた。
一晩中もがき続け、手首が血に染まるほど擦れて、ようやくベルトを解くことができた雫は、命からがら家へと辿り着いた。
だが、ボロボロになりながら帰宅した雫を待ち受けていたのは、リビングに集まった大勢の来客と、大型モニターに映し出された――映画館で見知らぬ肥満男と情を交わす、彼女自身の淫らな映像だった。
目を凝らせば、それがAIによって精巧に作られた動画であることは明らかだ。
* * *
小野寺司(おのでら つかさ)の誕生日、彼の「欲しい」という一言に応えるため、古泉雫(こいずみ しずく)は映画館の暗闇の中で、一糸まとわぬ姿になった。
しかし、革ベルトで椅子に縛り付けられた雫を残し、司は女秘書からの電話一本で、振り返ることもなくその場を去っていった。
雫は、そのあまりにも屈辱的で無様な格好のまま、夜が明けるまで拘束され続けた。
一晩中もがき続け、手首が血に染まるほど擦れて、ようやくベルトを解くことができた雫は、命からがら家へと辿り着いた。
だが、ボロボロになりながら帰宅した雫を待ち受けていたのは、リビングに集まった大勢の来客と、大型モニターに映し出された――映画館で見知らぬ肥満男と情を交わす、彼女自身の淫らな映像だった。
目を凝らせば、それがAIによって精巧に作られた動画であることは明らかだ。
「意外ですね。普段はあんなに清楚で上品な雫さんが、裏ではいやらしい遊びをなさっているなんて」
秘書の西内美咲(にしうち みさき)は司に寄り添い、わざとらしく甘えた声を出した。
「社長、奥様とは結婚して五年間、一度も夜を共にしたことがないと伺いましたけど、それってもしや……」
美咲が言い終える前に、司はその体を抱き寄せた。薄い唇が侵略的とも言えるほど迫ったが、理性に縛られるように、美咲の唇のすぐ傍に、キスを落とした。
彼の黒い瞳には情欲が渦巻き、含みのある声で囁いた。
「五年間、あいつに指一本触れなかった理由は、君がいるからだ」
その一言で、場にいた人々は一斉に騒ぎ出した。
雫はそのおぞましい光景を目の当たりにし、玄関にあったアンティークの花瓶を力任せに叩き割った。
一瞬にして室内は静まり返った。雫は目を真っ赤に腫らし、花瓶の破片を踏みつけながら中へと歩を進めた。
彼女はスクリーンを指差し、枯れた声を絞り出した。
「あなたが、やったの?」
しかし、美咲は恐れる様子もなく、勝ち誇ったように笑った。
「奥様、社長を責めないでください。あの動画は……私が作ったんです」
そして、わざとらしく言葉を付け加えた。
「でも、素材を提供してくださったのは社長ですわよ」
再び沸き起こる嘲笑の中、雫の表情はますます険しくなっていった。
司は美咲をかばうように自分の背後に引き寄せると、冷徹な眼差しを雫に向け、軽々しく言った。
「美咲はまだ若くて遊びたい盛りだ。このAI動画、ただの悪ふざけに過ぎない。
そこまで目くじらを立てる必要がないだろう?」
雫はあまりの言い草に失笑した。鼻の奥がツンと痛み、激しい悲しみがこみ上げてきた。
彼女の声は震えていた。
「悪ふざけ?なら、彼女の顔をAIでアダルト動画のヒロインに差し替えるのはどうでしょうか?」
司の顔が瞬時に険しくなった。彼は雫に向かって大股で歩み寄った。
初めて自ら雫に伸ばした手は、情愛ではなく、彼女の襟元を力任せに掴むためのものだった。
「雫、貴様……やれるものならやってみろ」
司の瞳に宿る剥き出しの殺気は、氷の楔となって雫の心臓を深く突き刺した。
美咲は司の背後に隠れ、いかにも無実だと言わんばかりの表情を浮かべた。
「奥様、どうしてそんなに私を嫌うのですか?
昨夜、映画館で社長と楽しんだあの『プレイ』は私が提案したものですが、悪気はなかったんです。
社長が奥様を嫌っているからこそ、私を口実にして、全裸の奥様に触れることさえ拒んだのでしょうに」
雫の心は極限まで冷え切った。彼女は司の手を振り払い、傍らにあったスマホを手に取って電話をかけた。
背後からは司の氷のように冷たい脅し文句が響いた。
「言ったはずだ、美咲はただの冗談だとな。もしどうしても通報すると言うなら、この動画を京川市の人間にバラまいても構わないんだぞ」
そう言い捨てると、司は美咲を連れて部屋を出ようとした。
雫とすれ違いざま、美咲はわざとらしく口を開いた。
「社長、そんなに優しくしないでください。奥様がまた怒ってしまいますわ」
司の態度は依然として硬く、雫について語るその口調は、まるで縁もゆかりもない他人について話しているかのようだった。
「あいつは名ばかりの妻だ。俺が求めてるのは、最初からあいつじゃない。
美咲、あの時、M国の暴動から命懸けで俺を救い出してくれたのは君だ。
俺の体も、命も、すべて君のものだ」
過去の出来事を口にする彼を背に、雫が瞬きをすると、堪えていた涙がスマホの画面に音もなく落ちた。
それと同時に、雫がかけた海外の電話がつながった。
スマホの向こうから、男のからかうような声が聞こえてきた。
「おや、M国で助けた男といちゃつくのに忙しいんじゃないのか?俺に電話なんて、何の用だ?」
雫の声には、隠しきれない疲弊と決意が滲んでいた。
「そこは、まだ人手が足りていないわよね?
……急いで彼との関係をすべて断ち切ってから、そちらへ向かうわ」
雫はカレンダーを見上げた。
七日後の日付には、丁寧に赤い印がつけられている。その日は、彼女と司の五周年の結婚記念日だ。
「七日後のフライトよ。必ず、時間通りに行くわ」
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