離婚の先で、幸せを見つけました第3話
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下腹部に走った鈍い痛みで、すぐに我に返った。私は何も言わず、司の腕を避けた。
「忘れたの?きつい香水は苦手なの」
司の服から、絵麻がいつも使っている香水の匂いがした。
笑みをこわばらせた司は、慌てて上着を脱いだ。
「今日の会食に香水のきつい女性がいたんだ。席が近かったから、そのときについたのかもしれない。すぐ着替えるよ」
もう問いただす気力もなかった。私は背を向け、ベッドへ横になった。
司はしばらくクローゼットで待っていた。いつものように私が着替えを用意しに来ると思っていたのだろう。
やがて、苛立った声が飛んできた。
「今日は何なんだよ。さっきから不機嫌な顔ばかりして。香水の匂いくらいで、いちいち疑うなよ」
吐き捨てるように言って、部屋を出ようとした司の足が止まった。
廊下では、澄江が血の付いた部屋着のズボンを片づけようとしていた。
司の表情が変わった。澄江の腕をつかみ、問い詰めた。
「これ、美桜のだろ。どうしてこんなに血が付いてるんだ?」
澄江が答えに詰まると、司はズボンを奪い、寝室へ戻ろうとした。
そのとき、聞き覚えのある着信音が鳴った。絵麻からの電話だ。
画面を見た途端、司の顔色が変わった。
「美桜、悪い。どうしても行かなきゃならない」
司は血の付いたズボンをソファへ放り出すと、上着だけをつかんで、そのまま家を飛び出していった。
こんな時間でも、絵麻から呼ばれれば迷わず駆けつける。私が何を失ったか確かめようともせずに。
澄江が心配そうに私を見た。私は照明を消してもらい、そのまま目を閉じた。
……
朝になっても、隣に司はいなかった。
午前中、神崎家の前当主、神崎静江(かんざき しずえ)から、神崎邸へ来てほしいと連絡があった。
リビングへ入ると、背筋を伸ばして立つ司が見えた。その隣では、絵麻が泣いていた。
私に背を向けたまま、司は静江へ詰め寄っていた。
「晃は、絵麻を幸せにすると約束して結婚したはずです。それなのに、妊娠している絵麻を放って、ほかの女性との関係まで続けている。これが神崎家のやり方ですか?」
司は声を低くし、絵麻の肩を抱いた。
「このまま絵麻を傷つけるなら、藤堂家と神崎家の関係がどうなろうと、俺が連れて帰ります」
息が止まりそうになった。
使用人たちは気まずそうに目を伏せていた。中には、私の反応をうかがう者もいた。
覚悟していたはずなのに、目の前で絵麻を抱く姿を見ると、胸の奥が鈍く痛んだ。
静江は私に気づくと、司へ淡々と尋ねた。
「絵麻さんを守ることばかり考えているようだけれど、あなたにも妻がいるでしょう。一ノ瀬家の美桜さんと結婚するために、ずいぶん尽くしたと聞いているわ。あれほど仲のいい夫婦を演じておいて、美桜さんには何の気持ちもないの?」
私はその場に立ち尽くし、司の背中を見つめた。
司は私がいることに気づかない。絵麻をさらに強く抱き寄せ、ためらいもなく答えた。
「晃が一方的に美桜との婚約を破棄して絵麻を選べば、一ノ瀬家は黙っていない。絵麻を神崎家へ迎えるのも難しくなる。ただ、美桜が自分から身を引けば話は別だ。そう言ったのは、あなたでしょう。
だから俺は、一ノ瀬家を納得させるために、美桜を愛しているふりをして結婚したんです。すべては、絵麻が晃と結婚できるようにするためだったんですよ」
そう言い切ったあと、司は絵麻を抱いたまま振り返った。
私を見た瞬間、彼の顔から血の気が引いた。
「美桜……」
彼は唇を動かしたものの、その先の言葉は出てこなかった。
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