離婚で百円の賠償しか受け取れなかったのに、私は逆に得をした第3話
この話は約1757字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
翌朝、目が覚めるとすぐに永瀬優太から電話が来た。「今日は老人ホームで両親の世話をする日だぞ。怒ってるからって、さぼるなよ」
優太は親孝行な息子で、両親は最高級の老人ホームに入居しているにもかかわらず、「子供は親の面倒を自分で見るべきだ」の一言で、私に三年間も両親の世話をさせた。その間、私自身の実家に帰る時間なんて、年に指で数えるほどしかなかった。
「ええ、分かってるわ」私は虚ろな声で答え、電話を切って一人で老人ホームへ向かった。
「まあ、看護師さん、ほら、葵ちゃんって綺麗でしょう?この子が私の将来の息子の嫁なのよ!」私が煮立てのチキンスープを持って病室に入ると、義母は看護師の手を引き、テレビに映る久藤葵の顔を指差しながら得意げに話していた。
看護師は目を輝かせて「本当にご結婚されるんですか?」
「もちろんですとも!」義父母が声を揃えて答えた。
私の足が止まり、胸に鋭い痛みが走る。目の奥の痛みを押し殺しながら、小さな声で呼びかけた。
「お父さん、お母さん」
私の声を聞いた途端、義父母の表情が一変した。
看護師は私の方を不思議そうに見て「毎日いらっしゃるこの方は......」
「うちの義理の娘よ!」義母が慌てて遮った。
看護師は納得したように「お姉さん、優太さんの妹さんになれるなんて、本当に幸せですね!」と羨ましそうな顔で言いながら出て行った。
私は唇の端を引き上げようとしたが、どうしても笑顔が作れなかった。
ドアが閉まるや否や、義母の声が急に鋭くなった。
「陽菜、来る時は声をかけなさいよ。年寄り二人を驚かせて、どうするつもり?」
「お二人があんなに楽しそうにお話されてたので、邪魔するのが申し訳なくて」私は無理に笑顔を作って答えた。
「今日はチキンスープを作ってきましたけど、召し上がってみてください」
スープを義父母に差し出した瞬間――
「ぺっ!」義父は一度匂いを嗅いだだけで、碗を叩きつけた。熱いスープが私の手にかかり、痛みで目に涙が滲んだ。それなのに二人は言い放った。
「このスープは何なんだ、こんなにくどい味で!陽菜、お前は料理まで下手になったのか。一体何の役に立つんだ!」
「次は作り直してきます」痛みを堪えながら、床の散らかりを片付けた。
全身に深い無力感が押し寄せてきた。この三年間、雨の日も風の日も欠かさず介護をしてきたことが、まるで水の泡のように感じられた。
義両親のマッサージを終えて帰ろうとした時、二人の本当の気持ちを確かめたい一心で、最後の望みを託して質問を投げかけることにした。
「お義父さん、お義母さん。優太が久藤さんと結婚式を挙げるって、ご存知ですか?」私は笑顔を作って尋ねた。
「本当なの?」
その言葉が終わるや否や、義父母は歓声を上げた。
「それは素晴らしいわ!」
心の中では予想していたとはいえ、胸が痛んで仕方なかった。「でも、私が彼の妻なのに......」
「図々しいことを!」義父は眉をひそめ、冷笑を浮かべた。
「最初から二人の仲なんて認めていなかったのよ。これまでさんざん優太の血を吸ってきたでしょう。いい加減、分別をわきまえて、優太から手を離しなさい」義母は顔を曇らせ、いらだたしげに言い放った。
血を吸う?
義父母の意地の悪さは分かっていたつもりだったが、その言葉を聞いた時、私の体は震えが止まらなくなった。
結婚して三年、私は優太に一銭も求めたことはなかった。彼も私のために金を使うことはなく、日々の生活費さえ全て私が支払ってきた。
雨の日も風の日も義父母の世話を欠かさず、優太のために洗濯も料理もしてきたのに、結局「血を吸う者」というレッテルを貼られる始末。
今になってようやく気付いた。永瀬優太のこの冷たさと無情さは、まさに家族から受け継いだものだったのだと。
三年分の真心を注いでも義父母の心は動かせず、永瀬の心さえも溶かすことはできなかった。
向かい側では義父母がまだ延々と文句を言い続け、さらには私に用を言いつけ、おまるの世話までさせようとしていた。
私は虚ろな様子で体を翻し、後ろで罵る義父母の声を無視して、振り返ることなく立ち去った。
老人ホームを出ると、遠くで少しずつ暗雲を払いのける陽の光が目に入った。深く息を吸い込んで、電話をかけた。
「もしもし、お時間よろしいでしょうか。
......決心がつきました」
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