降る雪を、君と並んで浴びたなら第3話
この話は約1599字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
二通のメッセージが届いていた。一つは画像、もう一つは短いテキストだった。
写真の中の一聖は燕尾服姿で、若い女性の手を取ってダンスを踊っていた。その女性の顔は、かつての藍里の生き写しだった。
全身が凍りついた。震える指でスクロールすると、残酷な文章が目に飛び込んできた。
【彼、毎年のパートナーは私にするって約束してくれたよ】
深夜、一聖が帰宅した。藍里はパジャマ姿でベッドの端に腰かけ、静かに一聖を見上げた。
「今日、会社のチャリティーパーティーがあったんでしょう? どうして私を連れて行ってくれなかったの?」
一聖はジャケットを脱ぎながら、藍里をろくに見もせずに答えた。「別に連れて行く必要もないだろ。家で休んでいればいい」
そのまま、ためらいもなく浴室へ向かう。まるで何でもないことのように。
——それは、一聖がかつて立ててくれた、若き日に彼がくれた、最も真摯な約束だったはずなのに。
胸が痛みと切なさでいっぱいになった。あのメッセージを突きつけて問い質したかった。けれど、みじめなことに、自分には勇気がないと気づいてしまった。
怖かったのだ。隠していたすべてを明るみに出してしまえば、もう二度と元には戻れなくなることが。
シャワーを終えた一聖が出てきたとき、藍里はすでに背を向けて横たわっていた。これ以上話すつもりはないという、無言の意思表示だった。一聖の目に、何か複雑な感情がよぎった。
目が覚めると、隣に誰もいなかった。
黙ってベッドを降りると、突然スマホが鳴り響いた。
電話に出ると、母・宮園幸恵(みやぞの ゆきえ)の焦燥の混じった声が聞こえてきた。「藍里、おばあちゃんが心臓発作を起こして危篤なの。早く顔を見に来なさい。それと、後の手配はあんたがやりなさいよ」
藍里の頭の中で、雷が落ちたような衝撃が走った。まだ状況を飲み込めないうちに、母はもう電話を切っていた。
子どもの頃からずっと、両親は弟ばかりを可愛がった。そんな中で、祖母だけがいつも藍里を深く愛してくれた。宮園家でただ一人、藍里の味方でいてくれた人だった。
この前会ったとき、祖母は「一聖を連れて会いに来てね」と笑っていた。でも、一聖が忙しいからと言い訳をして、ずるずると先延ばしにしてしまったのだ。まさかあれが最後になるなんて、思いもしなかった。
手が震えた。藍里は急いで一聖に電話をかけた。
何度もコールが続いて、ようやく繋がった。電話口から、冷ややかな声が返ってきた。「なんだ?」
冷たさを気にしている余裕はなかった。涙声で、必死に訴えた。「おばあちゃんが病院で……もう長くないって……」
少しの沈黙があった。「先に行ってくれ。すぐ来る」
電話を切り、藍里は急いで病院へ向かった。
一方その頃、一聖は秘書を呼んでいた。「今日の午後の予定をキャンセルして、三日後に延ばせ」
秘書が驚愕に目を見張った。「しかし社長、あのお相手は……」
「言われた通りにしろ」静かに、しかし有無を言わせない口調で一聖は遮った。
父も母も来ていなかった。弟の食事の支度があるからと、病院に顔を出そうともしなかったのだ。
でも今は、両親のことを責める余裕すらなかった。ベッドの傍に立った瞬間、骨と皮だけになった祖母の姿を目にして、涙が止まらなくなった。
ベッドの脇に膝をつき、その細い手を握りしめた。「おばあちゃん、藍里だよ。会いに来たよ」
祖母はもう長くなかった。言葉はほとんど出てこなかったけれど、藍里の顔を見た途端にほっとしたように涙をこぼした。皺だらけの手が、力の限り握り返してくる。
喉の奥から、絞り出すように言葉が漏れた。「……藍里……一聖は……ふたりで……仲良く……ね……ちゃんと……仲良く……」
藍里は涙を流しながらうなずいた。祖母がいちばん心配しているのは、藍里自身の幸せだということ、痛いほどわかっていた。
「おばあちゃん、大丈夫。私たち、ちゃんと仲良くやってるよ。一聖もすぐ来るから」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
T72759- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。