和紙文闇の果て、無期の別れ · 第1話設定≡

闇の果て、無期の別れ第1話

この話は約2986字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結婚の翌日、二人は早くも離婚届受理証明書を手にした。神崎雪乃(かんざき ゆきの)の五年間の献身が換えたものは、高遠怜司(たかとお れいじ) の隣で微笑む別の女の姿だけだった。

雪乃がミントアレルギーだと知ると、怜司はミントの香水を全身に浴びる。

怜司の友人に階段から突き落とされ、重傷を負い意識不明に。目覚めた雪乃に対し、怜司は薄ら笑いを浮かべ、警察に通報しないのなら願いを一つ叶えてやると言った。

地震が起きた時、かつて雪乃を深く愛したはずの男は別の女の手を引いて逃げ出し、雪乃一人が死を待つことになった。

こうなっては、彼女は去るしかない。

* * *

結婚の翌日、二人は早くも離婚届受理証明書を手にした。神崎雪乃(かんざき ゆきの)の五年間の献身が得えたものは、高遠怜司(たかとお れいじ) の隣で微笑む別の女の姿だけだった。

雪乃がミントアレルギーだと知ると、怜司はミントの香水を全身に浴びた。

怜司の友人に階段から突き落とされ、重傷を負い意識不明。目覚めた雪乃に対し、怜司は薄笑いを浮かべ、警察に通報しないのなら願いを一つ叶えてやると言った。

地震が起きた時、かつて雪乃を深く愛したはずの男は別の女の手を引いて逃げ出し、雪乃一人が死を待つことになった。

こうなっては、彼女は去るしかない。

……

怜司と雪乃は結婚式の翌日、すべての家族に隠れて離婚届受理証明書を手にした。

新婚の夜、怜司はセクシーなバニーガールの格好をした雪乃を冷たく突き放した。「お前は必死になって俺に嫁いだが、一体何の目的がある!」

怜司は雪乃を寄せ付けなかった。

雪乃がただ穏やかに話し合おうとするだけで、怜司は火がついたように怒り出した。

雪乃がミントアレルギーだと知ると、怜司は意地の悪い笑みを浮かべ、家政婦に全ての料理にミントを入れるよう命じた。

怜司の寝室、書斎、バスルーム、果ては香水に至るまで、雪乃にとっては命取りとなるミントの香りで満たされた。

ある使用人が見かねて、恐る恐る注意した。「旦那様、奥様は重度のミントアレルギーで……毎日抗アレルギー薬を飲み、夜も眠れていないご様子です……」

怜司は不機嫌に眉をひそめ、持っていたファイルをその使用人に向かって思い切り投げつけた。「いつからお前が俺に説教するようになった!」

使用人の額は切れて血が流れ、翌日には解雇された。

それ以来、使用人たちは口を閉ざし、誰も怜司に逆らおうとはしなくなった。

雪乃は何度も自分に言い聞かせた。怜司は交通事故で記憶を失い、二人のことをすべて忘れてしまっただけなのだと。怜司がしていることはすべてわざとではないのだと。

しかし結婚五年目、九百錠目のアレルギー薬を飲んだ時、山積みになった薬の空シートを見て、雪乃はふとこんな生活に嫌気が差した。

朝の三時に起きて一緒に日の出を見つめ、二人でペアリングを作り、海外の新聞のトップを一緒に飾った。そんな怜司はもうあの交通事故で死んでしまったのだ。

怜司が雪乃を不快がらせるためにミントの香水を手につける時、雪乃はいつも過去のことを思い出す。怜司が初めて雪乃に高価な国外のミントアイスクリームを食べさせてくれた時、彼女は全身に発疹が出て病院に救急搬送され、怜司が目を真っ赤にして心配してくれたことを。

怜司は心から痛ましそうな目で、点滴を受ける雪乃に付き添った。「ごめん、雪乃。君がミントアレルギーだなんて知らなかった。これからは二度とこんなミスはしないよ」

雪乃が高遠家を出ようとした時、普段の外出と変わらず、何も持たなかった。

屋敷の門を出る前に、スマホが鳴った。

雪乃は仕方なく門の両側で赤く点滅する監視カメラを見上げ、電話に出た。「弦蔵おじいさん」

電話の向こうから、怜司の祖父である高遠弦蔵(たかとお げんぞう)の申し訳なさそうな声が聞こえた。「雪乃、また怜司と口喧嘩かね?」

雪乃は乾いた笑いを浮かべた。

口喧嘩?

「口喧嘩するほど仲がいい」なんて言えるのはお互いが愛し合っているからこそだ。ここでは、雪乃に言葉を発する権利すらなかった。

「弦蔵おじいさん、私はもう努力しました……」

「いい子だ、もう少しだけ辛抱してくれんか。あの子は昔、お前と一緒になるためなら、この家と縁を切るのも厭わなかった。お前と地下室に一年も暮らし、おまけに敵の恨みを買って報復され、体まで壊してしまったんじゃ。

何も、お前の家柄のことを責めているわけではないんじゃ。ただ、もう少しだけ辛抱してほしいんだ。怜司は悪い子じゃない。いつかきっと、二人のことをすべて思い出してくれる」

雪乃は怜司の記憶が戻ることが非常に困難だと知っていた。

彼女はもう二十八歳だ。こんな実態のない結婚生活にこれ以上人生を食いつぶされるのは、もうごめんだった。

雪乃の今回の決意が固いことを感じ取ったのか、弦蔵は歯を食いしばり、魅力的な条件を提示した。「雪乃、あと一週間だけ待ってくれ。一週間経っても怜司の記憶が戻らなければ、二百億円をやろう。それでどこへなりと行くといい」

その日の夜、二百億円が雪乃の口座に振り込まれた。

後ろに続くゼロの列を数えながら、雪乃は結婚以来、初めて心からの笑顔を見せた。

雪乃は孤児だったが、努力して名門大学に入り、怜司と出会った。

怜司が雪乃にアプローチした時は、誰もが知る派手なものだった。

その頃の雪乃は目の前の御曹司を考えるまでもなく拒絶した。

彼女にとって、このような御曹司は遊び惚けているだけで、まともなことをする人間ではなかった。

だが、怜司は行動で自分が他の連中とは違うことを示した。

雪乃が海が見たいと言えば、怜司はプライベートジェットで海の上空に連れ出し、思う存分、自由な風を肌で感じさせてくれた。

雪乃が雪山に登りたいと言えば、怜司は十人ものガイドを雇い、万全の体制で彼女を頂上へと導いてくれた。

付き合い始めてからは、M国の雪原で固く手を繋いで互いの名前を雪に刻んだ。

海外でのキャンプファイヤーでは、互いにすべてを曝け出すように、夜が明けるまで語り合った。

怜司は雪乃を心から尊重していた。何度も腕の中で眠る夜があっても、彼は決して一線を越えなかった。

雪乃が「新婚の夜に、初めてあなたの人になりたいの」と言った、ただその一言を守るためだった。

雪乃と一緒になるため、怜司は家族との絶縁も厭わなかった。高遠家は怜司の全ての銀行口座を凍結し、各方面に手を回して彼が一切の仕事に就けないようにした。

その頃、怜司は雪乃と薄暗く狭い地下室で寄り添い、自責の涙を流し、必ず金を稼いでこの苦境から抜け出すと誓った。

二人は互いの温かい手を固く握りしめたまま、役所で婚姻届受理証明書を手にした。

シャッターが切られた瞬間、二人の最も真摯な笑顔が記録された。

その時、二人は心の中で必ず相手を幸せにすると誓った。

しかしその後、怜司は恨みを買って報復され、大型トラックにはねられ血の海に倒れ、全身を何ヶ所も骨折した。

怜司の母である高遠冴子(たかとお さえこ)は集中治療室の外で泣き崩れ、怜司が目覚めさえすれば、すぐ二人に盛大な結婚式を挙げさせると言った。

雪乃は役所で撮った記念写真を見つめた。指先で、そこに写る愛情に満ちた怜司の笑顔をそっとなぞると、胸の奥が鈍く痛んだ。

階下から突然、車のエンジン音が響いた。雪乃は涙を拭い、いつもと違い、部屋のドアに内側から鍵をかけた。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)