遠距離恋愛の末、七年間付き合った彼と別れた第3話
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すると、蒼生は逆ギレしたように声を荒げた。
「あのな、空港にいったのになんで言ってくれなかったんだ? 俺をからかうのが楽しいのか?
彼女は同じ専攻の留学生なんだ。到着時間がだいたい同じだったから、一緒に帰る約束をしただけだ。それの何が悪い?」
私はもう一度、問い詰めた。
「……なんで、キスしたの? 彼女に」
蒼生は眉間を揉み、限界まで疲れ切ったように息を吐いた。
「海外じゃ、あれくらい普通の挨拶なんだよ。
三ヶ月ぶりに会ったのに、顔を合わせた瞬間からいきなり責め立てられて……まるで俺が大罪でも犯したみたいじゃないか。意味わかんない。
俺だって人間なんだよ。疲れるときくらいある……お前のそんなわがままを、いちいち受け止めてやる余裕なんてないんだよ!」
怒鳴り声が鼓膜を揺らし、心臓が止まりそうになった。
「それに」
蒼生は深呼吸して怒りを鎮めようとした。
けれど、眉間のしわは深く刻まれたままで、声だけが急に冷たくなる。
「由紀さんはお前とは全然違う。頭もいいし、勘も鋭い。何より、人の気持ちがわかる。視野だって広い。
少なくとも、お前みたいに……こんな些細なことでいつまでも拷問みたいに俺を責めたりしない」
彼は手にしていたものを、バンッとテーブルに叩きつけた。
「お前と喧嘩するために帰ってきたんじゃない!少し頭を冷やせ!」
そう言い捨てると、ドアを乱暴に閉めて出ていった。
テーブルに残されたお土産の小さな人形を見つめ、私は深く息を吸った。
それを掴み、ゴミ袋に思いっきり投げ込んだ。
たぶん、今の私は、どんな時より冷静だった。
蒼生が小林由紀(こばやし ゆき)のことを口にするときの、あの称賛と好意に満ちた口調……何度も聞いたことがある。
昔は、同じ声で私を褒めてくれたんだから。
ちょうどそのとき、先生から返信が届いた。
【坂本さん、大学側と確認を取りました。変更申請自体は可能です。
ただし一度変更すると、元には戻せません。F国で本当に大丈夫ですか?
以前は絶対M国に行くと言っていましたよね】
今回の選択が何を意味するのか、私自身が一番よくわかっている。
何の躊躇いもなく、すぐに打ち返した。
【はい、先生。決めました。もう変えません】
すぐに新しい申請フォームが送られてきて、できるだけ早くオンラインで変更手続きを済ませるよう念を押された。
しまった。
パソコンは、図書館で試験勉強している親友に貸していたんだ。
急がないと。
そう思って私は涙を拭い、タクシーで図書館へ向かった。
親友のところで変更申請を済ませ、帰ろうとしたとき、不意に呼び止められた。
彼女は私のバッグについているキーホルダーを指さした。
「これ、国際空港で買ったんでしょ?妹が帰国した時、同じのを買ってきてくれたんだ」
私はハッとして立ち尽くした。
それも蒼生にもらった「お土産」の一つだったからだ。
何も考えないまま、首を横に振る。
「違うよ。これ、手作りなんだって」
「えー、そうなのかな」
親友は首を傾げた。
「これ、空港で売ってる記念品よ。小さい惑星とか、飛行機とか、人形とか……シリーズになってるの。
妹、毎回買ってくるから、私もうほとんど揃ってるもん」
彼女が言えば言うほど、私の心が沈んでいく。
私はSNSの投稿写真を開き、これまで自慢げに載せていた「手作りのお土産」の写真を一枚ずつ彼女に見せた。
それを見た親友は、ますます確信したように言う。
「ほら、やっぱそれじゃん! しかも一番安い部類のやつ!
それに、縁がこんなにきれいに整ってるし、どう見ても手作りじゃないって!」
……そうか。
私が最後の最後まで信じていた、あのほんの一欠片の真心さえ。
全部、嘘だったんだ。
どうにか笑顔を作って何か言おうとしたが、目頭が熱くなって、涙が勝手に溢れてきた。
振り向く暇すらなかった。
親友は慌てて立ち上がり、私を慰めようとした。
首を振って「大丈夫」とだけ言い、逃げるように図書館を後にした。
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