遠ざかる星、届かぬ風第1話
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【策を尽くしたところで、運命の気まぐれには敵わない】
婚約者・寒河江風馬(さがえ ふうま)の浮気を確認したとき、ちょうどスマホの画面にそのようなスレッドが流れてきた。
私は静かにその画面をタップし、裏切り話が並ぶコメント欄を開いた。冷え切った指先で、数行のコメントを綴った。
【どれほど皮肉な話かって?
同僚が旅先で何気なく撮った写真が、インスタに流れてきたの。そこに映る何千何万という人々の中で、彼と私の親友が寄り添っている。
挙式を三日後に控えた今、私は飛行機の深夜便で、現場を押さえに来ている】
* * *
【策を尽くしたところで、運命の気まぐれには敵わない】
婚約者・寒河江風馬(さがえ ふうま)の浮気を確認したとき、ちょうどスマホの画面にそのようなスレッドが流れてきた。
私は静かにその画面をタップし、裏切り話が並ぶコメント欄を開いた。冷え切った指先で、数行のコメントを綴った。
【どれほど皮肉な話かって?
同僚が旅先で何気なく撮った写真が、インスタに流れてきたの。そこに映る何千何万という人々の中で、彼と私の親友が寄り添っている。
挙式を三日後に控えた今、私は飛行機の深夜便で、現場を押さえに来ている】
書き込みを終え、スマホの画面を閉じた。待ち受け画面に表示されているのは、私と風馬のウェディングフォトだ。
ホテルの白々とした壁にもたれかかり、私は疲れ果てて目を閉じた。
部屋の中から聞こえていた狂おしく激しい喘ぎが完全に止むのを待ってから、表情の読み取れない顔で、婚約指輪のはまった指を使ってドアをノックした。
「誰だ?」
風馬は上半身裸のままドアを開けた。
私はその体を押しのけるようにして、中へ入った。
ベッドの上にいる武林唯(たけばやし ゆい)は呆然と固まり、どう振る舞えばよいのか分からずにいる。
「星奈……」
「星奈、これは全部、俺が無理やりさせたことなんだ!文句があるなら俺に言え!唯を傷つけるのはやめてくれ!」
風馬は身を挺して唯を抱きしめた。彼女の顔立ちは整っており、紛れもなく美人だ。
二人はまるで世界の終わりを前にして、互いの存在を体に刻み込もうとする悲劇の恋人たちのようだ。
私は薄暗がりの中に立ち尽くし、生臭い匂いを嗅ぎながら、虚ろな表情でその光景を見つめている。
怒鳴ることも、泣き叫ぶこともしなかった。ただ、この瞬間を心に深く刻み込んだ。
自分に言い聞かせた。振り返ってはいけない、許してはいけない、と。
スマホのメールボックスにずっと眠っていた、ヨーロッパ赴任の打診を開いた。
ちょうど今日は回答の締め切り当日。私は震える指で【受け入れます】と返事を送った。
今日という日を境に、私にとって最も大切だった愛情も友情も、すべて幻となった。
……
想像していたような修羅場はなかった。
部屋はただ、これ以上ない静寂に包まれている。
私は薬指の指輪を外し、そっと机の上に置いた。
言葉は短くはっきりしているが、そこには何の感情も込められていない。
「指輪は返すわ。今までにもらったお金も返す。
式を中止にするか、二人でそのまま挙げるかは、好きにして」
言い終えて背を向けたとき、背後から問い詰める声の代わりに、重苦しい音が響いた。
唯はベッドから這い出し、おぼつかない足取りで追いかけてきて、私の足元で泣き崩れた。
「星奈、ごめんなさい。本当にごめんなさい……
私が恥知らずだったの。私が風馬にアプローチしたの。でも、彼が本当に愛してるのは、いつだって星奈だけなの。
私を罵ってもいいし、殴ってもいいから、そんなふうに思いを押し殺さないでよ」
風馬も急いで床に散らばった服を拾い上げ、唯の肩にかけると、彼女に寄り添うように私の足元で膝をついた。
だが、その喉から漏れたのは罪悪感ではなく、隠しきれない唯への慈しみだ。
「違うんだ、星奈。全部俺が悪いんだ。
唯はいつだって、お前のことを一番に考えてた。俺が無理やり彼女を繋ぎ止めたんだ。
恨むなら俺を恨め。全部、俺にぶつけてくれればいい」
足が鉛のように重い。
私は虚ろな瞳で振り返り、かつて心から愛した二人を見下ろした。
覚えている。人生で初めての誕生日ケーキは、不器用な唯が一生懸命作ってくれたものだった。
私は絵を描くのが好きだったけれど才能はなくて、それでも彼女だけが、私の落書きを大切にして壁に貼ってくれていた。
彼女には宝物箱があり、そこには私が捨てようとしたものばかりが詰まっていた。飴の包み紙、映画の半券、悩み事を書き連ねたメモ用紙。
彼女がそうしてくれたのは、私が彼女の親友だったから。
風馬はどうだろう。
初めての生理のとき、彼は顔を赤らめながらコンビニに走り、棚にあるすべての種類のナプキンを買ってきた。
胃が弱い私のために、彼はいつもカバンにちょっとしたお菓子を忍ばせてくれた。彼のスマホのメモ帳には、私の嫌いな食べ物や好みがすべて記されていた。
就職活動に失敗し、酔った勢いで「私はダメな人間だ」と泣いていたとき、彼は何も言わず、一晩中起きて私の履歴書を一行ずつ添削してくれた。
彼がそうしてくれたのは、私が彼にとって唯一無二の存在だったから。
かつての私は、自分が世界一幸せな女の子だと信じていた。
けれど今、最も愛した二人が私の前で膝をついている。
――私は誰を責めればいい?
私は……一体、誰を憎めばいいの?
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