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遠く届かない待ち合わせ第1話

この話は約1931字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は夫に、ある有名な歌手のコンサートに連れてほしいと、九十九回頼んだ。

百回目で、やっと彼は前列のチケットを二枚買ってくれた。

丁寧に着飾った私は、チケットを受け取れなかったせいで、入口で警備員に止められた。

終演まで、彼は一度も電話に出てくれなかった。

その後、夫と彼の愛人がコンサートであの歌手に「晴れた空」をリクエストしたというニュースは、すぐに検索ランキングを駆け上がった。

「晴れた空」の歌詞には、雨なんて一言も出てこない。

なぜなら、雨降りなのは、私の世界だけだから。

* * *

私は夫に、ある有名な歌手のコンサートに連れてほしいと、九十九回頼んだ。

百回目で、やっと彼は前列のチケットを二枚買ってくれた。

丁寧に着飾った私は、チケットを受け取れなかったせいで、入口で警備員に止められた。

終演まで、彼は一度も電話に出てくれなかった。

その後、夫と彼の愛人がコンサートであの歌手に「晴れた空」をリクエストしたというニュースは、すぐに検索ランキングを駆け上がった。

「晴れた空」の歌詞には、雨なんて一言も出てこない。

なぜなら、雨降りなのは、私の世界だけだから。

……

朝霧冬真(あさぎりとうま)と須崎雪緒(すざきゆきお)がトレンド入りしたニュースが、彼のSNSにシェアされている。

しかも、謝罪の口調で。

【この子ったら、わがままを言ってコンサートに行きたいと騒いで……まさかニュースになるとは思わなかった。皆さん、ご心配ありがとう。驚かせてしまって申し訳なかった】

結婚して五年にしても、私は一度も彼のSNSに載ったことがない。

なのに今、その「特別扱い」は、あっさりと別の女に与えられた。

私は九十九回頼んでも、彼はコンサートに付き合ってくれなかった。

ほかの人なら、一度で願いが叶った。

私は心が半ば麻痺したままSNSを閉じ、道路脇で車を待ち続けた。

コンサートの夜、街全体が渋滞している。

私はひとり、入口で長いこと立ち尽くし、結局タクシーもつかまらなかった。

スマホが鳴った。冬真からの電話だ。

スマホ越しの声は冷たい。

「まだ帰らないのか?」

私は黙ったままだ。

いつもなら思わず甘えてしまうところだ。だが今夜は、彼に何を言えばいいのかわからない。

冬真は少し苛立ったように言った。「林瑠璃(はやしるり)!喋れなくなったのか?」

「会場の入口にいる」

冬真は黙り込み、ようやく思い出したようだ。彼が、私と一緒にコンサートへ行くと約束していたことを。

ただ、まさか本当にチケットを買っていたとは。そしてそれを、雪緒とのデートに使ったとは。

「駐車場で待ってろ。迎えに行く」

私は冬真の言葉をこれ以上信じたくないし、もう車を呼ぶ気力もない。

ちょうどそのとき、豪雨が降り出した。街中が停電した。

私はずぶ濡れになりながら駐車場で雨宿りし、真っ暗闇の中を、スマホの光だけで持ちこたえた。

スマホの電池は二時間しかもたなかった。

電源が落ちる直前まで、冬真からは何の連絡もなかった。

ただ、雪緒のSNSだけが更新された。

【こんな豪雨の日も、必ず私を家まで送ってくれる人がいるわ。私のお日様のような人だ】

添えられている写真には、ハンドルを握る冬真の横顔がある。

私は笑った。少しだけ、心が軽くなった。

それでいい。

コンサートが終わるまで私は入口で待ち続けた一方、彼は雪緒といた。

一晩中駐車場で待っても、彼は来なかった。

五年の結婚生活で、彼が振り向くのを待ち続けた。

でももう、これ以上は待ちたくない。

……

私は一番近くのホテルまで歩き、ベッドに倒れ込むようにして眠った。

翌朝、ホテルから法律事務所へ向かったが、やっぱり少し遅刻した。

この法律事務所は有名で、冬真はその創始者だ。一方、私はごく普通の弁護士だ。

席に座ると、隣のデスクの古井律(ふるいりつ)が感心したように挨拶した。

「今日はボス主催の全員会議だよ?よく遅刻して欠席できるなんて」

私は笑ってみせた。

冬真が私を待つことなんて、これまで一度もなかった。このような会議はなおさらだ。

待つのは、いつも私のほうだ。

午前中は仕事が少なく、片付けたあと、私はパソコンを開いて離婚協議書を書き始めた。

そこで、冬真の登場はあまりに唐突だった。

「妻なら妻らしくしろ。好き勝手して、徹夜で帰らないとはどういうことだ」

私はうなずき、書類を続けながら、軽く返した。

「安心して。次はもうないから」

「次」は、もうない。

離婚さえすれば。

これからは別々の道、別々の人生だ。

冬真は一瞬言葉を詰まらせ、皮肉を言おうとし、結局こらえたようだ。

「今夜、飯でも食おう」

彼は少し間を置き、画面を一瞥してから続けた。

「いつから離婚案件なんて受けるようになったんだ?」

私は笑った。「昨夜どこにいたか聞かなかったし、あなたも私に聞かないで」

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