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過ぎ行く風は心を知らず第3話

この話は約1388字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

尋之は周囲を見渡したが、イヤリングの姿はなかった。

しかし、薄着の萌々香が小さく震えているのに気づくと、まずは彼女を庇うようにしてレストランへと歩みを進めた。

映夏も寒さに身を縮め、少し進んだところで、背後から尋之の声が落ちる。

「星乃、お前はここに残って、萌々香のイヤリングを探せ」

萌々香は尋之の腕に寄り添い、振り返って眩しい笑みを浮かべる。

「お願いね、星乃さん。あのイヤリングは私にとってとても大事なものなの。必ず見つけてね」

足を止めた映夏は、二人が遠ざかる背中を静かに見つめる。

長く息を吐き……心の中で「これでいい」と呟いた。

今日は映夏の誕生日。最初から同僚たちとレストランで過ごすつもりなどなかった。

雨は降っていたが、まだ小雨。映夏は傘を差し、来た道を一歩ずつ戻りながら探し始めた。

だが雨は次第に強まり、思考は自然と過去へと引き戻される。

彼女は思い出した……去年の誕生日のことを。

大きな契約を取った夜、ほろ酔いの尋之に手を引かれ、二人でバルコニーに立ったこと。

その次の瞬間、夜空に豪華な花火が咲き誇った。

「まだ零時前だ。誕生日おめでとう」

夜風に吹かれ、彼の瞳は深く、じっと彼女を見つめていた。

花火を見つめる彼女の瞳にも、小さな火花が映り込んだ。

胸の鼓動が耳に届きそうなほど早まり、彼を見返した瞬間、溺れそうになるほどその瞳に囚われた。

ようやく絞り出した声は震えていた。

「……誕生日を祝ってくれてありがとう。本当に嬉しい」

尋之は微笑み、彼女に近づいた。

唇が触れ合い、言葉はその中に消えた。

「来年も……祝ってやるよ……」

……その記憶の花火は、土砂降りの雨に打ち消された。

気づけば、雨は激しさを増し、傘もほとんど役に立たなくなっていた。

映夏は大雨の中、無我夢中でイヤリングを探した。

指先は冷え切り、動かなくなっていく。

あまりの寒さに、頬を伝う水滴が雨か涙かも分からなくなり、瞳は真っ赤に染まっていた。

たった一年で……すべてが変わってしまった。

胸の奥で鈍い痛みが広がる。それは鋭くはないが、じわじわと浸透し、歯の根元まで痺れるように沁みてきた。

結局イヤリングを見つけたのは駐車場だった。

時計を見ると、すでに三時間が経っていた。

誰ひとり彼女を探しに来ることもなかった。

大雨の中、映夏は完全に置き去りにされていた。

彼女は尋之に電話をかけたが、出ることはなかった。仕方なくタクシーで帰宅する。

その夜、映夏は高熱を出した。

薬を飲み、再び意識を手放す。夢の中では不快な雑音が響き続け、やがて……電話の着信音だと気づいた。

熱にうなされ、体は鉛のように重く、声も出せない。

電話の向こうから聞こえてきたのは尋之の声だった。

「今夜七時、会食に同席しろ」

喉が渇ききった映夏は、力を振り絞って声を出す。

「社長……昨日から商談はすべて蘇我さんに引き継いでいます」

「分かってる」

尋之の声音はいつも通り冷静だった。

「だが今夜の相手は素行に問題が多い。萌々香に危険を冒させるわけにはいかない。今夜はお前が一緒に来い」

目の前が暗くなり、頭の中がブンブンと痛んだ。

今夜の相手は、女性秘書や助手を困らせるのを好み、酔い潰れる姿を見るのを楽しむ輩だ。

そんな相手を、映夏はこれまで尋之と幾度も乗り越えてきた。

だが……彼が彼女を案じたことは、一度もなかった。

目を閉じ、かすれた声で答える。

「……分かりました。今夜、行きます」

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