運命の赤い糸、光のように消えた第3話
この話は約2061字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
深夜、蓮司はようやく帰宅した。
慣れない香水の匂いが菖蒲の鼻をついた。
蓮司は後ろから菖蒲を抱きしめ、「菖蒲、まだ起きていたのか?何か話したいことがある?」と甘く囁いた。
菖蒲はこみ上げてくる吐き気を抑え、蓮司の腕から抜け出して、静かに振り返った。
「誕生日プレゼントの追加分、一週間後に届けるわ」
蓮司は彼女が何も気づかれていないと思い、ホッとした。
そしてポケットからベルベットの箱を取り出し、中から高価そうなダイヤモンドのネックレスを取り出した。
「今日のオークションの件は悪かった。驚かせてしまったな」
蓮司は菖蒲の首にネックレスをかけ、低い声で謝った。
鏡に映る自分の姿を見て、菖蒲の胸は締め付けられるように痛んだ。
このネックレスは、渚から送られてきた写真で見たものと同じものだった。渚の首にも、全く同じネックレスがかけられていたのだ。
同じネックレスを二本も買って、二人の女に贈るなんて。
いい加減な扱いをされていることが、これ以上ないほど明白だった。
「渚はどうするの?どうするつもりなの?」菖蒲はさりげなく尋ねた。
蓮司の目に笑みが浮かんだが、声は嫌悪感を装っていた。
「あんな嘘つき女、どうするって言うんだ?金で片付けるしかないだろう」
「あんなに酷い女なのに、どうして彼女を買い取ったの?」菖蒲はさらに追及した。
蓮司は一瞬動きを止めたが、すぐに強がって言い返した。
「もう二度と俺たちの生活に邪魔させないためだ。菖蒲、この件は俺がちゃんと処理するから、もう考えなくていい」
菖蒲は微笑みながら蓮司のネクタイを緩めた。しかし、襟元に口紅の跡を見つけた。
彼女の目は冷たく光り、唇に嘲りの笑みを浮かべた。「やりすぎちゃだめよ。面倒なことになったら困るわ」
蓮司の心臓はドキリとしたが、すぐに気にしすぎだと思った。
彼は菖蒲に覆いかぶさり、誘うようにキスをしようとした。
菖蒲は顔を少しそらし、そのキスを避けた。
「今日は体調が悪いから」
蓮司の目に失望の色が浮かんだが、無理強いはしなかった。
夜、菖蒲は浅い眠りを繰り返した。
夢の中では、蓮司が目覚めた後にプロポーズした時の光景が映し出されていた。涙を流しながら一生愛すると誓った蓮司の姿。
誓いの言葉はまだ耳に残っているのに、現実はすっかり変わってしまった。
悪夢にうなされて目を覚ました菖蒲は、激しい吐き気に襲われ、トイレに駆け込み、嘔吐した。
激しいつわりに、すっかり菖蒲の体力を奪われた。
蓮司は驚いて起き上がり、慌てて駆け寄ってきて、背中をさすったり、水を渡したり、自らキッチンに行ってスープを作ってくれた。
そんな蓮司の優しさに、菖蒲は一瞬、何も変わっていないかのような錯覚に陥った。
まるで、一番愛し合っていた頃のようだ。
しかしその時、スマホの着信音が鳴り響き、つかの間の温かい雰囲気を壊した。
蓮司は発信者の名前を見て、顔色を変え、スマホを持ってキッチンへ入った。
蓮司は声を潜め、苛立ったように話していたが、自然と優しい口調になっていた。
「渚、また何か用か?具合が悪い?
泣くなよ、すぐ行く!」
数分後、蓮司はキッチンから出てきて、申し訳なさそうに言った。「菖蒲、会社で急用ができた。行かなければならない」
「今?」
菖蒲は窓の外の暗い夜空を見つめた。
「ああ、とても急なんだ」蓮司はそう言いながら、すでにコートを着ていた。
菖蒲は彼を見つめたが、引き止めなかった。
引き止める気にもなれなかった。
少し落ち着きを取り戻した菖蒲は、蓮司が作ってくれたスープを飲もうとした。
ところが、スープの中に豆腐が入っていることに気づいた。
彼女は豆腐アレルギーで、ひどい時には呼吸困難になるほどだった。
そのことを、蓮司は誰よりもよく知っているはずだ。
なのに今、渚のために、そんなことさえ忘れてしまったのだ。
菖蒲は笑った。胸が締め付けられるように痛かった。
彼女はスープをシンクに全て捨てた。
そして、あのダイヤモンドのネックレスもゴミ箱に捨てた。
一晩中眠れずに過ごしたが、蓮司は帰ってこなかった。
夜が明け、スマホが振動した。健太からのメッセージだった。
【お腹の子、今日は元気にしてる?昨夜、君が泣いている夢を見て、胸が痛くて目が覚めたんだ】
菖蒲の沈んだ気持ちは、不思議と少し軽くなった。
彼女は微笑んで返信した。【相変わらず、心配性なのね】
すぐに健太からボイスメッセージが届いた。心配そうな声だった。
「あいつが何かひどいことをしたのか?教えてくれ。すぐに会いに行く」
菖蒲は一瞬、言葉を失った。
菖蒲と健太は幼馴染で、本来なら婚約するはずだった。
それでも、慣れないB市で、蓮司のために一人で頑張ってきたのに、結局、傷ついたのは自分だけだった。
それでも、誰かに頼ろうとは思わなかった。
佐藤家の令嬢は昔から決して屈しない、頑固な性格だった。
今、健太の声を聞いて、ほんの一瞬、全てを諦めてしまいたくなった。
胸が震え、【いいよ】と返信しそうになった。
しかし結局、それを消して、新しくメッセージを打ち込んだ。【私がちゃんと処理するわ。N市で待っていて】
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R17377- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。