遅れた偽の愛第3話
この話は約1692字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
だが、博史は最初から彼女に説明するつもりはなかった。
彼は悠々華を連れて産婦人科へと向かった。
医師チームはすでに待機していて、悠々華が姿を見せると、恭しく声をかけた。
「奥様、手術着に着替えてください。まず排卵誘発の注射を行い、その後採卵に入ります。少し痛みを伴うかもしれませんが......」
悠々華は呆然として、博史を見た。
「採卵って......どういうこと?」
博史の目に、最後の忍耐が消えた。
「当然、体外受精だ。そうしなきゃ、どうやって子供を作るんだ?」
悠々華の顔から血の気が引いた。
二人とも健康なのに、それでも体外受精?
彼は、そこまでして彼女に触れたくないのか?
必死に堪えようとしたが、悠々華の声は震えを隠せなかった。
「......どうして?」
博史はさらに苛立ちを募らせて、口調もきつくなった。
「何がどうしてだ?」
「どうしてこの子を産むの?」
悠々華は顔を上げて、問いただした。
「本当に私との子供が欲しいの?」
彼は、もう離婚を決めたはずじゃなかったのか。
なのにどうして、子どもを望むの?
博史の眉間に深い皺が刻まれた。
この瞬間、彼は初めて悠々華の異変に気づいた。
以前なら、悠々華は彼の子供を持つことを夢見ていた。
たとえ体外受精でも、喜んで応じていたはずなのに、今日は全然違った。
悠々華の反応に、無性に苛立ちを感じた博史は、冷たく吐き捨てた。
「決まってるだろう。冷泉家と林家の関係を安定させるためだ。じゃなきゃ、誰が好き好んでお前と子供を作るか」
悠々華の顔が真っ青になった。
やっぱり、両方の家族の関係のため。
顔を伏せながら、堪えきれずに目に熱いものがこみ上げた。
博史にとって、彼女は何なんだろう。
もう離婚間近だというのに、まだ彼女を最後まで利用しようとしているのか。
拳をぎゅっと握りしめながら、彼女は震える声を絞り出した。
「......もし私が、嫌だと言ったら?」
「......なんだと?」
博史はさすがに驚いた。
夢にも思わなかった。
悠々華が、自分との子供を拒否するなんて。
だが次の瞬間、彼は何かに気づいて、冷笑を浮かべた。
彼女の顎を鷲掴みにして、ぐいっと顔を寄せた。
「林悠々華、どうせ子供ができたら、俺に抱いてもらう口実がなくなるから嫌なんだろ?」
吐き捨てるような、酷く冷たい声。
「排卵誘発の注射より、俺に直接やられたいってか......悪いけど、俺はお前にそんな興味ないから」
そう言い捨てると、彼女を乱暴に地面に突き飛ばした。
冷ややかな声で言い放った。
「これは命令だ。俺の子供を産みたきゃ、これしか方法はない。おい、こいつを手術室に押し込め!」
博史は悠々華の必死の抵抗を無視しながら、医者たちに命じた。
彼女は無理やり手術台に押さえつけられた。
腹に針が刺さり、鋭い痛みが走った瞬間、悠々華の目から、ぽろぽろと涙が零れた。
どうして。
博史、どうして......こんな酷いことをするの?
薬剤による眩暈が一気に襲いかかり、彼女はついに意識を失った。
次に目を覚ましたときには、すでに翌日になっていた。
ベッドの傍にいた医者が、彼女の目覚めを見て安堵したように言った。
「よかった、奥様。ホルモン剤への反応がかなり強かったので、ショック症状が出ましたが......大事には至りませんでした」
悠々華は弱々しく尋ねた。
「......博史は?」
医者は少し困ったように答えた。
「社長は、採取が終わったらすぐにお帰りになりました」
悠々華は一瞬呆然とし、それから医者の「採取」が何を意味するかを理解した。
シーツを握る手に、力が入った。
また、林清雪の写真を見ながら......?
他の女を思いながら、彼女との子供を作ろうとするなんて。
想像するだけで、吐き気がした。
医者は続けた。
「少し危ない場面もありましたが、受精卵の方はとても良好です。ご覧になりますか?」
そう言って、医者は冷却ボックスを開けた。
中には五本の試験管が並んでいた。
悠々華は茫然と見つめた。
これが、私と博史の......子供?
医者はさらに説明を続けた。
「体調が落ち着き次第、適した受精卵を選んで子宮に戻しますので......奥様!?どうなさったんですか!」
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