遅れた偽の愛第1話
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結婚して3年、夫は一度も彼女とセックスしなかった。それに、深夜に彼女の妹の写真を見ながらひとりエッチをしていた。
林悠々華は偶然にも夫のスマホを見てしまい、彼が彼女と結婚した理由が、復讐するためだけだったことを知ることになった。
なぜなら、本物のお嬢様である悠々華は偽のお嬢様の妹から令嬢の座を奪ったからだ。
悠々華は深く失望し、養父母の元へ戻る決心をした。
しかし、彼は狂ったように、彼女を世界中で探し始めた。
* * *
結婚三周年記念日。
林悠々華(はやし ゆゆか)は引き出しを開けて、結婚前に買ったコンドームの箱がまだ使い切れずに残っていることに気づいた。
避妊対策をしていなかったわけではない。
そもそも、彼女と夫の冷泉博史(れいぜい はくし)の間には、最初から「夫婦生活」というものが存在しなかったのだ。
それで、結婚記念日に、彼女は勇気を振り絞って、セクシーなランジェリーを買った。
ワインを三杯を飲んで、シャワーを終えた博史が出てくるタイミングを見計らって、悠々華は思いきって彼の首に腕を回した。
「ねえ、あなた......」
甘く、震える声でささやいた。
「今日は、私たち......」
しかし、次の瞬間、博史は彼女を乱暴に突き飛ばした。
「林悠々華、お前、どこまで下劣なんだ?」
男の瞳は冷たく研ぎ澄まされて、声は氷のようだった。
「何度もしつこく迫りやがって。そんなに飢えてるなら、自分で棒でやれ」
悠々華の顔から、さっと血の気が引いた。
理解できなかった。
夫に愛を求めただけなのに――
どうしてこんな侮辱を受けなければならないのか。
その夜、悠々華は眠れないまま朝を迎えてしまった。
布団にもぐりこみ、スマホを滑らせる。
画面にはある知恵袋サイトのページが映っていた。
【無性生活の苦しみ。結婚してから一度も手を出してこない夫、どうすれば?】
「旦那さん、もしかして男に興味あるんじゃ?」
「それとも不能?」
......そんなコメントが並んでいた。
混乱したまま、水を飲もうとベッドを出た悠々華。
だが、隣にいるはずの博史の姿がいない。
トイレの明かりが漏れ、ドアの隙間から妙な音が聞こえてきた。
恐る恐る近づいた彼女は、そこで凍りついた。
彼女の夫、夜の営みに無関心だったはずの博史が、自分の妹の林清雪(はやし きよゆき)の写真を前に、ひとりエッチの悦びにふけっていたのだ。
悠々華はもう寝たと思い込んでいるのか、博史は昂った声でうわごとのように呟いていた。
「清雪ちゃん......清雪ちゃん......」
悠々華はよろめいて、必死に寝室へ戻った。
そのとき、枕元の博史のスマホが光っている。
震える指で手に取った。
彼のパスワードは知っていた。
これまで一度も覗いたことはなかったが、今はもう、我慢できなかった。
そこには、彼が友人たちと交わしたグループチャットの履歴が残っていた。
【博史、今日で禁欲1000日目だろ?祝いに飲もうぜ!】
【まじかよ、林悠々華と結婚して三年近いのに、一度もヤッてないって?】
【あいつは田舎臭いけど、顔もスタイルも最高級だろ?触りたくならないのかよ?】
【我慢できるに決まってんだろ。博史は清雪さんに誓ったんだぞ。「体は清雪だけのものだ」ってな、博史は約束を絶対に破らない男だ】
【そうよ。林悠々華は清美さんのお嬢様の身分を奪ってから、博史の両親は彼らの結婚を強要するんだ。彼女みたいな田舎娘と結婚するのも、全部博史の策略だ!】
【最初から数年後に離婚するつもりだったんだよ。そしたら林悠々華はバツイチの中古女になるしな!】
【そういや博史、もう冷泉家の企業はほぼ掌握したんだろ?そろそろ離婚していいんじゃね?】
一瞬、グループチャットが静まり返っていた。
そして、博史がシャワーを浴びる前に送った一言が表示された。
【もうすぐだ】
短い返答。
でも、それだけで十分すぎるほどの絶望だった。
悠々華は孤児だった。
幼い頃、外国人家庭に引き取られて、育てられてきた。
四年前、偶然知った。自分が大富豪の林家の、本当の娘だったことを。
林家は彼女を捨てたわけではなかった。
赤ん坊の頃、何者かにすり替えられていたのだ。
そして今、林家は彼女を迎えた。
だが、育てられた偽物の娘の林清雪も手放すことができず、二人を一緒に林家に置いた。
冷泉家と林家の縁談は、祖父母の代から決まっていた。
それで、婚約者は清雪から悠々華に変わった。
最初、悠々華はそんな政略結婚に興味もなかった。
けれど、あのときの博史は違った。
彼は彼女に必死にアプローチした。
国内の食事に慣れない彼女のため、プライベートジェットでイタリア料理を買いに飛んだり、夜眠れない彼女に朝まで電話で付き合ったりしていた。
それに、誘拐事件で、「どちらか一人しか助けられない」と脅されたとき、両親は清雪を選び、彼女を見捨てた。
そんな中、命懸けで助けに来てくれたのが、博史だった。
だから、心を預けた。
そして、結婚を受け入れた。
なのに。
結婚後、彼は別人のように冷たくなった。
遠ざかり、一度も、触れてくれなかった。
悠々華は最初、彼の体に問題があるのではと心配していた。
でも今、すべてがわかった。
問題なんてなかった。
女が嫌いなわけでもなかった。
ただ、彼の体は、別の女のために残していたのだ。
なぜ。
迷子になったのは、彼女のせいじゃない。
林家に戻ったのも、彼女のせいじゃない。
それなのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
涙が、溢れた。
そのとき、スマホが震えた。
悠々華はふらふらとベランダに出る。
「悠々華?」
電話の向こうから、養母の優しい声が聞こえた。
おずおずと、こう告げた。
「もうすぐ、私の誕生日なの。もしよかったら、イタリアに戻ってきてくれない?もちろん、本当の両親が許してくれないなら、無理はしないで......」
悠々華を育てた養父母は、不妊のため正式な手続きを経て彼女を迎えた。
血のつながりはなくても、誰よりも深く愛してくれた。
けれど四年前、博史に惹かれた彼女は、一人で国内に残る道を選んだ。
でも今。
養母の声を聞いた瞬間、胸に押し込めていた涙が堰を切った。
「ママ......イタリアに帰りたい」
娘の涙に、養母はすぐさま焦った声で叫んだ。
「何があったの!?林家にいじめられたの!?そうなら、すぐ帰ってきなさい!誰にも、あなたを傷つけさせない!」
悠々華の養父母は、イタリア最大の財閥だ。
ヨーロッパでも屈指の権力を誇る。
養母はきっぱりと言い切った。
「すぐ手配するわ!三日後、プライベートジェットを飛ばして迎えに行く!私たちの大切な娘。誰にも、指一本触れさせない!」
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