遅すぎた溺愛第2話
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慎也の嗄れた嗚咽と、力強い鼓動が、同時に私の耳を打った。
「里帆、結婚しよう。愛してみせるから」
私の熱意がついに彼を溶かしたのだと思った。しかし、全て私の勝手の思い込みだった。
つい先日、沙耶香の結婚は破綻し、彼女は落ちぶれて帰国した。
慎也は彼女に「誰より早く再会する」ために、空港へと車を疾走させ、事故を起こした。
私は三日三晩、眠らずに彼の看病をした。しかし、彼が病床で繰り返し呼んだのは沙耶香の名前だった。
五年間にわたっての献身は、結局、幼馴染の一滴の涙にも敵わない。
五年前の契約任務は、もう達成できないのだと悟った。
今、沙耶香が離婚し、私の契約も満了した。すべては初めから決められていたかのように偶然だ。
慎也は長年を経て、ついに彼の思い人の心変わりを待ちわびた。ちょうど私を閉じ込めていた檻もなくなった。
私はこの瞬間を五年間待ち続けてきた。
食事を終えると、慎也の母から電話がかかってきた。
私はベランダへ出て通話に出た。
「里帆、本当に慎也と離婚する気なのかい?」
私は静かに窓外を見つめた。壁灯の下で花がゆっくりと花弁を広げている。
しばらくして、私はそっと口を開いた。
「お母様、私と彼が一緒だったのは、あの契約書のためでしかありません。今は契約も満了し、樋口さんも帰国されました。私が去るのが最善の選択です」
スピーカー越しのため息が、耳に残った。
「ここ数年、辛かったでしょう。まあいい、五年前に慎也のために進学の機会を放棄したのだから、今あなたたちが離婚するにあたって、向こうの手配をしておこう?」
私はますます広がっていく花を見つめながら、口元をゆっくりとほころばせた。
「ありがとうございます。お手数をおかけします」
五年前、私は有名な芸術大学の優等生だった。慎也が失恋から立ち直るのを助けるために、私は大学院に進学する機会を放棄したのだった。
私の人生は長く停滞していた。今、ようやく再び前へ進める。
窓の外の花は、いつの間にかひっそりと散り、ウォールライトの光だけが残されていた。
そして私の荒唐無稽な結婚も、この瞬間に終わりを告げた。
……
「誰と話していた?」
長く戻らない私を案じたのか、慎也がベランダに私を探しに来た。
彼の眉間にはかすかな詮索の色が浮かび、漆黒の瞳は私をじっと見つめている。
私は平静に振り返り、淡々とした声で答えた。
「別に」
夜更けの静寂の中、清らかな月の光が部屋を満たした。私はぼんやりと慎也の顔を見つめ、一夜を座して明かした。
彼の骨格は申し分なく美しく、薄い唇をわずかに結び、漆黒の睫毛が眼下に影を落としていた。胸の微かな上下に合わせ、その翳りさえも震えるように揺れていた。
何か夢を見ているのか、彼は寝返りを打ち、次の瞬間につぶやくように口を開いた。
「沙耶香……」
その瞬間、私は固まった。けれど諦めにも似た微笑みが、やがて唇に戻った。
眠っている間でさえも彼女なのか。彼は本当にその幼馴染が好きなんだな。
翌朝、慎也はきちんと身繕いをして部屋から出てきた。テーブルの上の朝食を見て、思わず眉をひそめる。
彼は不機嫌そうに私を見た。いつもは無表情に近いその目に、今は非難の色さえ浮かんでいた。
「洋食は好きじゃないって言ったはずだ」
私はうつむいたまま、サラダを一口フォークで刺し、ゆっくりと口へ運んだ。
「冷蔵庫にはこれしか残っていないの」
慎也は深く考えもせず、しぶしぶと席に着いた。
本当は他の食材もあった。だが、私が留学するには、前もって味覚を慣らしておく必要がある。
その間、慎也の視線はスマホに落とされたまま。灼けつくような眼差しで、誰かのメッセージを待っているようだ。
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