遅すぎた愛第1話
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フリマアプリで不要になった家具を出品していると、ある女の子から値下げ交渉のダイレクトメッセージが届いた。
【すみません、もう少し安くなりませんか?
まだ学生なんですけど、ルームシェアしていた友達とトラブルになって学生寮を出ちゃって。彼氏が部屋を探してくれたんです。
彼はお金持ちだし、卒業したら結婚しようって言ってくれてるんですけど、あんまり負担をかけたくなくて。
500円安くしてくれませんか?直接引き取りに行きます!】
大学時代に結城景虎(ゆうき かげとら)と付き合っていた頃、たった100円を節約するために2時間もシェアサイクルを漕いだことを思い出した。
今はただの平凡な会社員だが、それでも学生よりは経済的に少しマシだ。
私はつい同情して、その値下げを承諾した。
その日の夜、マンションのエントランスに二人の人影が現れた。
女の子は誇らしげな顔をしている。
「私って買い物上手でしょ?一万円もしないで、新品同様の洗濯機が買えちゃった!」
男は甘やかすような表情を浮かべていた。
「はいはい、俺の柚乃が一番すごいよ。
でも、俺が稼いでいるのはお前を養うためなんだから、無理して節約なんてしなくていいんだぞ。
お前の旦那さんは結城グループの社長なんだから、いくらでも養ってやれる。こんな苦労は今回だけにしてくれよ」
男が笑みを浮かべて顔を上げた瞬間、視線が交差して、私はその場に立ち尽くした。
そこにいたのは、出張手当が3倍になるからと、3ヶ月間の地方出張に行っているはずの私の彼氏、結城景虎だった。
* * *
フリマアプリで不要になった家具を出品していると、ある女の子から値下げ交渉のダイレクトメッセージが届いた。
【すみません、もう少し安くなりませんか?
まだ学生なんですけど、ルームシェアしていた友達とトラブルになって学生寮を出ちゃって。彼氏が部屋を探してくれたんです。
彼はお金持ちだし、卒業したら結婚しようって言ってくれてるんですけど、あんまり負担をかけたくなくて。
500円安くしてくれませんか?直接引き取りに行きます!】
大学時代に結城景虎(ゆうき かげとら)と付き合っていた頃、たった100円を節約するために2時間もシェアサイクルを漕いだことを思い出した。
今はただの平凡な会社員だが、それでも学生よりは経済的に少しマシだ。
私はつい同情して、その値下げを承諾した。
その日の夜、マンションのエントランスに二人の人影が現れた。
女の子は誇らしげな顔をしている。
「私って買い物上手でしょ?一万円もしないで、新品同様の洗濯機が買えちゃった!」
男は甘やかすような表情を浮かべていた。
「はいはい、俺の柚乃が一番すごいよ。
でも、俺が稼いでいるのはお前を養うためなんだから、無理して節約なんてしなくていいんだぞ。
お前の旦那さんは結城グループの社長なんだから、いくらでも養ってやれる。こんな苦労は今回だけにしてくれよ」
男が笑みを浮かべて顔を上げた瞬間、視線が交差して、私はその場に立ち尽くした。
そこにいたのは、出張手当が3倍になるからと、3ヶ月間の地方出張に行っているはずの私の彼氏、結城景虎だった。
……
静寂が包み込む中、景虎の顔に明らかな動揺と驚きが浮かぶのを、私ははっきりと見た。
私、鳴海凛(なるみ りん)が口を開きかけた瞬間、景虎の警告するような鋭い視線が飛んできた。
星野柚乃(ほしの ゆの)は私たちの異変に気づかず、甘えるように唇を尖らせた。
「寄生虫みたいになるのは嫌だもん!将来捨てられたらどうするの?
ちょっと、どこ見てるの?私の話聞いてる?」
景虎は我に返り、柚乃の頭を撫でた。
「お前を捨てるわけないだろ」
景虎の視線を追って、柚乃は私の横にある洗濯機を見た。
「機能に問題はないですよね?」
私はハッと我に返り、作り笑いを浮かべて商品の説明をした。
突然、景虎が口を開いた。
「どうして家具を売る?お金に困っているか?」
私は一瞬言葉を失った。
お金なんて、いくらあっても足りるわけがないのに。
私が答えるより先に、柚乃が景虎の腕を軽く叩いた。
「失礼なこと言わないで!」
「気にしないでくださいね。私の彼氏、自分がお金持ちだからって一般の人の苦労が分かってないんです」
柚乃は景虎をたしなめるように見つめ、袖をまくってダイヤモンドが輝くブレスレットを見せつけた。
「誕生日にこのブレスレットが欲しくて、半年分の生活費を貯めないと買えないって言ったら、彼、一シーズン分の新作コレクションを全部セットでプレゼントしてくれたんですよ!クローゼットにはまだ開けてない箱がたくさんあって!」
去年の夏、私は一着のワンピースを気に入った。割引されて6000円だった。
景虎が払おうとしてくれたが、私はそれを止めた。
私は気にしていないふりをして笑った。
「仕事には着ていけないし、買ってももったいないよ。
その分のお金を、二人のマイホーム資金に回した方がいいじゃない?」
欲しくなかったわけではない。ただ、その二日前に景虎が、遅刻をして給料を5000円引かれたと愚痴をこぼしていたからだ。
「友達と喧嘩して、最初は大学の近くで適当なシェアハウスを探すつもりだったのに、彼ったら突然タワーマンションの最上階を買ってくれたんです!しかも私の名義で!1平米当たり百万円ですよ、私が一生バイトしたってトイレの広さも買えません!」
今の部屋を借りる時、私は2000円多く請求された光熱費のことで、大家と顔を真っ赤にして口論になった。
私が理不尽な扱いを受けているのを見て、景虎は怒ってその場で契約を解除しようとしたが、私は必死に止めた。
この部屋が景虎の会社から近く、彼の通勤時間を少しでも減らし、毎朝少しでも長く眠らせてあげたかったからだ。
「それに私、アイドルを推してるんですけど、彼がアリーナの最前列のチケットを取ってくれたんです!あーあ、こうやって話してると、私って本当に彼の寄生虫みたいですね!」
柚乃は表面上は文句を言いながらも、その声は幸せに満ちていた。
隣に立つ私の顔色は、どんどん蒼白になっていった。
景虎が軽く咳払いをすると、柚乃はハッとして気まずそうに頭を叩いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。自慢するつもりじゃなかったんです。
ライン交換しませんか?また不要な家具が出たら、ぜひ私に声かけてください!」
景虎が止めようとしたが、柚乃は素早くフレンド申請を送った。
「景虎には頼らないもん!私は自立するの!」
そばに停めてある黒の高級車を見やり、景虎は仕方がないといった顔をした。
「じゃあ、俺の車に乗るくらいはいいだろ?洗濯機を抱えて道を歩くなんて、馬鹿みたいで嫌だからな」
この部屋に引っ越してきた時、私もフリマアプリで中古の家具を買った。
運搬費用を節約するために引っ越し業者を断り、一人で重いソファや棚を4階まで運び上げた。
景虎の目には、あれは馬鹿みたいな姿に映っていたのだ。
二人の姿が視界から消えて、ようやく私は息を吹き返したように感じた。
スマホが震え、景虎からメッセージが届いた。
【外は冷えるから、先に帰ってて。今夜ちゃんと話そう】
私は自嘲気味に笑い、少しふくらんだ下腹部を撫でた。
景虎は子供が大好きで、数日前まで、彼にサプライズで報告しようと考えていた。
それも今となっては、ただの笑い話だ。
今この瞬間、景虎が柚乃と一緒にいると分かっていながら、私は感情的に電話をかけた。
1回目、切られた。
2回目、切られた。
3回目には、電源が切られていた。
うつむくと、手のひらに自分の爪が食い込み、血が滲んでいることに気がついた。
小さな傷なのに、心臓全体が痺れるように痛かった。
家に戻り、私は柚乃のラインのフレンド申請を承認した。
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