通りすがりのさよなら第3話
この話は約1657字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
二階の窓からカーテンを開けて、黒いベンツが夜の闇に走り去っていくのを見つめてた。
湊の心の中では、やっぱり直美はまだ特別な存在なんだ。
私と湊の出会いは、ある商談の場だった。二人の会社はライバル関係だったのに、私は彼のことがすごく気になってしまったんだ。
そのころの湊はまだ普通の社員だった。でも、私は彼と付き合いたくて、会社のルールを破ってまでアプローチした。そのせいで、会社をクビになっちゃったけど。
それでも結婚してからは、私たちの関係はずっと順調だった。
それに、湊も持ち前の人当たりの良さと努力で、どんどん出世して支社の社長にまでなったんだ。
会長にもすごく気に入られていて、湊の毎日は仕事でいっぱいいっぱいだった。
私は、彼を支える良い妻でいようって決めてた。外で一生懸命働くのがどれだけ大変か、分かっていたから。
だから、湊が忙しくて記念日を忘れちゃっても、病院に付き添ってくれる時間がなくても、私はなるべく文句を言わないようにしてた。
でも、直美が現れて、すべてが変わってしまった。
湊は胃が弱かったから、私はよく彼の職場にお弁当を届けていた。そこで、直美と湊がやけに親しげに話していることに気づいた。
直美は見た目も綺麗で、話し方もすごく感じがいい人だった。
仕事にはすごく真面目な湊なのに、直美だけは特別。彼女が仕事の報告をするときに、プライベートな雑談を長々としても許していた。
だからある晩、湊が直美に資料を届けるって言い出したとき、私たちは激しい言い争いになった。
湊は、「お前はそんなことばっかり考えてる」って呆れてた。直美は仕事のできる人で、私とは違うんだって。
それから、私たちは同じことで何度も喧嘩を繰り返した。そうするうちに、二人の間の溝はどんどん深くなっていったんだ。
あの頃の、湊に対する私の愛情は、だんだんとおかしな方向に向かっていった。彼を束縛したいっていう、狂った独占欲になっていたんだ。
湊のスマホにこっそり位置情報アプリを入れて、夜中に寝ている彼のメッセージを盗み見るようになった。
少しでも湊と連絡がつかないと、すぐに直美と浮気してるんじゃないかって疑ってしまう。
ある時、位置情報アプリに表示された湊の現在地は、ホテルだった。
私は気が狂ったみたいに何度も電話をかけ続けた。そしたら、ついに彼のスマホの電源が切られた。
家を飛び出してホテルに行こうとした、ちょうどその時。突然、直美から電話があった。
「私は今、社長と二人きりでホテルにいるんです。ちょっと立て込んでるんで、終わったら彼から電話させますね。
余計なお世話かもしれませんけど、そんな風に時と場所を考えずに電話ばっかりしてたら、どんな男の人だって嫌になりますよ?」
電話の向こうの声は、ねっとりとした嫌味な口調だった。わざと「二人きり」って言葉を強調して。
今までずっと溜め込んできた怒りが、一気に爆発した。私は我慢できなくて、直美にメッセージでひどい言葉をたくさん送ってしまった。
まさか、そのやり取りが直美に利用されるなんて。彼女は私が送ったメッセージを湊に見せて、涙ながらに私がいかにひどい人間かを訴えた。
そして、帰ってきた湊と、また大喧嘩になった。
「優香!お前が俺のスマホに位置情報アプリを入れてること、気づいてないとでも思ったか!俺は何もやましいことなんてない!好きに調べろよ!
だけど、直美のような何も悪くない若い子に、どうしてあんなひどいことが言えるんだ?
直美が物分りのいい子で助かったよ。もし彼女が、お前が送ったメッセージを会社の誰かに見せでもしたら、俺たちがどんな噂をされるか分かってるのか!」
湊は私の言い分をまったく聞こうとしなかった。すべては、私の神経質な独占欲が原因だって決めつけた。
感情が激しく高ぶって、私はそのまま意識を失ってしまった。
次に目が覚めたとき、私は病院のベッドにいた。そこで、医師の口から告げられたのは、すでに妊娠一ヶ月を過ぎているという事実だった。
でも、とても不幸なことに、その赤ちゃんは結局、助からなかった。
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