身代わり彼氏を譲ったのに、私が悪いの?第1話
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高瀬彰人(たかせ あきと)みたいな人と付き合っている私を、誰もが羨ましがる。
けれど、そう言われるたび、胸の奥にかすかな苦さが広がった。
彰人が仕事熱心なのは本当だ。結婚の話をほのめかすたび、忙しいと言って話をそらされた。
「今は忙しいんだ。まずは仕事に集中させてくれ」
人に優しいのも確かだ。帰国した元恋人には、何から何まで世話を焼いている。
「あの頃、俺が大学院に進むために別れたから、未緒は一人で海外へ行った。海外ではずっと苦労してきたんだ。俺が埋め合わせをするべきだろ」
未緒への埋め合わせだと言って、帰国したばかりで住むところもない彼女を、私たちの家に住まわせた。
「未緒には、こっちに頼れる親戚も友達もいない。部屋を探すにも時間がかかるし、うちにはゲストルームがあるんだから、しばらく住ませてやろう」
熱を出して入院していた私は、退院したばかりだった。それでも彰人は、未緒に埋め合わせをしたいからと、彼女の好物の肉じゃがを作らせた。
「未緒が、海外にいる間ずっと肉じゃがが食べたかったって言うんだ。澄乃が作る肉じゃがが一番うまいから、作ってやってくれよ」
未緒への埋め合わせのため、夜が更けても、二人で試合中継を見続けた。
私はベッドに横になったまま、リビングから時折響く二人の笑い声を聞いていた。
もう、耐えられなかった。
* * *
私はテレビの前まで歩き、電源コードを一気に引き抜き、彰人に向き直った。
「一緒にスーパーへ行ってほしいって言ったときは、仕事が忙しくて時間がないって言ったよね。それなのに、未緒と毎晩試合を見る時間はあるの?」
彰人は仕方なさそうに立ち上がり、私の前まで来た。
「澄乃、これは話が別だ。
前にも言っただろ。未緒は今、うちに泊まってるんだ。長くいるわけじゃないんだから、その間くらい気を配ってやらないと。冷たくするわけにはいかないだろ。
買い物なら、今回は行けなくても、これからいくらでも行けるだろ」
「そうだよ、澄乃。怒らないで」
早川未緒(はやかわ みお)は彰人の後ろに身を隠した。その目は、以前私の元彼を奪ったときと同じように、勝ち誇っている。
深く息を吸い、元彼・黒川奏太(くろかわ そうた)とどこか似た彰人の顔を見つめた。それから、ゆっくり口を開いた。
「それなら、未緒のことは好きなだけもてなしてあげればいい。私はもう付き合ってられない」
二人にはもう目を向けず、寝室へ行って荷物をまとめ始めた。
寝室まで追ってきた彰人は、私の手から服を奪ってベッドに投げ、疲れのにじむ声で言った。
「澄乃、いい加減、拗ねるのはやめてくれないか?今日は仕事で疲れてるんだ。明日の朝も会議がある。本当に喧嘩する余裕はない」
また、それだ。
私と何かする余裕はいつもないのに、未緒のことなら何でも喜んでやる。
顔を背け、服をもう一度抱えた。
「じゃあ、喧嘩はしない。私が外に泊まる」
「澄乃!」
彰人は私の肩を押さえた。「いったい何をそんなに騒いでるんだ?」
「私が騒いでる?」
顔を上げ、彰人の目をまっすぐ見た。
「未緒は彰人の元カノでしょう。その元カノを私たちの家に住まわせて、毎日べったり一緒にいる。それでも、騒いでるのは私だって言うの?」
彰人は唇を引き結んだ。
「俺と未緒のことは、もう終わってる。今はただの友達だ。少し助けてやりたいだけなんだ」
私は鼻で笑った。
「本当に優しいのね」
彰人が眉をひそめた。
「澄乃、そんな嫌味を言って何になるんだ?俺がどういう人間か、澄乃なら分かってるだろ」
彰人は昔から、困っている人を放っておけない。
友人に頼まれれば、どんなに大変なことでも引き受ける。
以前、友人が貸した金を取り戻すのを手伝い、相手に刃物で手を切りつけられて、1か月入院したことさえある。
私の親戚や友人にも、いつも親身になってくれる。けれど今回は、本当にそれだけなのだろうか。
そのとき、未緒がおそるおそるドアを開けて入ってきた。
「ごめんなさい。私のせいで、二人が喧嘩しちゃって。今夜、ここを出ていくから。これ以上、迷惑はかけない」
彰人は一瞬言葉に詰まり、すぐに未緒をなだめた。
「気にするな。こんな時間に一人で出るのは危ない。あと数日したら……」
「未緒はホテルに泊まればいい」
冷たく言葉を遮った。
「澄乃!」
彰人は責めるように私を見た。
私も一歩も引かなかった。
「未緒が出ていかないなら、私が出ていく」
彰人は険しい顔で黙り込み、しばらくして口を開いた。
「俺が未緒をホテルまで送る。澄乃は先に寝ててくれ」
玄関のドアが開く音を聞いてふと思い出し、慌てて二人を追いかけて呼び止めた。
「彰人がホテルに泊まって。未緒にはここに残ってもらう」
彰人は驚いたように振り返った。
「俺を信用できないのか?」
唇をかんだまま、何も答えなかった。
彰人を疑っているわけではないが、未緒がどんな手を使うかは嫌というほど知っている。
前も同じように油断して、足をくじいた未緒を奏太にホテルまで送ってもらった。結局、二人はその夜、関係を持った。
私が黙っていると、彰人は私が自分を信用していないのだと思ったらしい。腹を立て、「分かった、分かった」と繰り返し、そのまま出ていき、ドアを乱暴に閉めた。
部屋の中は、しんと静まり返った。
未緒が笑みを浮かべた。
「へえ。さすがに同じ失敗はしないのね」
未緒をちらりと見て、ソファの隙間に隠していたタバコを取り出した。箱を軽くたたき、一本取り出して火をつけた。
未緒もついてきて、私の隣に腰を下ろした。タバコの箱を手に取って眺め、自分も一本に火をつけると、意味ありげに言った。
「何年経っても、まだこれが好きなのね」
「未緒だって、同じでしょ」
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