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誓いが霧のように消え失せた第1話

この話は約2164字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

夫が浮気している間、五歳の息子が彼のために見張りをし、父子は外に新しい家庭を築いていた。

彼らは私を裏切るたびに、帰ってくるとバッグや花を買ってくれた。家には彼らからの贈り物が山のように積まれ、誰が見ても、私を大切にする夫と、私を愛する子供がいると羨んだ。

だが、私だけが知っている。彼らが私に抱く罪悪感の深さは、外にいるあの「妻」、あの「ママ」への愛の深さと同じなのだと。

* * *

「絵里、病院の手配はもう済んでいる。君さえ同意すれば、一ヶ月以内に伯母さんの海外での治療を手配できるよ」

「ありがとうございます、先輩。すぐにこちらの手続きを済ませて、母に付き添って行きます」

電話の向こうで、星野悟(ほしの さとる)は驚いたような声を上げた。

「えっ?君も海外に行くつもりなのか?」

「ご迷惑でしょうか?」

藤原絵里(ふじはら えり)は少し緊張した。

「もちろんそんなことはないさ。むしろ一緒に来てほしいくらいだ。先生もずっと君を気にかけているし、後輩たちも噂の君に会いたがっている。ただ、一人で来るなんて、夫や息子さんは知っているのかい?」

「彼らには後で話します」

絵里は電話を切り、すでに署名を済ませた離婚届と離婚協議書を書斎の机の上に置いた。

本棚には様々な著作が並んでいるが、すでに薄っすらと埃を被っている。

絵里が一冊の本を手に取ると、その裏に隠されていた写真立てを見つけた。

写真の中には、幸せそうな三人家族が写っている。

一歳になったばかりの藤原蓮(ふじはら れん)が絵里におとなしく抱かれ、藤原和也(ふじはら かずや)は妻と息子を見下ろして、優しく愛情に満ちた笑みを浮かべている。絵里も穏やかに微笑み、全身から幸福のオーラが溢れ出していた。

それを見て、絵里の胸の奥がツンと痛んだ。あの頃、彼らはまだ幸せな家族だったのだ。

絵里と和也は政略結婚だったが、それでも新婚時代は夫婦円満で、誰もが認めるおしどり夫婦だった。

一年後、絵里は身ごもった。

彼女は幼い頃から体が弱く、妊娠中はさらに苦労が絶えなかった。

ある夜、気分が悪くなり、口の中が苦くて、涙目で和也を見つめながらスイカが食べたいとねだったことがある。

和也は何も言わず、服を着て寝室を出て行った。

翌日、絵里は念願のスイカを食べられたが、和也は病に倒れてしまった。

なんと、あんなに寒い夜に、彼自らスイカを探しに出かけていたのだ。そして、彼が冷え切った体で帰ってきた時、絵里は待ちきれずにすでに眠りに落ちていた。

絵里は熱で顔を真っ赤にした和也を見て、軽く彼を叩きながら咎めた。

「社長のくせに、自分で風邪を引くなんて。アシスタントに探させればよかったのに。それに、スイカなんて食べられなくても死にはしないわ」

和也は弱々しい声だったが、それでも顔には笑みを浮かべていた。

「君が喜んでくれるなら、それだけで十分さ」

かつての幸せな時間を思い出し、絵里の心は酸っぱく締め付けられた。

だが悲しいかな、かつての優しい囁きは次々と放たれる詰問に取って代わり、愛情に満ちた言葉は、嫌悪に満ちた「絵里、いい加減にしろ!」という怒声へと変わってしまった。

脳裏に浮かぶ数々の光景は、最終的に三日前の夜で静止した。

その日は土砂降りの雨だった。絵里が藤原家に駆けつけた時、すでに宴は始まっていた。

今日は藤原家が蓮の五歳の誕生日を祝う日で、一族が一堂に会していた。

なのに、子供の生みの親である彼女だけが、家族の宴のリストから外されていたのだ。

和気藹々としていた室内は、彼女が足を踏み入れた途端、歓声と笑い声がピタリと止んだ。

全員が一斉に眉をひそめてこちらを向き、その目には冷淡さと不満が満ちていた。

蓮は唇を尖らせ、大きな目をクリクリさせてこちらを見た。その敵意に満ちた眼差しは、自分の母親ではなく、まるで敵を見ているかのようだった。

文入沙耶(ふみいり さや)。和也のかつての高嶺の花。彼女と和也が蓮の両脇に座っているその光景は、まるで彼らこそが本当の家族であり、絵里は彼らの美しい生活を壊す部外者であるかのようだった。

絵里はたまらず、その場で激昂した。

「あんた恥を知りなさい!酒井グループの投資プランを盗んだだけじゃ飽き足らず、他人の夫と息子まで盗むつもり!?」

沙耶がビクッと体を縮ませると、和也が力強くテーブルを叩いた。

「絵里、言葉を慎め!酒井グループの破産は沙耶には関係ない。これ以上理不尽な振る舞いをするなら、もう帰ってこなくていい!」

「私は本当のことを言っているのに、どうして部外者を信じて私を信じてくれないの?」

「でたらめを言うな。文入家と藤原家は代々の付き合いだ。沙耶が部外者なわけないだろう!今日は沙耶が蓮の誕生日を祝いに来てくれたんだ。馬鹿な真似はよせ!」

「私が馬鹿な真似ですって?」

絵里は怒りのあまり逆に笑い出し、沙耶の偽善的な顔を引き裂こうと飛びかかったが、和也にガッチリと押さえつけられた。

蓮もこのタイミングで泣き喚き始めた。

「うぇぇぇん、ママのばか、悪いママ!沙耶さんをいじめちゃダメだ!うぅっ、ママなんか大嫌い!」

この茶番劇がどうやって幕を下ろしたのか、覚えていない。

絵里が覚えているのはただ一つ。夫と息子が揃って沙耶の側に立った時、彼女は離婚を決意したということだ。

夫も子供も、もう一人たりともいらない。

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