和紙文「記憶喪失」の元カノと、俺の妻になった彼女の姉 · 第3話設定≡

「記憶喪失」の元カノと、俺の妻になった彼女の姉第3話

この話は約1453字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

俺の眼差しがあまりに凄まじかったのか、葉月が身を竦ませた。

それを見た透が我慢ならなくなったようだ。葉月を背後に庇いながら、俺の鼻先を指さして罵った。

「お前どこまで恩知らずなんだ?葉月は週一で会ってやるって約束してくれたのに、お前はそれを無下にするどころか、今度は奈緒さんの夫を騙るつもりか。

誰もが知ってるぞ、彼女の逆鱗が『謎の旦那』に関することだって。こんなことして、奈緒さんを怒らせて、葉月に怒りの矛先が向くように仕向けたつもりか?お前、どこまで腹黒いんだ!」

その言葉に、俺は何かを悟った。

かつて、透は俺をことごとく邪魔し、何事につけても俺より上に立とうとしていた。

俺と葉月を引き裂くために、毎日のように彼女の前で俺を貶めていた。

だがあの頃の葉月は、透の言葉を全く信じなかった。それどころか透の悪意ある中傷を理由に、彼をきつく叱りつけたこともあった。

それなのに今、かつて誰より俺を守ってくれた人が、透と同じ側に立っている。

彼女は透の手を握り、札束を俺の顔に叩きつけた。

「もういいわ。演技もやめなさい。昔のよしみで、今回は大目に見てあげる。その貧相な格好を見る限り、このお金で一ヶ月は遊んで暮らせるでしょ」

紙幣の角が顔を掠め、血の粒が滲む。気にせず、ただ目を上げて葉月を睨みつける。

彼女の顔に一瞬、後ろめたさと焦りが走った。

それを見て、俺は鼻で笑って腰を屈めた。

葉月の顔から後ろめたさと焦りが消え、再び嘲るような笑みが浮かぶ。

「フン。意外と意地があると思ったのに……」

次の瞬間、彼女の言葉が止まった。葉月の呆然とした視線を受けながら、散らばった札の中から指輪を見つけ出した。

葉月が呆気に取られる。俺が個室を出る前に、彼女が行く手を遮った。

「まだこんな状況でも演技を続けるつもり?そこに落ちてるお金、一枚だけでもあなたの安物の指輪が何十個も買えるのよ!」

彼女の顔色は複雑だ。よく見ると、苛立ちすら含んでいる。

彼女の感情の変化を気にせず、その手を乱暴に振り払った。

葉月の手が宙で固まる。歯を食いしばる音が聞こえた。

「結構よ、随分と偉くなったものね。やっぱり貧乏人は口だけは達者なのね。三日後は私と透の結婚式よ。お姉ちゃんもその日に帰国して、あの謎の義兄も出席するわ。度胸があるなら、来てみなさいよ!」

結婚という言葉を聞いて、透の目が輝く。続けて言った。

「正体がバレるのが怖くて、来られないんじゃないか」

奴らとこれ以上関わりたくない。踵を返して大股で歩き出し、去り際に一言残した。

「三日後、必ず行く。その時もまだ自信満々でいられるといいな」

足早に会場を出て、新鮮な空気を吸い込むと、こみ上げてきた吐き気がようやく収まった。

スマホを取り出し、三年前に受け取った動画をまた見る。

画面の中で、女が透の胸に身を預け、けだるく奔放に笑っていた。

「修司って人、本当につまらないの。愛してはいるけど、私が求める刺激を与えてくれないのよね。

今回の偽装死、十分遊んだら戻るわ。彼は一緒に暮らす分には向いてるけど、私がこんな騒ぎを起こしたら、あの性格だと私のために死のうとするかもしれないから、ちゃんと見張っててね」

彼女の死亡証明書を受け取った日、俺は本当に全てを終わらせようと思った。

馬鹿なことをするなと、彼女の友人たちがずっと俺を止めてくれた。

今思えば、あの歪んだ泣き声は、必死に笑いを堪えていたのだろう。

スマホをしまい、街灯の黄ばんだ光を眺める。

葉月が死んだかどうかに関わらず、俺の中では、三年前から彼女はとっくに死んでいた。

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