「記憶喪失」の元カノと、俺の妻になった彼女の姉第3話
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俺の眼差しがあまりに凄まじかったのか、葉月が身を竦ませた。
それを見た透が我慢ならなくなったようだ。葉月を背後に庇いながら、俺の鼻先を指さして罵った。
「お前どこまで恩知らずなんだ?葉月は週一で会ってやるって約束してくれたのに、お前はそれを無下にするどころか、今度は奈緒さんの夫を騙るつもりか。
誰もが知ってるぞ、彼女の逆鱗が『謎の旦那』に関することだって。こんなことして、奈緒さんを怒らせて、葉月に怒りの矛先が向くように仕向けたつもりか?お前、どこまで腹黒いんだ!」
その言葉に、俺は何かを悟った。
かつて、透は俺をことごとく邪魔し、何事につけても俺より上に立とうとしていた。
俺と葉月を引き裂くために、毎日のように彼女の前で俺を貶めていた。
だがあの頃の葉月は、透の言葉を全く信じなかった。それどころか透の悪意ある中傷を理由に、彼をきつく叱りつけたこともあった。
それなのに今、かつて誰より俺を守ってくれた人が、透と同じ側に立っている。
彼女は透の手を握り、札束を俺の顔に叩きつけた。
「もういいわ。演技もやめなさい。昔のよしみで、今回は大目に見てあげる。その貧相な格好を見る限り、このお金で一ヶ月は遊んで暮らせるでしょ」
紙幣の角が顔を掠め、血の粒が滲む。気にせず、ただ目を上げて葉月を睨みつける。
彼女の顔に一瞬、後ろめたさと焦りが走った。
それを見て、俺は鼻で笑って腰を屈めた。
葉月の顔から後ろめたさと焦りが消え、再び嘲るような笑みが浮かぶ。
「フン。意外と意地があると思ったのに……」
次の瞬間、彼女の言葉が止まった。葉月の呆然とした視線を受けながら、散らばった札の中から指輪を見つけ出した。
葉月が呆気に取られる。俺が個室を出る前に、彼女が行く手を遮った。
「まだこんな状況でも演技を続けるつもり?そこに落ちてるお金、一枚だけでもあなたの安物の指輪が何十個も買えるのよ!」
彼女の顔色は複雑だ。よく見ると、苛立ちすら含んでいる。
彼女の感情の変化を気にせず、その手を乱暴に振り払った。
葉月の手が宙で固まる。歯を食いしばる音が聞こえた。
「結構よ、随分と偉くなったものね。やっぱり貧乏人は口だけは達者なのね。三日後は私と透の結婚式よ。お姉ちゃんもその日に帰国して、あの謎の義兄も出席するわ。度胸があるなら、来てみなさいよ!」
結婚という言葉を聞いて、透の目が輝く。続けて言った。
「正体がバレるのが怖くて、来られないんじゃないか」
奴らとこれ以上関わりたくない。踵を返して大股で歩き出し、去り際に一言残した。
「三日後、必ず行く。その時もまだ自信満々でいられるといいな」
足早に会場を出て、新鮮な空気を吸い込むと、こみ上げてきた吐き気がようやく収まった。
スマホを取り出し、三年前に受け取った動画をまた見る。
画面の中で、女が透の胸に身を預け、けだるく奔放に笑っていた。
「修司って人、本当につまらないの。愛してはいるけど、私が求める刺激を与えてくれないのよね。
今回の偽装死、十分遊んだら戻るわ。彼は一緒に暮らす分には向いてるけど、私がこんな騒ぎを起こしたら、あの性格だと私のために死のうとするかもしれないから、ちゃんと見張っててね」
彼女の死亡証明書を受け取った日、俺は本当に全てを終わらせようと思った。
馬鹿なことをするなと、彼女の友人たちがずっと俺を止めてくれた。
今思えば、あの歪んだ泣き声は、必死に笑いを堪えていたのだろう。
スマホをしまい、街灯の黄ばんだ光を眺める。
葉月が死んだかどうかに関わらず、俺の中では、三年前から彼女はとっくに死んでいた。
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