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裏切りの始まりはあの同窓会だった第3話

この話は約2041字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

私は笑った。

小鳥は明らかに戸惑う顔をした。彼女の中では、私は怒るはずだった。取り乱して、彼女を罵るはずだった。

なのに私は、笑っていた。

おかしくて、とうとう涙までこぼれた。

「……何がそんなにおかしいの?」

小鳥が眉をひそめる。

私は涙を拭いながら、笑った。「ろくでもない人間同士、お似合いじゃない」

「なっ……!」

私は淡々と言った。

「亮介はあなたに譲るよ。私は出ていくから」

今度は、小鳥のほうが動揺した。

「……本当に、それでいいの?」

私は聞き返した。

「あなた自身が、あの人を『ろくでもない男』だって言ったんでしょう?だったら、私が残る理由もない」

小鳥の顔に、苛立ちが滲む。私をじっと睨みつけたかと思うと、ふっと鼻で笑った。

「あなた、本当は強がってるだけでしょう?昔はこんなに聞き分けがよくなかったもの。私を嫉妬させて、焦らせようとしてるんじゃない?」

そして、楽しそうに口元を歪めた。

「知ってる?あなたが大事にしてるその『優しい夫』ね――私の足に口づけて、媚びへつらったことがあるのよ。それどころか、『ママ』って呼んだことまであるの」

胸の奥に、鋭い痛みが走った。

もう、ここを出ていくと決めている。それでも、その言葉は容赦なく心を抉った。

亮介が私の体を求めてくる時、こちらの気持ちなんて少しも気にせず、いつだって私のほうに我慢を強いてきた。

そんな亮介が――別の女には、そこまでして縋っていた。

「それから、忘れないでね。私、あなたのよくない写真を持ってるの。大人しく亮介から離れたほうが身のためよ」

そのとき、玄関のドアが開いた。

「ただいま」

亮介の声が響く。

「あすか、俺は小鳥をクビにしたから、もう怒るなよ。あすかの好きなカニも買ってきた。俺がご飯を作るよ」

そこまで言って、亮介の足が止まった。

リビングにいる小鳥を見つけたのだ。

「……なんで、ここにいる?」

小鳥はすぐに笑顔を作った。

「あすかに謝りに来たの」

それを聞くと、亮介の表情が少し和らいだ。

「そうか。せっかく来たんだし、一緒に食べよう」

「じゃあお言葉に甘えようかな。私も、得意料理を作ってあげるよ」

2人は並んでキッチンへ向かっていく。

私はその背中を見つめた。爪が掌に食い込むほどに両手を強く握りしめる。

胸の奥から、じわじわと血が滲むようだった。

結婚して3年。

亮介は家事など何ひとつしなかった。だから私は、彼が料理までできるなんて知らなかった。

「亮介、料理の腕、落ちたんじゃない?昔のほうがおいしかったわ」

食卓で、小鳥がいかにも不満そうに言った。

亮介は苦笑する。

「ずっと作ってなかったからな」

小鳥は私を見ると、にこやかに続けた。

「あすか、普段亮介にも料理させればいいのよ。甘やかしちゃだめだからね。この人、こう見えても、いろいろできちゃうんだから」

「いいから食べてよ。食事中なのに、よくこんなに喋れるな」

亮介は呆れたように言い返し、それから私を見る。

「あすか、どうして食べないんだ?」

「……私、カニにアレルギーがあるの」

亮介の顔に、気まずそうな色が浮かんだ。

すると小鳥が、何でもないことのように口を挟む。

「そうなの?私、アレルギーに効く民間療法を知ってるよ。カニを食べる時、度数の高いお酒を一緒に飲むの。ちょうどウィスキーも持ってきたから、試してみたら?」

私は首を横に振った。

「無理。私、胃がんだから……お酒は飲めないの」

亮介が眉をひそめる。

「胃がん……?そんな話聞いてないぞ?どうして胃がんなんかに……」

理由なら、彼が知ってるはずだ。この3年間、私は亮介に付き合い、何度も酒の席に出てきた。そのたびに無理をしたせいで、私の胃はとうにぼろぼろだった。

小鳥が唇を尖らせ、目に涙が浮かんでくる。

「……あすか。やっぱり私のこと、嫌いなんでしょう?もう帰るね」

亮介が苛立ったように、テーブルを叩いた。

「あすか、今日は小鳥の誕生日なんだぞ。少しくらい我慢したらどうなんだ?」

――今日が、小鳥の誕生日だったのか。

私は何も言わなかった。

亮介は酒をグラスいっぱいに注ぐと、私の前に置いた。

有無を言わせない視線だった。

「飲めよ。酒くらいで何が起こるっていうんだ」

それでも、私は首を横に振った。

すると亮介は立ち上がった。グラスを掴み、そのまま私の口元へ押しつける。

次の瞬間、酒が喉へ流れ込んできた。焼けるような痛みが、喉から胃へと落ちていく。

涙が滲んだ。

それでも亮介は、やめなかった。

向かいでは、小鳥が楽しそうに手を叩いている。

その光景を見ながら、私はふと思い出していた。

プロポーズの日、亮介は私の手を握り、誓うように言った。

「あすか、安心しろ。これからは本気でお前を大切にする。お前が嫌なことは絶対にさせないし、傷つけるようなこともしないから」

「……っ」

口の中に、鉄の味が広がった。

次の瞬間――私は、テーブルの上に血を吐いた。

意識が遠のいていく。

最後に見えたのは、顔面蒼白になって立ち尽くす亮介だった。

「……あすか?どうしたんだ?頼むから……目を覚ましてくれ!」

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