若様、お引き取りください第3話
この話は約1177字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
青葉は台所の片付けを終えると、二階へ上がって少し寝ようと思った。
自室のドアを開けると、そこには彼女のパジャマを着た真琴がベッドに寝そべっており、清吉がそばに座って薬を塗っていた。
青葉が入ってくるのを見ると、清吉は当然のように命じた。
「客間で寝ろ」
青葉はかすれた声で言った。
「ここは私の部屋」
清吉は冷たく言い放った。
「真琴は一番いい部屋に泊まるべきだ。熱々のスープをぶっかけたんだ。ちゃんと謝罪しろ。それくらいの譲歩は当然だろ」
彼はすでに、彼女の罪を決めつけていた。
青葉は苦笑した。
「じゃあ、私の服を彼女に着せるのも謝罪なの?」
清吉は苛立ちを隠そうともせず言い返した。
「そのパジャマは元々俺が買ったものだ!たかが服一着でガタガタ言うなよ。お前、真琴を家から追い出したくて仕方ないってわけか?」
彼は冷笑を浮かべた。
「俺はあえて彼女をここに住まわせるぞ。ずっと、毎日な」
真琴が彼の袖を引いた。
「そんな言い方、やめて」
清吉は優しく答えた。
「気にするな。こいつには少し痛い目見せた方がいいんだ」
青葉は、真琴の隣に身を寄せる清吉の姿を見つめ、その光景が胸に深く突き刺さるのを感じた。
だが、この時の彼女はあまりにも疲れ切っていて、もう何も言いたくなかった。
「青葉、聞こえてんのか?」
彼女は虚ろな目でうなずいた。
「ええ」
清吉は意外そうに言った。
「なんて言った?」
「着替えを取りに行く」
彼女は淡々と答え、クローゼットに向かった。
その後を追って入ってきた清吉は、どこかぎこちない口調で言った。
「真琴は客なんだ。それに、そもそもスープをかけたお前が悪いんだろ」
青葉は何も言わず、静かに「うん」とだけ答えた。
清吉は急に逆上した。
「ふてくされてるのか?俺が一番ムカつくのは、その死にそうな目で慰め待ちの態度なんだよ!」
彼は吐き捨てるように言って部屋を出ていき、真琴の隣で何の遠慮もなく大声で喋り始めた。
「明日はどこ行こうか?学校にでも行ってみる?もう五年経ったけど、昔飼ってたあの野良猫、まだいるかな」
荷物をまとめた青葉が部屋を出ようとしたとき、ガラスのショーケースの中に青いサファイアのイヤリングが見えた。
それは、あのインフルエンサーを追い出した後、彼が誕生日に贈ってくれたものだった。
彼はその時、「もう二度と君を悲しませない」と約束した。もし約束を忘れたら、このイヤリングを見せてくれ、必ず反省するから、と。
しかし真琴が戻ってきてから、その約束は何度も破られた。
今さらこのイヤリングを見せたところで、彼にとっては何の意味もないのだろう。
青葉はイヤリングを掌に収め、寝室の前を通ったとき、真琴が清吉に顔を寄せて耳元で囁き、手を肩に置き、まるでキスしているかのような姿が見えた。
その光景に胸が痛んだが、彼女は静かに通り過ぎた。
イヤリングをゴミ箱に捨て、何も言わず客間へと向かった。
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