花火ほど鮮やかじゃなくても第1話
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「沙耶、今日の参観日は、真美さんも一緒に行くから、君は行かなくていいよ」
白川達也(しらかわ たつや)の隣には、知的で上品に着飾った香坂真美(こうさか まみ)が立っている。
白川沙耶(しらかわ さや)はスカートの裾を握りしめ、学校の参観日のためにわざわざ支度を整えていたことを言い出せずにいた。
しかし、どんなに努力しても、真美の前に立つと、自分が色あせた存在に思えてしまう。ただそこにいるだけの影のような――そんな自分を思い知らされるだけだった。
息子の颯太(そうた)が五歳になったとき、達也は高い報酬で育児コンサルタントの真美を家に招いた。
それ以来、この家にはもうひとりの「女」がいる。
沙耶と達也の結婚生活も、いつの間にか「三人で歩むもの」に変わっていた。
最初は、沙耶の貧しい家柄を気にせず、家族の反対を押し切ってでも彼女を妻にしたいと決意してくれた達也。
結婚後、彼女の家柄を侮辱するような噂話が聞こえれば、達也は必ず徹底的に相手に報復した。
沙耶は信じていた――たとえ世界中が自分を見下しても、達也だけは絶対に自分を見下さないと。
だが、真美が家に来てから、すべてが変わった。
* * *
「沙耶、今日の参観日は、真美さんも一緒に行くから、君は行かなくていいよ」
白川達也(しらかわ たつや)の隣には、知的で上品に着飾った香坂真美(こうさか まみ)が立っている。
白川沙耶(しらかわ さや)はスカートの裾を握りしめ、学校の参観日のためにわざわざ支度を整えていたことを言い出せずにいた。
しかし、どんなに努力しても、真美の前に立つと、自分が色あせた存在に思えてしまう。ただそこにいるだけの影のような――そんな自分を思い知らされるだけだった。
息子の颯太(そうた)が五歳になったとき、達也は高い報酬で育児コンサルタントの真美を家に招いた。
それ以来、この家にはもうひとりの「女」がいる。
沙耶と達也の結婚生活も、いつの間にか「三人で歩むもの」に変わっていた。
最初は、沙耶の貧しい家柄を気にせず、家族の反対を押し切ってでも彼女を妻にしたいと決意してくれた達也。
結婚後、彼女の家柄を侮辱するような噂話が聞こえれば、達也は必ず徹底的に相手に報復した。
沙耶は信じていた――たとえ世界中が自分を見下しても、達也だけは絶対に自分を見下さないと。
だが、真美が家に来てから、すべてが変わった。
「真美さんは名家のご令嬢で、教養もあって上品だ。彼女に子どもの教育を任せられるから安心できるんだ」
その言葉で、沙耶は初めて気づく。達也は心の奥底で、彼女の家柄を「卑しい」と感じ、「何ひとつ取り柄がない」と思っていること。
――母親として子どもを導くことすら、許されていなかったのだ。
達也が守ってきたのは、沙耶ではなく、自分自身のもろいプライドだった。
真美には、さまざまな肩書きがある。
海外帰りの才女、一流大学出身、育児心理の専門家――
眩いばかりの称号が、沙耶の心をますますかき乱す。
彼女が家に来てからは、沙耶が子どもに何か教えようとするたび、必ず横やりを入れてくる。
そして達也は、いつも真美の意見を最優先する。
次第に、達也と真美はまるで「夫婦」のように見え、颯太も真美にばかり懐いていく。
沙耶だけが、この家の「よそ者」になっていった。
そんな沙耶の額に、達也がキスを落とす。それから、どこかごまかすような口調でつぶやいた。
「俺と真美さんで行けば、先生たちや他の保護者に子どもが見下されずに済む。君ならきっと、俺の気持ちを理解してくれると思う」
颯太が駆け寄ってきた。
彼女のそばに来ると、鼻をつまむ。
「ママ、なんか臭い!真美先生みたいにいい匂いじゃない」
沙耶は朝、家族のために朝食を作った。台所で料理したときの油のにおいが、まだ体に染みついていた。
結婚して八年、沙耶は毎日欠かさず、達也と颯太のために三食手作りしてきた。
偏食気味の颯太のため、料理教室にも通い、ウサギやクマ、ブタ……さまざまなキャラ弁も研究してきた。
けれど、どんなに努力しても、手料理を褒めてもらえることはなく、「嫌われる理由」になっていくばかりだった。
達也は真美と颯太を連れて車に乗り込む。
三人の後ろ姿は――まるで本当の家族のようだった。
沙耶はその背中を見送りながら、静かにスマホを取り出す。
「先生、私、決めました。もう一度、絵の道に戻ります。大学のポストも引き受けて、学生たちの指導もさせてください」
「ずっと頼み込んでもダメだったのに、頑なに『主婦に専念する』って言い張っていたじゃない。どうして急に心変わりしたの?」
「仕事もお金もない人間は、他人から見れば『ゴミ同然』。もう『価値のない人間』でいたくないんです」
「やっと思い直したのね!すぐ手配する。ひと月後には海外で着任できるようにしておく。そのときは、夫や子どもとも離れる覚悟、本当にあるの?」
「あります」
これからは、自分のために生きる。
――夜。
沙耶はいつものように、リビングで達也の帰りを待たなかった。
早めに自分の部屋に戻り、ベッドにもぐりこんだ。
十時を過ぎて、ようやく車の音が聞こえてくる。
庭からは、達也と真美、颯太の楽しそうな声が聞こえてきた。
参観日なんて、とっくに終わっているはずなのに――
彼らはきっと、外で食事をして、さらに一緒に遊んで帰ってきたのだろう。
沙耶は、その笑い声を無理やり聞こえないふりをして、眠りに落ちようとした。
やがて、達也が寝室に戻ってきた。
ベッドが沈み、冷たい手が沙耶のパジャマの中に滑り込んでくる。
沙耶は思わず抵抗するが、達也は強引に彼女を熱い胸に引き寄せる。
「怒ってるのか?君は俺の妻であり、颯太の母親。その地位は誰にも奪えない」
彼女の拒絶を感じ取ったのか、達也はさらに優しくなり、まるで沙耶の心をやわらかく包み込むように、額や鼻先、唇へとキスを重ねていく。
その甘い誘惑に、沙耶はつい力が抜けてしまう。
達也の手は、彼女の腰を強く引き寄せ、呼吸も熱くなっていく――
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