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花期を逃した私と、遅れてきた春第1話

この話は約3440字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

高梨瞳(たかなし ひとみ)と有馬蓮(ありま れん)は学園公認の、誰もが羨む完璧なカップルだった。

蓮は、すれ違う誰もが思わず振り返るほどの学園のプリンスだ。すらりとした長身に、目を奪われるほど整った顔立ち。いつも制服の上に黒のマウンテンパーカーを羽織り、クールでどこか近寄りがたいオーラを纏っている。

そんな彼に女子たちは我先にと群がるが、彼の目に映るのは、いつだって瞳だけだった。

二人は幼馴染だ。物心ついた時から、二人はいつも一緒だった。一歳の誕生日には互いの小さな手を握り合い、七歳で「大きくなったら結婚しよう」と約束を交わした。十四歳でラブレターを交換し、十六歳で正式に恋人同士となり、十八歳で同じ大学を目指すと誓い合った……

永遠に続くと思われた二人の関係が揺らぎ始めたのは、高校三年の春のことだった。

クラスに一人の転校生がやってきたのだ。小池桃果(こいけ ももか)という子だ。

「成績優秀者による学習サポート」のペアを決める際、担任はあろうことか、蓮を桃果の担当に指名したのだ。

「もし断るつもりなら、校内で瞳とイチャつくのを禁止するからな」

* * *

高梨瞳(たかなし ひとみ)と有馬蓮(ありま れん)は学園公認の、誰もが羨む完璧なカップルだった。

蓮は、すれ違う誰もが思わず振り返るほどの学園のプリンスだ。すらりとした長身に、目を奪われるほど整った顔立ち。いつも制服の上に黒のマウンテンパーカーを羽織り、クールでどこか近寄りがたいオーラを纏っている。

そんな彼に女子たちは我先にと群がるが、彼の目に映るのは、いつだって瞳だけだった。

二人は幼馴染だ。物心ついた時から、二人はいつも一緒だった。一歳の誕生日には互いの小さな手を握り合い、七歳で「大きくなったら結婚しよう」と約束を交わした。十四歳でラブレターを交換し、十六歳で正式に恋人同士となり、十八歳で同じ大学を目指すと誓い合った……

永遠に続くと思われた二人の関係が揺らぎ始めたのは、高校三年の春のことだった。

クラスに一人の転校生がやってきたのだ。小池桃果(こいけ ももか)という子だ。

「成績優秀者による学習サポート」のペアを決める際、担任はあろうことか、蓮を桃果の担当に指名したのだ。

「もし断るつもりなら、校内で瞳とイチャつくのを禁止するからな」

普段の蓮なら即座に突っぱねるところだが、この脅しには逆らえなかった。

最初は本当に、ただの補習のはずだった。勉強を教えたり、校内を案内したりするだけの関係。しかし、次第に歯車が狂い始めた。

桃果が「駅前の有名なケーキ屋さん、すごく並んでるけど食べてみたいな」と呟けば、蓮は自習を抜け出してまで買いに走った。

桃果がSNSに【なんか今日、しんどい】と投稿すると、蓮は深夜まで通話に付き合い、相談に乗るようになった。

極めつけは、桃果の生理痛がひどいと聞いた日だ。蓮は校則違反を承知で塀を乗り越え、コンビニまで温かいココアを買いに走ったのだ……

瞳は悲しみに暮れた。怒りをぶつけ、喧嘩をし、別れを切り出すようになった。

一度目の別れ話は、電話越しだった。蓮は長い沈黙の後、荒い息遣いだけを返してきた。その夜は土砂降りの雨だった。ふと気づけば、彼は瞳の家の前に立っていた。全身ずぶ濡れのまま、朝まで立ち尽くして。彼は掠れた声で何度も何度も瞳の名前を呼び、「ごめん」と繰り返した。

二度目の別れ話の時、彼は学校を丸一日休み、瞳の教室の前で待ち伏せをした。充血した赤い目で、乱れた字で思いの丈を綴った長い手紙を差し出し、「もう一度チャンスをくれ」と深々と頭を下げた。

だが、回数を重ねるうちに――彼は高を括るようになった。

彼女は自分から離れられない、と。

だから彼の謝罪は、回を追うごとに雑になっていった。以前ならすぐに飛んできてくれたのが、一日後、三日後、一週間後……と、その間隔は延びていくばかり。

そして、九十九回目。

大学受験が終わった打ち上げの席でのことだ。桃果が何気なく「スイカ食べたいな」と口にした。すると蓮は、当たり前のような顔をして、一番甘い真ん中の部分をスプーンですくい、桃果の皿に載せたのだ。

すぐ隣に座っている瞳もまた、スイカの真ん中の一番甘い部分が大好きだということを、すっかり忘れてしまったかのように。

積もりに積もった失望が、ついに堰を切った。

瞳は真っ赤なスイカを見つめたまま、恐ろしいほど冷ややかな声で告げた。「蓮、別れよう」

蓮の手が止まる。彼は面倒くさそうに瞼を持ち上げると、心底うんざりした声を出した。「……またそれ?」

瞳はもう、何も言わなかった。バッグを掴むと、個室を出た。

いつもなら追いかけてくるはずの蓮が、今回は動かなかった。

彼はナメていたのだ。瞳がまた機嫌を損ねているだけだ、と。数日もすれば機嫌が直り、いつものように自分の元へ戻ってくるだろう、と。

だから瞳が出て行った後も、彼は余裕の笑みを浮かべ、周囲にからかわれて酒を飲まされそうになる桃果の隣に座り、「二十歳まで俺が守ってやる」などと言ってのけた。

彼は気づいていなかった。今回は、本気だということに。

何度も何度も傷つけられ、すり減ってしまった瞳の心は、ついに最後の温度を失ってしまったのだということに。

……

家に帰って真っ先にしたことは、パソコンを開き、志望校の欄を書き換えることだった。

蓮と一緒に受けると約束していた西京大学を消し、遥か遠方の大学へと変更する。もう二度と、同じ場所にいるわけにはいかない。

次に、蓮との思い出の品をすべて片付け始めた。

限定版のぬいぐるみ、お揃いのブレスレット、甘い言葉が綴られた無数のメモ、二人で撮った写真の束……どれもが、かつてはかけがえのない宝物だった。甘く幸せだった日々も、胸が締め付けられるような切ない瞬間も、今となってはただ重荷でしかない。

瞳はそれらすべてを、大きな段ボール箱に詰め込んだ。

翌日。その段ボール箱を抱え、瞳は蓮の家を訪れた。

昔から知っている執事が、何も聞かずにリビングへと案内してくれる。

広々としたリビングでは、蓮と桃果が並んでソファに座り、最新のゲームに興じていた。二人の距離は妙に近く、桃果は楽しげな歓声を上げている。

「蓮くんすごい!私、このステージ何回やってもクリアできなかったのに!」

瞳は、桃果の服装に目を疑った。

大きめの黒いTシャツ。あまりにも見覚えがありすぎる。去年の蓮の誕生日に、何軒ものショップを回ってようやく見つけ出した限定品だ。

あの時、プレゼントを受け取った蓮は満面の笑みで瞳を抱き上げ、熱を帯びた声で耳元に囁いたのだ。

「瞳がくれたんだ。毎日着るよ」

その「毎日着る」という言葉の中には、簡単に他の女に貸し与えることも含まれていたのだろうか。

瞳の視線に気づき、桃果が振り返った。段ボール箱を抱えた瞳を見ると、彼女は悪びれもせず無邪気な笑みを浮かべた。

「あ、瞳ちゃん!蓮くんに誘われてゲームしに来たんだ。お昼に手作りパスタまでご馳走してくれちゃって。でね、私ドジだからジュースこぼしちゃって……それで蓮くんの服借りちゃった。大丈夫だよね?」

蓮は桃果の言葉に対し、だるそうに視線だけを向けてきた。手元では器用にコントローラーを操作したまま、投げやりに言った。

「何しに来たの?別れたんじゃないのか?」

まるで他人事のようなその態度に、瞳の胸に冷たい自嘲が広がった。

一度目の別れ話の時、土砂降りの中で惨めに謝り続けた彼。二度目、三度目と回数を重ねるごとに、謝罪が遅くなっていった彼。前回に至っては、「もう怒るなよ、夜に焼肉連れてくから」というラインメッセージが一通だけ……

彼は幾度となく、瞳の我慢の限界を試すような真似を繰り返してきた。瞳がそのたびに許してしまうから、彼は際限なく図に乗っていったのだ。

だが彼は知らない。限界というものは、必ず訪れるということを。

九十九回目の別れで、瞳はもう本当に、彼のことを諦めたのだ。

瞳は深く息を吸い、込み上げる感情を押し殺した。「別れたから、返さなきゃいけないものがあって」

蓮は眉間を押さえ、いかにも面倒くさそうに言った。「そこまで怒ってるなら、そんなの勝手に捨てればいいじゃん。わざわざ持ってこなくていいよ」

「……そう」

瞳は静かに頷いた。そして何の迷いもなく、思い出の詰まった段ボール箱を抱えたまま、部屋の隅にある大きなゴミ箱へと歩み寄った。

躊躇いなく、箱ごと放り込む。

段ボールがゴミ箱の底に落ち、鈍く重い音が室内に虚しく響いた。

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