色褪せた愛よ、さようなら第3話
この話は約2019字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
青の登場により、場の空気は一気に重苦しくなった。
だが彼女は皆が歓迎していない様子に気づかぬふりをして、勝手に名月の向かいに腰を下ろし、笑みを浮かべながら皆の手元にある贈り物を眺めた。
「シャンリ・シュエナか……有名なブランドよね。でも皆まだ知らないの?これ、私が立ち上げたブランドなのよ」
彼女のブランド?
皆の心に疑念がよぎった。吉塚家は当時、嘉行によって破産に追い込まれ、国内ではどこにも立場がなくなったはず。そんな彼女がどうやってこんな高級ブランドを作れたのか。
「うちはあの時ちょっとした災難に遭ったけど、その後、今の夫に出会ってね。
二年前、彼が数千億投じてくれたの。それに人脈も総動員して、会社の設立を手伝ってくれたのよ。しかも、ひとつじゃないわ。全部で二十六社も設立してくれたの」
そう語る彼女の目線は、ちらりと嘉行をかすめ、そしてわざとらしく挑発的な笑みを浮かべて名月を見た。
その瞬間、名月の呼吸が止まりそうになった。
思い出したのは二年前、嘉行が異常に多忙だったあの時期。
あの時、彼は「海外市場を開拓してるから忙しい」と言っていた。だが、実際は青のために奔走していたのだ。
胸の奥から激しい痛みが走り、名月は思わず胸元を押さえた。
「どうしたんだ、名月?どこか痛いのか?」嘉行はすぐに立ち上がり、慌てた様子で言った。「今すぐ医者を呼んでくる!」
青は冷笑した。
「ねえ、千早さん。笹原社長にあれだけ大事にされてるのに、なんでそんな死人みたいな顔してんのよ?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、嘉行の顔が一瞬で険しくなり、力強く彼女の頬を打った。
「まだ黙らないなら、二度と口をきけなくしてやる」
青は頬を押さえながら、悔しそうに鼻を鳴らし、個室をあとにした。
彼女が去ると、場の空気は再びにぎやかさを取り戻したが、名月の顔色は一向に良くならなかった。
嘉行は彼女の手を強く握った。「名月、どこが痛む?もうすぐ医者が来るからな」
名月は彼の手を振り払った。「大丈夫。ちょっとお手洗いに行ってくるから、ついて来ないで」
廊下に出た名月は、再び青に行く手を塞がれた。
「さっきのことで、自分が嘉行にとってどれほど大事かなんて思わないでよ。私は彼の子を二人も産んでるのよ。彼の心はもう私に傾いてる。私が『子どもが熱を出した』って言ったら、彼はすぐに駆けつけるわ。信じる?」
個室に戻ると、嘉行がやはり落ち着かない様子だった。
彼は名月の額にキスをして言った。「ごめん、急に会社で用事ができたんだ。マネージャーには伝えてあるから、今日はみんなで楽しんで。費用は全部俺が持つよ」
名月は彼の袖を強く掴んだ。「今日一日、私と一緒にいるって言ったでしょ?お願い、そばにいて」
その眼差しは、懇願と静けさが入り混じっていた。その時、嘉行の胸の奥にふと不安が湧き上がった。
今ここで彼女の手を振り払ってしまえば、大切なものを失うのではないか——そんな予感。
しかし、青が「子どもが病気」と言っていた。自分の子どもだ。見に行かないわけにはいかない。
結局、彼は名月の指を一本一本ほどきながら言った。「ごめん、夜には戻るから……な?」
名月は深く息を吸い込んだ。彼の心は本当に、すでに傾いていたのだ。
三十分後、青から動画が送られてきた。
中に何があるか分かっていた。それでも名月は震える指で動画を開いた。
動画では、青が涙をこぼしながら訴えていた。
「あなたの顔が見えないだけで、死にたくなるほどつらいの。だからあの同窓会にも行ったのよ。でも千早と一緒にいるあなたを見たら、嫉妬で気が狂いそうになって、あんな嫌味を言っちゃった……それなのに、あなた、私を叩くなんて……」
嘉行は微笑んだ。明らかに、満更でもない様子だった。
彼は蒸しタオルで彼女の腫れた頬を優しくなでていた。
「もう泣くなよ。そんな顔してたら、猫みたいになっちゃうじゃん。なんでも言ってごらん。償いになるなら、何でもしてやる」
「じゃあ……子どもたちの誕生日がもうすぐなの。あなたが買ったあの島、あれをプレゼントにしてほしいの」
嘉行の表情が曇った。「それは俺と名月の子どものために買った島だ。ダメだ」
「お願い、パパ……占い師に聞いたら、あの島はうちの子と相性が最高なんだって。すごく縁起がいいの。ねえ、お願い、ね?」
今度は、彼は承諾した。
青はカメラに向かって勝ち誇ったように笑い、さらに音声メッセージを送ってきた。
「ねえ見たでしょ?あんなに『あなたのため』って言ってたのに、私が欲しいって言えば、やっぱり私にくれるのよ。あなたの負けね」
名月はスマホを握りしめたまま、ぼんやりと座っていた。
思い出したのは、かつて彼女がバイト中にけがをしたとき、嘉行がしてくれたあの優しさ。
けれどその優しさは、他の女にも向けられるものだった。
その瞬間、全身が虚脱感に襲われた。
でも嘉行さえいなければ、すべてはうまくいく。
明日、ようやく彼の元を離れられるのだ。
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