腐れ縁の終着点第1話
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実家が破産したあの年、私は小寺山彰良(こてらやま あきら)にまとわりついて最後の一夜を共にした。
目が覚めた後、私は最後の手持ちの金を彰良に叩きつけた。
「さあ、これを持って別の金持ちの女のところへでも行きなさいよ。私みたいなブスを、嫌々あやしてやる必要もなくなったんだから」
私は資産の差し押さえに来た連中に家から追い出され、顔の大きなアザを誰もが指さして嘲笑した。
一方で、彰良の友人たちは彼の新たな生活の門出を祝福している。
「彰良ほどの顔があれば、金持ちの可愛い子がいくらでも群がってくるさ。あんなブスに安売りしてやる必要なんて、まったくなかったんだ」
「彼女も破産したことだし、これでもう付きまとわれることもないだろう」
五年後、彰良は貧しいイケメン大学生から、ビジネス界の風雲児へと変貌を遂げていた。
面接会場で、彼が私の履歴書をめくっていると、その視線が写真のところで止まった。
彼は淡々と口を開いた。
「28歳……すでに子どもがいるのか?」
私は彼の探るような視線を受け止め、自己紹介をした。
「はい、稲崎舞華(いなざき まいか)と申します。既婚で、娘が一人おります」
今の私は名前を変え、顔を覆っていた大きなアザも消した。
彰良は、私が誰であるかに気づかなかった。
* * *
実家が破産したあの年、私は小寺山彰良(こてらやま あきら)にまとわりついて最後の一夜を共にした。
目が覚めた後、私は最後の手持ちの金を彰良に叩きつけた。
「さあ、これを持って別の金持ちの女のところへでも行きなさいよ。私みたいなブスを、嫌々あやしてやる必要もなくなったんだから」
私は資産の差し押さえに来た連中に家から追い出され、顔の大きなアザを誰もが指さして嘲笑した。
一方で、彰良の友人たちは彼の新たな生活の門出を祝福している。
「彰良ほどの顔があれば、金持ちの可愛い子がいくらでも群がってくるさ。あんなブスに安売りしてやる必要なんて、まったくなかったんだ」
「彼女も破産したことだし、これでもう付きまとわれることもないだろう」
五年後、彰良は貧しいイケメン大学生から、ビジネス界の風雲児へと変貌を遂げていた。
面接会場で、彼が私の履歴書をめくっていると、その視線が写真のところで止まった。
彼は淡々と口を開いた。
「28歳……すでに子どもがいるのか?」
私は彼の探るような視線を受け止め、自己紹介をした。
「はい、稲崎舞華(いなざき まいか)と申します。既婚で、娘が一人おります」
今の私は名前を変え、顔を覆っていた大きなアザも消した。
彰良は、私が誰であるかに気づかなかった。
……
出した履歴書がよりによって彰良の手に渡り、彼が直々に私を面接することになろうとは、夢にも思わなかった。
ドアを開けて中に入った瞬間、私の呼吸は一瞬乱れた。
彰良はデスクに座り、すっと通った鼻筋に縁なし眼鏡をかけ、長い指で私の履歴書をめくっている。
彼の視線が履歴書の写真から私の顔へと移った。その瞳の奥には、何かを探るような色が宿っている。
「稲崎……M大卒か。それで、生活アシスタントに応募したと?」
彼は机の表面を指でトントンと叩き、怠そうにまぶたを上げた。
「生活アシスタントがどういうものかわかってるか?
言い方は悪いが、要は家政婦だ。俺は日常生活においてこだわりが多い。君が気を配るべき細かな点は山ほどあるぞ」
彼が何かを話し続けているが、私の意識は数年前の別れの夜へと飛んだ。
あの年の彰良は、洗濯を繰り返して色あせたシャツを着ていた。私はその襟元のボタンを引きちぎり、彼をベッドに押し倒して、めちゃくちゃに口づけをした。
口からは、毒々しい言葉を吐き出した。
「私が破産して、あなたが一番喜んでるんでしょうね。やっと、嫌々私に尽くさなくて済むんだから。私のこの顔を見て、虫唾が走るんでしょ。
安心しなさいよ。破産したって、あなたをもう一晩買い叩くくらいのお金はあるわ」
彰良は沈黙を貫き、湖のように深い瞳で私を見つめると、慣れた手つきで私の腰に手を添えた。
終わった後、私は彼に一枚のカードを投げつけた。それは、私の荒れ果てた前半生への決別でもあった。
「決心はついたか?」
彰良は机を叩いた。冷ややかな声と冷静で漆黒の瞳。
彼は私だと気づいていない。
私は思わず自分の顔に触れた。大きな青紫のアザも、厚塗りのファンデーションで荒れた湿疹も、もうそこにはない。
今の私は少し痩せこけた。化粧っ気のない、淡々とした素顔をしている。かつての面影などどこにもない。
まして、名前も変えたのだ。
「……はい、決心はついています」
込み上げる感情を押し殺し、私はつかの間の平穏を装って答えた。
「いいだろう。今日から採用だ。渡部から状況の説明を受けてくれ」
彰良は追い払うように手を挙げ、二度と私に視線を向けなかった。
私はわきまえた態度で退室し、オフィスのドアを閉めた瞬間、ようやく張り詰めていた心が落ち着いた。
――許されるなら、一生、彰良とはあまり関わりたくない。
彼は学校で雲の上の存在であり、私は「汚い・狡い・辛辣・ブス」と言われていた。
金に物を言わせて彼のプライドを踏みにじり、粉々に砕いたのは私だった。
その上、自分勝手にも娘の稲崎美羽(いなざき みう)を産み落とした。
悲劇的なことに、美羽の脳に腫瘍が見つかり、手術が必要となった。
断ち切れない腐れ縁に導かれるように、巡り巡って子どものために、私は再び彰良の会社へとやってきたのだ。
それからの数日間、私は心ここにあらずといった状態だ。
美羽の手術を控え、準備すべきことがあまりにも多すぎた。
三度目の休暇を彰良に申し出た時、彼の返答は容赦のないものだ。
「これが最後だ。次はもう来なくていい」
――予想はついている。けれど、今日は美羽の誕生日だ。彼女はどうしても遊園地に行きたがっている。
手術を控え、もしものことがあったら……そう思うと、もう二度とチャンスがないかもしれないという恐怖で胸がいっぱいになった。
歯を食いしばり、私は美羽と夕方まで遊園地で過ごした。
帰ろうとしたその時、空から突然豪雨が降り注いだ。私たちは街角の軒下に身を寄せた。
スマホでタクシーを呼ぼうとした瞬間、美羽が突然私の手を振りほどき、転がっていったおもちゃを追いかけて駆け出した。
気がついた時には、彼女は雨の中へ飛び出している。
雨のカーテンの向こうから、車が猛スピードでこちらに向かってくる。私は胸が締め付けられるのを感じ、悲鳴を上げようとしたその瞬間――。
大きな手が私よりも早く、美羽を力強く引き戻した。
「稲崎!」
激しい雨音の中、男の冷たく低い声が響いた。
呆然と顔を上げると、まるで夢のように彰良が私の目の前に立っている。彼は美羽の手をしっかりと握っている。
傘もささず、髪や頬、顎から水が滴り落ち、彼の高価なスーツをびしょ濡れにしている。
その眼差しは相変わらず冷ややかで距離感を感じさせるが、今はかすかな怒りが滲んでいる。
「小寺山社長、ありがとうございます……」
私は慌てて美羽を背後に隠した。いつもなら教えるはずの「お礼を言いなさい」という言葉も、口に出せない。
彰良は私たちを一瞥すると、拒絶を許さない口調で言い放った。
「車に乗れ」
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