股切断された私、正気を失った夫第1話
この話は約2090字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
夫の初恋の相手である夏目凛音(なつめ りんね)は、飲酒運転で人を轢き殺し、さらに逃走した。弁護士である私、安井絵夢(やすい えむ)はその弁護を断った。
それが理由で、その夜、夫は人を差し向け、トラックで私を轢かせて数十キロも引きずらせた。
全身は血だらけで、両脚はタイヤに擦り潰されて肉が裂け、激痛に私は悲鳴を上げ続けた。
だが、夫の江崎恒一(えざき こういち)は冷酷にもスマホを取り出し、私の写真を撮って凛音へ送りつけた。
「凛音、見たか?君に逆らったやつの末路はこうなるんだ」
私が痛みに耐えながら理由を問い詰めると、彼は嫌悪を浮かべた顔で言い放った。
「凛音はか弱い。刑務所に入ったら命を失うようなものだ。君は口を動かすだけで助けられるのに、あえて彼女の人生を壊そうとした。こうなったのは自業自得だ!
殺しはしない。ただ凛音のために罪を償わせるだけだ。せいぜい味わえ」
体の痛みが全身を飲み込むが、それでも心の痛みには及ばなかった。
その後、夫が財産の半分を費やして凛音を無罪にした。
一方、私は両脚の粉砕骨折により切断を余儀なくされた。
ようやく彼が路上に捨てられた私のことを思い出した時、部下から電話が入った。
「社長、奥様は一か月前にはすでに海外へ渡っています。謎の人物によりプライベートジェットに乗せられたとのことです……」
* * *
私、安井絵夢(やすい えむ)は満面の喜びで夫である江崎恒一(えざき こういち)に電話をかけ、妊娠したという嬉しい知らせを伝えようとしたその時、猛スピードで突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされ、そのまま数十キロも引きずられた。
車が骨を砕く耳障りな音と、私の悲鳴が入り混じっている。
激痛が一瞬で全身を襲い、私は思わず苦しげに呻いた。
トラックの運転手はすぐに姿を消した。
絶望しかけたその時、遠くに立っている恒一の姿が見えた。
私はかすかな力で手を伸ばし、助けを求めた。
「恒一、轢かれたの……痛い……早く、救急車を……」
だが恒一は冷たい目を向け、かすかな嘲笑すら浮かべている。
彼は私の助けを無視し、自分のスマホで私の惨状を撮影すると、優しい声で電話の向こうの相手の夏目凛音(なつめ りんね)に語りかけた。
「凛音、見たか?君に逆らったやつの末路はこうなるんだ」
痛みに耐えながら、私は目を真っ赤にして問い詰めた。
「恒一、どういう意味?この事故、あなたが仕組んだの?」
恒一は無表情のまま言った。
「ただの躾だ。少しは大人しくなると思ってな」
心の痛みが、体の痛みを上回るとはこのことだ。
その時、下腹部に激しい痛みが走った。子どもが危ないと分かり、私はプライドも捨てて必死に懇願した。
「わかった、私が悪かった……彼女に謝るから……私、妊娠してるの……お願い、早く病院へ連れて行って……」
だが彼は気にも留めない様子で私を見下ろしている。
「トラックに少し擦られただけで、妊娠なんて嘘をつくのか。今までこんなに芝居がかった女だとは思わなかった」
私は愕然と目を見開き、目の前の恒一を見つめている。その姿はどこか見知らぬ人のようで、もしかすると私は彼のことを一度も本当に理解したことがなかったのかもしれない。
私と恒一は幼い頃から一緒に育ち、早くから婚約を結んだ。
数年間は幸せな日々を送り、誰もが羨むような関係だった。
だが、彼の後輩である凛音が海外から帰ってきてから、すべてが変わった。
恒一は仕事が忙しいと言って帰りが遅くなり、やがて家にも帰らなくなった。最初は気にしていなかった。
しかし、次第に多くの細かな違和感が積み重なり、私はそれでも気づかないふりをした。ただこの関係を守りたかったからだ。
まさか彼が他の女のために、ここまで私を傷つけるとは思ってもみなかった。
私はただ職業倫理を守っただけなのに、彼はそれを私の故意だと思い込んでいる。
この瞬間、私はようやく彼の本性が分かったような気がした。
だが恒一は知らない。彼の父親である江崎博(えざき ひろし)はずっと私を高く評価し、江崎家の事業を任せたいと考えている。私は恒一の面子を立てるために何度も断ってきた。
結局、博は私と契約を結んだ。恒一が私を裏切り傷つけた場合、すべての財産は私に渡ると。
もう何も言い争う気力はない。ただ一刻も早く病院へ行きたい。
その時、恒一の電話が鳴った。
受話器の向こうからの声に、彼の顔色が一変した。
「安井絵夢!君の嫉妬心がここまで強いとは思わなかった。俺が凛音に会いに行かないように、裁判官と組んで凛音を嵌め、罪を認めさせて早く刑務所に入れようとしたんだな!」
私は痛みに耐えながら説明した。
「非が彼女にあるの。飲酒運転で人を轢き殺して逃げたのよ。裁判官はただ正しく判決を下しただけなの!」
だが恒一は私の言葉をまったく信じず、言い訳だと思い込み、すぐさま部下に命じた。
「どうやら罰が軽すぎたようだ。いいか、こいつをしっかり見張れ。ここで跪かせて凛音に懺悔させろ。食べ物は一切与えるな。病院にも連れて行くな!」
そう言い残すと、彼は慌ただしくその場を去った。
私は力なく地面に倒れ込み、必死に涙をこらえるしか、何もできないままだ。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)