和紙文緊急事態の機内、彼は遺書を私の親友に託した · 第1話設定≡

緊急事態の機内、彼は遺書を私の親友に託した第1話

この話は約2210字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私、梅原南(うめはら みなみ)と葉月修司(はづき しゅうじ)は緊急事態に陥った飛行機の機内にいる。緊張した空気の中、乗客たちは一斉に遺書を書き始めた。

私は必死に修司の手を握りしめている。ふと見ると、彼は遺書を、私の親友の古川若菜(ふるかわ わかな)に送信している。

修司は唇を固く結び、しばらくしてようやく口を開いた。「誤解しないでくれ。彼女は俺らが最も信頼できる人間だろう?」

幸いにもそれは虚驚に終わり、私は足が震えながら飛行機を降りた。そして、真っ先に若菜に電話をかけた。「彼と離婚するから、代わりにあなたが彼と結婚してあげて」

* * *

私、梅原南(うめはら みなみ)と葉月修司(はづき しゅうじ)は緊急事態に陥った飛行機の機内にいる。緊張した空気の中、乗客たちは一斉に遺書を書き始めた。

私は必死に修司の手を握りしめている。ふと見ると、彼は遺書を、私の親友の古川若菜(ふるかわ わかな)に送信している。

修司は唇を固く結び、しばらくしてようやく口を開いた。「誤解しないでくれ。彼女は俺らが最も信頼できる人間だろう?」

幸いにもそれは虚驚に終わり、私は足が震えながら飛行機を降りた。そして、真っ先に若菜に電話をかけた。「彼と離婚するから、代わりにあなたが彼と結婚してあげて」

電話の向こうで、若菜は大騒ぎだ。「南、何言ってるのよ!さっき飛行機の故障ニュースを見たんだけど、大丈夫?

今空港に向かってるって言ったでしょ。待ってて!」

そう言うと、彼女は慌ただしく電話を切った。

私の隣を歩きながら、修司は困ったように言った。「俺たちの親ももういい年だろ。心配させたくなかったんだ。だから若菜に送ったんだよ。

もう、君ったら……はいはい、俺が悪かった。それでいいだろ?」

修司は私の手を引き、頬に軽くキスをした。「機嫌直してくれよ。あとで若菜に会ったら、絶対俺は怒られるんだぞ。自分の旦那が叱られるの、見たいか?」

胸の奥が重く詰まったまま、私は黙って先に歩いている。修司は後ろから追いかけ、なだめるように声をかけてくるだけだ。

入口に着くと、若菜が車から降りてくるのが見えた。彼女の目に浮かぶ焦りは、作りものには見えない。

ただ、私にははっきり分かっている。彼女が最初に視線を向けた相手は、修司だった。

次の瞬間、彼女は私の前に駆け寄り、ぎゅっと強く抱きしめた。そして振り返ると、修司の肩を思いきり殴った。

「このバカ!なんで遺書なんて送ってくるのよ!心臓止まるかと思ったじゃない!」

修司は苦笑して言った。「ほら、無事だっただろ。それに、もし何かあっても、君ならちゃんと処理してくれるって信じてるからさ。

それだけなのに、南が俺に嫉妬してさ」

冗談めかして笑う修司に、若菜は白い目を向け、私の腕を引いて車へ向かった。

この二人が並んで話したり冗談を言い合ったりする様子は、とても自然だ。そこには、遠慮や距離感といったものが一切感じられない。

家に戻ると、私は疲れたからと言い訳し、先に寝室へ引き上げた。

ベッドに横になっても、まったく眠れない。

修司とは知り合って八年目で、新婚旅行を終えたばかりだ。

私は自分が彼をよく理解しているつもりだった。だが、今回の緊急事態の中、生死がかかった瞬間、私の頭にあったのは「死んでも彼と一緒にいたい」という想いだけだったのに、修司は震える手で数行の文字を打ち、若菜に送ったのだ。

彼はそれを遺書だと言った。死の恐怖の中で、私の五感は異様なほど研ぎ澄まされており、彼が若菜に送ったその数行を、はっきりと目にしていた。

全財産を彼女に託すという内容だった。そして最後の一文。【離れても、心は君と永遠に】

私はぎゅっと拳を握りしめた。そのとき、外から声がした。「南、若菜を下まで送ってくる。すぐ戻るから」

私は静かに立ち上がり、リビングへ向かった。そこには、修司の置き忘れたスマホがある。一瞬、衝動が理性を上回った。私は近づいてパスコードを入力し、いくつかのアプリを確認したが、何も出てこなかった。

考えすぎだったのだろうか。

迷いながらも、震える手で設定を開き、アカウントを切り替えた。やはりあった。彼のサブアカウントだ。

頻繁に使っているのか、パスワードすら求められなかった。

そこに表示されているのは、修司と若菜のチャット履歴だ。

一番古いものは、八年前にまで遡る。

私と修司が出会ったばかりの、あの頃だ。

なるほど。若菜は、その前からすでに修司と知り合いだった。

【運いいな。うちの学部一の美女の南と知り合えるなんて。あの子、プライド高くて、普通の男じゃ相手にされないよ】

【今日、南をバドミントンに誘ってみなよ。彼女、バドミントン好きだから。ここまでしてやってるんだ。ちゃんと頑張ってね】

【どう?私親切でしょ。南は私の親友なんだから、もし裏切ったら、真っ先に許さないからね】

やがて会話は、私を口説くための手助けから、試合、恋愛、そして男女関係の話題へと変わっていった。

最初はためらいがちで、やがて罪悪感を覚え、それでも刺激と熱に溺れていった。

わずか二十分ほどで、私はすべてを読み終え、必要な部分を撮影し、アプリを閉じて画面をロックした。

自分のスマホを開いて外を見ると、マンションの下の駐車場で、あの二人は抱き合っている。一瞬手を取り、撫で合う仕草は、まるで別れを惜しむ恋人同士のようだ。

私は深く息を吸った。胸の奥にあった何かが、その瞬間、完全に崩れ落ちた。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)