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結婚7年目、娘に夫をおじさんと呼ばせた第1話

この話は約2553字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私の名前は高瀬志穂(たかせ しほ)。

結婚して7年目、夫・高瀬昭彦(たかせ あきひこ)の愛情はすべて、離婚した初恋の女・西園寺玲奈(さいおんじ れな)とその娘・亜衣(あい)へと向かっていた。

それが分かってから、私は娘に、夫のことを「おじさん」と呼ぶように教え始めた。

娘が喘息の発作で顔を真っ青にして苦しんでいる時でさえ、玲奈からの「亜衣が暗いところを怖がって……」という電話一本で、彼は迷わず私たちを置いて出て行った。

私は娘の目をそっと塞ぎ、「おじさん、いってらっしゃい」と小さな声で言わせた。

娘がずっと楽しみにしていたピアノコンクールでも、玲奈が「パパがいないから、亜衣が怖がって舞台に上がれないの」と泣きついてくると、彼は何の躊躇いもなく私たちに背を向けて立ち去った。

胸が引き裂かれるような思いを必死に堪えながら、コンクールに落ちて悲しむ娘に、「おじさん、わざわざ見に来てくれてありがとう」とお礼を言わせた。

その度に、娘は私の腕の中でただ静かに涙を拭うことしかできなかった。

そんな日々が続いた後、彼もようやく私たちに対して微かな罪悪感を覚えたらしい。

珍しく仕事の付き合いを断り、週末に私たちを遊園地へ連れて行くと自分から言い出したのだ。

だが、遊園地の入り口に着いたまさにその時、またしても玲奈から電話がかかってきた。

「昭彦、遊園地にいる他の子たちが、亜衣をパパがいないってからかうの。

お願い、亜衣を迎えに来てくれないかしら……」

一瞬、彼の顔に迷いが浮かんだが、すぐにそれを振り切るようにしゃがみ込み、娘に言い訳を並べ立てようとした。

今回は、私が口出しをして言い聞かせるまでもなかった。

娘は自ら、繋いでいた彼の手をそっと離したのだ。

彼女は涙で濡れた顔に作り笑いを浮かべ、驚くほど聞き分けよく一歩後ろへ下がった。

「大丈夫だよ、おじさん。あの子のところへ行ってあげて。

私はママが買ってくれた綿菓子があるから、これだけで十分だよ」

* * *

足早に立ち去る昭彦の背中を見つめていても、私は涙を流すことすらしなかった。

私は娘の奈々(なな)と手を繋ぎ、振り返って大通りへ向かい、タクシーを拾った。

車内はひどく静かだった。

奈々は後部座席に座り、食べかけの綿菓子をまだしっかりと握りしめている。

タクシーが交差点の赤信号で停まった時だった。

奈々は突然窓を開け、信じられないほど静かな動作で、頭につけていたピンク色のカチューシャを外した。

それは、昭彦が遊園地の入り口で彼女に買ってあげたプレゼントだった。

彼女は一切の躊躇も見せず、そのまま放り投げた。

カチューシャは音もなく、道端のゴミ箱の底へと消えていった。

運転手はバックミラーでそれを見て、驚いたように声をかけた。

「お嬢ちゃん、可愛いカチューシャ、どうして捨てちゃったの?」

奈々は運転手を見ようともしなかった。

ただ、窓の外を飛ぶように過ぎ去る街並みを見つめたまま、幼いながらもひどく落ち着いた声で言った。

「汚れたから、もういらないの……」

その仕草を見て、私は胸が締め付けられた。

分かっていた。

彼女は、昭彦のことを「おじさん」と呼び慣れているだけではない。

父親に対するほんのわずかな期待すらも、自身で断ち切ろうとしているのだ。

家に帰ると、私は真っ直ぐ書斎に向かった。

パソコンを開き、パスワードを入力し、隠しフォルダを開いた。

プリンターが低い音を立てて動き始めた。

やがて、2つの書類がプリントアウトされた。

1つは、会社から出されたメルボルン支社への異動確認書だ。

もう1つは、奈々の退学および転校の申請書だ。

実は半年も前に、私は奈々をオーストラリアのサマーキャンプに参加させるという口実で、出国に必要なすべての書類に昭彦のサインをもらっていたのだ。

あの時、彼は中身を見ようとすらしなかった。

私はそれらの書類を茶封筒に入れ、しっかりと封をした。

それから、物置部屋から大きなダンボール箱を引きずり出した。

そして、ここからが不要なものの片付けだ。

クローゼットの中、昭彦が買ってきた服はすべて、たとえ1度も袖を通していない高級なドレスであっても残らず選び出し、ダンボール箱に放り込んだ。

おもちゃ箱の中、昭彦が適当に買ってきたぬいぐるみもすべて捨てる。

奈々はお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱きしめたまま、ドアの前に立っていた。

私があの巨大なバービー人形のお城をゴミ袋に突っ込むのをじっと見つめている。

それは去年の彼女の誕生日に、昭彦が秘書に適当に買わせたものだ。

「ママ」

「ん?」

「そのお城、大きくて邪魔だから、捨てちゃおうよ」

彼女の口調には、微塵の名残惜しさもなかった。

「そうね」

私はゴミ袋の口をきつく縛り、玄関の外へと放り出した。

夜8時。

玲奈のSNSが、時間通りに更新された。

添えられた写真は、遊園地のお城の前に上がる色鮮やかな花火だ。

その中心には、昭彦が亜衣を肩車し、とろけるような笑顔を見せている。

玲奈は昭彦の隣に寄り添い、彼にぴったりと密着していた。

コメントにはこう書かれている。

【亜衣が言ったの。今日から私も、パパがいない可哀想な子じゃなくなったねって。

いつも一番に駆けつけてくれて、私たちのスーパーヒーローになってくれる誰かさん、本当にありがとう!】

その投稿のすぐ下には、昭彦が即座に「いいね!」を押した。

以前の私なら、こんな投稿を見ればすぐに昭彦に電話をかけていただろう。

狂ったように怒鳴り散らし、問い詰めていたはずだ。

そして、一睡もできずに夜を明かしたはずだ。

だが今夜は、その写真を見つめても、私の心は微塵も揺るがなかった。

私は静かに、その投稿に「いいね!」を押した。

それから、玲奈と昭彦のトークルームを非表示にし、二人とも通知オフに設定した。

お風呂から上がった奈々が、お気に入りのパジャマ姿でトコトコと歩いてきた。

彼女はベッドによじ登った時、ふと私のスマホの画面が目に入ったようだ。

写真に写る花火は華やかすぎて痛々しい。

だが、奈々は泣き喚きもしなかった。

ただ大人しく、自分の肩まで布団をしっかりと引き上げただけだった。

「ママ」

「ん?」

「オーストラリアのカンガルーさんには、いつ会いに行けるの?」

彼女は瞬きをしながら、消え入りそうな声で言った。

「おじさんは……一緒に行かないよね?」

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