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結婚式直前、婚約者が愛人を連れてきた第1話

この話は約2923字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結婚式の前日、私のウェディングドレスが別の女に着られている。

谷山晴翔(たにやま はると)がその女を庇う言葉を聞きながら、私は彼に離婚を切り出した。

晴翔の愛人・海老沢真希(えびさわ まき)は、私の前に膝をつき、しゃくり上げながら訴えた。

「奥さん、こんなに美しいウェディングドレス、私は初めて見ました。つい我慢できなくて……谷山社長は、私の願いを叶えてくれただけで、他に意味はありません。どうか彼を責めないでください」

晴翔は彼女を引き上げ、抱き寄せて慰めながら、私にただ一言だけ言った。

「後悔するな」

目の前でぴったり寄り添う二人を見つめながら、私は少しも未練を残さず背を向けた。

* * *

結婚式の前日、私のウェディングドレスが別の女に着られている。

谷山晴翔(たにやま はると)がその女を庇う言葉を聞きながら、私は彼に離婚を切り出した。

晴翔の愛人・海老沢真希(えびさわ まき)は、私の前に膝をつき、しゃくり上げながら訴えた。

「奥さん、こんなに美しいウェディングドレス、私は初めて見ました。つい我慢できなくて……谷山社長は、私の願いを叶えてくれただけで、他に意味はありません。どうか彼を責めないでください」

晴翔は彼女を引き上げ、抱き寄せて慰めながら、私にただ一言だけ言った。

「後悔するな」

目の前でぴったり寄り添う二人を見つめながら、私は少しも未練を残さず背を向けた。

……

荷物をまとめ、キャリーケースを引いて家を出ようとしたとき、ちょうど帰宅した晴翔と鉢合わせした。

私の手元のキャリーケースを見るやいなや、晴翔は眉をひそめ、非難めいた口調で言った。

「谷山静菜(たにやま しずな)、お前は何をしてるんだ。俺は拗ねてるお前に付き合う暇はない。もうすぐ30歳になる女が、いつまで子どもみたいに振る舞うつもりか」

その硬く冷たい声は、まるで部下を叱りつけているかのようだ。

昔、私が拗ねたとき、晴翔はいつも抱きしめて優しく宥め、落ち着くまで丁寧に説明してくれた。

今は、ただ一言で突き放すだけだ。

でも今回は、拗ねているわけではない。私は本気だ。

私は静かに彼を見つめた。

「晴翔、時間があるときに離婚の手続きをしに行こう」

晴翔は苛立ちを露わにしてネクタイを引き、これもまた気まぐれな言い合いだと思っている。

「真希はこんなに綺麗なウェディングドレスを見たことがないんだ。ちょっと着てみただけだろう」

真希は20歳そこそこの若い子で、卒業後すぐに晴翔の側近となった。

どれほど側近かというと――二人はほとんど常に一緒にいる。

業界では冗談めかして、「谷山社長のそば、三メートル以内には必ず海老沢さんもいる」とささやかれるほどだ。

真希はウェディングドレスの試着にも付き添い、挙げ句の果てには私のドレスを着てしまった。

このウェディングドレスは、私がデザイナーを探し、好みに合わせて一からオーダーし、心血を注いで作ってもらったものだ。

私が身にまとう姿を思い描きながら、「絶対に綺麗なはず」と、どれほど楽しみにしていたか。

実際、そのドレスは期待を裏切らない美しさだ。しかし、私が初めてそのドレスを見たのは――真希が着ているときだった。

そして、私の夫・晴翔はスーツ姿で真希を優しく見つめていた。

まるで、私を部外者のように扱うみたいだ。

店員でさえ二人を新郎新婦だと勘違いし、「本当にお似合いで、まさに生まれつきのカップルですね」と褒め称えた。

私が問い詰めたとき、晴翔は真希を背にして庇った。

「真希はただ試着しただけだろう。そんな大げさなこと言うな。たかがドレス一着じゃないか」

ウェディングドレスの意味も、かつての約束も、彼はすでに忘れている。

そういうことなら、結婚式自体はもう必要ない。

私が変わらず出て行こうとするのを見て、晴翔の眉間の苛立ちはさらに深くなった。

「お前、腹に子どもがいるのに、どこへ行くつもりなんだ?

それに、お前はもう真希みたいな若い子じゃないんだぞ。いい歳して家出ごっこなんかして、恥ずかしくないのか?」

離婚を決めているのに、私の爪はなおも手のひらに深く食い込んでいる。

その言い方は、初めてではない。

真希が会社に来たばかりの頃、晴翔は私に対して、彼女がどれほどドジで、どれほど手のかかる女なのかを延々と愚痴っていた。

書類を渡し間違えたり、資料をなくしたり……「なんであんな人を採用したんだろう」と苛立っていたほどだ。

私はそのたびに真希を庇い、「まだ新卒で慣れてないだけでしょう?」と彼を宥めていた。

でも、いつの間にかすべてが変わってしまった。

真希が泣きながら電話をかけてきて、「家に泥棒が入ったみたいで怖いんです……」と言うと、あれほど彼女のことを面倒に思っていた男が、ためらうことなく車の鍵を掴んで飛び出して行った。

私に残されたのは、慌てて去っていく彼の背中だけだった。

女の勘は鋭い。

二人の上司と部下の関係にふさわしくない距離感は、私にはもう耐えられなかった。

真希を側近から外してほしいと頼んだとき、晴翔は珍しく怒った。

「会社のことを分かってないくせに、口出しするな」

自分でも言い過ぎたと思ったのか、その後、少し優しい声で「真希とは距離を置くようにする」と約束した。

でも、世の中に漏れない秘密など存在しない。

噂が私の耳に届いたときには、世間では晴翔の成功に真希の内助の功が大きいと見なされ、家にいる私はすっかり忘れられた妻になっていた。

崩れゆく心の壁の音を聞きながら、私は彼を問い詰めた。

そのとき返ってきたのは、冷え切った視線と、あの言葉だった。

「真希は若いから、何もわかってない。だから俺が教えてやってるんだ。お前みたいな年を取った女が、そんな小娘と張り合ってどうする?笑われるぞ。

家で暇だから、余計なことを気にしすぎるんだ」

その一言が、私の心に深く突き刺さった。

晴翔はおそらく自覚していないが、彼は社員がミスをした場合、容赦なく解雇する人物である。

でも、真希だけは違った。ミスをしても庇い、解雇どころか「俺が教える」と言い張った。

私はもう騒がず、二人の関係にも触れなくなった。

晴翔は、私が考えを改めたと思っていた。

しかし、それは私だけが知っていることだ。

彼のために築いた心の壁は、もはや跡形もなく崩れ去った。

視界が滲むのをこらえながら、キャリーケースを引く手が震えた。

「晴翔、あなたの目には、私はもう何をしてもふさわしくない存在なの?怒ることも許されないし、嫌な気持ちを抱くことすら許されないの?」

私は顔を上げ、七年間愛し続けた男を見つめた。

22歳から29歳までの間、時は彼にほとんど痕跡を残さず、大人の魅力だけを増していった。

晴翔は、何も変わっていないように見える。

でも私は理解している。七年前とは、すでにすべてが変わってしまったのだ。

「もう、あなたの言う『年を取った』女なんてやめる。私は、本当の自分に戻る。

明日の結婚式は取りやめよう。時間があるときに離婚の手続きをしに行こう」

そう言って私は背を向け、キャリーケースを引きながら歩き出した。

背後から物が砕け散る音が響いた。晴翔は私の言葉に激しく怒った。

「上等だ。後悔するな!腹に子どもがいるお前なんか、誰がもらうっていうんだ!」

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