結婚式直前、婚約者が愛人を連れてきた第1話
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結婚式の前日、私のウェディングドレスが別の女に着られている。
谷山晴翔(たにやま はると)がその女を庇う言葉を聞きながら、私は彼に離婚を切り出した。
晴翔の愛人・海老沢真希(えびさわ まき)は、私の前に膝をつき、しゃくり上げながら訴えた。
「奥さん、こんなに美しいウェディングドレス、私は初めて見ました。つい我慢できなくて……谷山社長は、私の願いを叶えてくれただけで、他に意味はありません。どうか彼を責めないでください」
晴翔は彼女を引き上げ、抱き寄せて慰めながら、私にただ一言だけ言った。
「後悔するな」
目の前でぴったり寄り添う二人を見つめながら、私は少しも未練を残さず背を向けた。
* * *
結婚式の前日、私のウェディングドレスが別の女に着られている。
谷山晴翔(たにやま はると)がその女を庇う言葉を聞きながら、私は彼に離婚を切り出した。
晴翔の愛人・海老沢真希(えびさわ まき)は、私の前に膝をつき、しゃくり上げながら訴えた。
「奥さん、こんなに美しいウェディングドレス、私は初めて見ました。つい我慢できなくて……谷山社長は、私の願いを叶えてくれただけで、他に意味はありません。どうか彼を責めないでください」
晴翔は彼女を引き上げ、抱き寄せて慰めながら、私にただ一言だけ言った。
「後悔するな」
目の前でぴったり寄り添う二人を見つめながら、私は少しも未練を残さず背を向けた。
……
荷物をまとめ、キャリーケースを引いて家を出ようとしたとき、ちょうど帰宅した晴翔と鉢合わせした。
私の手元のキャリーケースを見るやいなや、晴翔は眉をひそめ、非難めいた口調で言った。
「谷山静菜(たにやま しずな)、お前は何をしてるんだ。俺は拗ねてるお前に付き合う暇はない。もうすぐ30歳になる女が、いつまで子どもみたいに振る舞うつもりか」
その硬く冷たい声は、まるで部下を叱りつけているかのようだ。
昔、私が拗ねたとき、晴翔はいつも抱きしめて優しく宥め、落ち着くまで丁寧に説明してくれた。
今は、ただ一言で突き放すだけだ。
でも今回は、拗ねているわけではない。私は本気だ。
私は静かに彼を見つめた。
「晴翔、時間があるときに離婚の手続きをしに行こう」
晴翔は苛立ちを露わにしてネクタイを引き、これもまた気まぐれな言い合いだと思っている。
「真希はこんなに綺麗なウェディングドレスを見たことがないんだ。ちょっと着てみただけだろう」
真希は20歳そこそこの若い子で、卒業後すぐに晴翔の側近となった。
どれほど側近かというと――二人はほとんど常に一緒にいる。
業界では冗談めかして、「谷山社長のそば、三メートル以内には必ず海老沢さんもいる」とささやかれるほどだ。
真希はウェディングドレスの試着にも付き添い、挙げ句の果てには私のドレスを着てしまった。
このウェディングドレスは、私がデザイナーを探し、好みに合わせて一からオーダーし、心血を注いで作ってもらったものだ。
私が身にまとう姿を思い描きながら、「絶対に綺麗なはず」と、どれほど楽しみにしていたか。
実際、そのドレスは期待を裏切らない美しさだ。しかし、私が初めてそのドレスを見たのは――真希が着ているときだった。
そして、私の夫・晴翔はスーツ姿で真希を優しく見つめていた。
まるで、私を部外者のように扱うみたいだ。
店員でさえ二人を新郎新婦だと勘違いし、「本当にお似合いで、まさに生まれつきのカップルですね」と褒め称えた。
私が問い詰めたとき、晴翔は真希を背にして庇った。
「真希はただ試着しただけだろう。そんな大げさなこと言うな。たかがドレス一着じゃないか」
ウェディングドレスの意味も、かつての約束も、彼はすでに忘れている。
そういうことなら、結婚式自体はもう必要ない。
私が変わらず出て行こうとするのを見て、晴翔の眉間の苛立ちはさらに深くなった。
「お前、腹に子どもがいるのに、どこへ行くつもりなんだ?
それに、お前はもう真希みたいな若い子じゃないんだぞ。いい歳して家出ごっこなんかして、恥ずかしくないのか?」
離婚を決めているのに、私の爪はなおも手のひらに深く食い込んでいる。
その言い方は、初めてではない。
真希が会社に来たばかりの頃、晴翔は私に対して、彼女がどれほどドジで、どれほど手のかかる女なのかを延々と愚痴っていた。
書類を渡し間違えたり、資料をなくしたり……「なんであんな人を採用したんだろう」と苛立っていたほどだ。
私はそのたびに真希を庇い、「まだ新卒で慣れてないだけでしょう?」と彼を宥めていた。
でも、いつの間にかすべてが変わってしまった。
真希が泣きながら電話をかけてきて、「家に泥棒が入ったみたいで怖いんです……」と言うと、あれほど彼女のことを面倒に思っていた男が、ためらうことなく車の鍵を掴んで飛び出して行った。
私に残されたのは、慌てて去っていく彼の背中だけだった。
女の勘は鋭い。
二人の上司と部下の関係にふさわしくない距離感は、私にはもう耐えられなかった。
真希を側近から外してほしいと頼んだとき、晴翔は珍しく怒った。
「会社のことを分かってないくせに、口出しするな」
自分でも言い過ぎたと思ったのか、その後、少し優しい声で「真希とは距離を置くようにする」と約束した。
でも、世の中に漏れない秘密など存在しない。
噂が私の耳に届いたときには、世間では晴翔の成功に真希の内助の功が大きいと見なされ、家にいる私はすっかり忘れられた妻になっていた。
崩れゆく心の壁の音を聞きながら、私は彼を問い詰めた。
そのとき返ってきたのは、冷え切った視線と、あの言葉だった。
「真希は若いから、何もわかってない。だから俺が教えてやってるんだ。お前みたいな年を取った女が、そんな小娘と張り合ってどうする?笑われるぞ。
家で暇だから、余計なことを気にしすぎるんだ」
その一言が、私の心に深く突き刺さった。
晴翔はおそらく自覚していないが、彼は社員がミスをした場合、容赦なく解雇する人物である。
でも、真希だけは違った。ミスをしても庇い、解雇どころか「俺が教える」と言い張った。
私はもう騒がず、二人の関係にも触れなくなった。
晴翔は、私が考えを改めたと思っていた。
しかし、それは私だけが知っていることだ。
彼のために築いた心の壁は、もはや跡形もなく崩れ去った。
視界が滲むのをこらえながら、キャリーケースを引く手が震えた。
「晴翔、あなたの目には、私はもう何をしてもふさわしくない存在なの?怒ることも許されないし、嫌な気持ちを抱くことすら許されないの?」
私は顔を上げ、七年間愛し続けた男を見つめた。
22歳から29歳までの間、時は彼にほとんど痕跡を残さず、大人の魅力だけを増していった。
晴翔は、何も変わっていないように見える。
でも私は理解している。七年前とは、すでにすべてが変わってしまったのだ。
「もう、あなたの言う『年を取った』女なんてやめる。私は、本当の自分に戻る。
明日の結婚式は取りやめよう。時間があるときに離婚の手続きをしに行こう」
そう言って私は背を向け、キャリーケースを引きながら歩き出した。
背後から物が砕け散る音が響いた。晴翔は私の言葉に激しく怒った。
「上等だ。後悔するな!腹に子どもがいるお前なんか、誰がもらうっていうんだ!」
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