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結婚式前夜に親友を選んだ婚約者を捨てました第2話

この話は約1454字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

ホテルの部屋に戻り、荷物をまとめ始めた。

クローゼットには、式で着る3着の衣装が掛かっている。化粧台には私が手書きした誓いの言葉が置かれ、ベッドの枕元には、母が遺してくれた真珠の髪飾りがあった。

母は亡くなる前、私の花嫁姿を見られないことを何より残念がっていた。

それなのに今、ベールをかぶっているのは美咲で、あの靴を履いているのも彼女だ。私に残っているのは、この真珠の髪飾りだけだった。

それをスーツケースにしまおうとしたところで、外からドアが開いた。

私の靴を履いた美咲が、さっきゲームに参加していた友人たちを連れて入ってきた。

「紗奈」

美咲は目を赤くして、私の前まで来た。

「もしかして本当に怒っちゃった?みんなのノリに合わせただけなんだけど、紗奈がそんなに気にすると思わなくて」

口では謝りながら、靴を脱ぐ気配はない。それどころか鏡の前でくるりと回ってみせた。

「でも、この靴、本当にかわいいね。ただ、1サイズ小さいから、擦れて足が痛くて」

彼女は靴の箱を私の前に押し出した。

「明日の朝、メイクの前にお店へ行って、1サイズ上のものに替えてきてくれない?」

私は彼女を見た。

「それ、私が結婚式で履く靴なんだけど」

美咲の笑顔がこわばると、すかさず友人が割って入った。

「靴1足くらい、いいじゃない。美咲だって今日、場を盛り上げようとして足を痛めたのよ。交換してあげるくらいどうってことないでしょ?まさか合わない靴のまま式に出ろっていうわけ?」

明日結婚するのは、いったい誰なのか。私は一瞬、本気でわからなくなった。

美咲は私の手元にある髪飾りに気づくと、ぱっと目を輝かせた。

「それもすごくきれいだね」

伸ばしてきた手をかわし、私は髪飾りを握りしめた。

「これはあげられない」

部屋が静まり返った。美咲の目元が、みるみる赤くなる。

「ちょっと見たかっただけなのに。そんなに警戒しなくても……」

そこへ、ちょうど直哉が入ってきた。傷ついたような美咲の顔を見るなり、彼女をかばって自分の後ろへ下がらせる。

「紗奈、美咲は欲しいって言ったわけじゃないだろ。なんでそんなにむきになるんだよ」

直哉を見て、私は言った。

「お母さんの形見なの」

この髪飾りが私にとってどれほど大切か、彼は知っている。以前には、私の手を握って約束してくれたこともあった。

「この髪飾りは、俺がつけてやるから」

それなのに今、彼は数秒沈黙したあと、やはり手を差し出した。

「先に美咲に見せてやれよ。見たらすぐ返すから」

私は後ろへ下がり、髪飾りをスーツケースにしまった。

「嫌」

美咲の目から涙がこぼれ落ちると、直哉はとうとう苛立ちを隠さなくなった。

「紗奈、お前昔はそんなんじゃなかっただろ。美咲がお前のものを気に入ったとき、断ったことなんて一度でもあったか?」

そう。前は、私のバッグを気に入ったと言われれば譲ってあげたし、私の工房がいいと言われれば、そこで働けるようにした。失恋して行く当てをなくした美咲を家へ迎え入れ、直哉やこの友人たちに紹介したのも私だ。

大切にしていれば、本当の友達だと思ってもらえると信じていた。けれど、与えられることに慣れすぎると、感謝を忘れてしまう人もいる。やがて、与えてくれない相手を逆恨みするようになるのだ。

「前は前。これからは、私のものを美咲に譲るつもりはないから」

直哉はしばらく私を見つめていたが、やがて冷たく笑った。

「勝手にしろ」

彼に手を引かれて出ていく美咲が、ドアのところで振り返った。頬にはまだ涙が残っているのに、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。

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