結婚式を越えて第3話
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午後、私は会社に戻った。
本来なら結婚式のために一週間の休暇を取っていた。
まだ三日しか経っていないのに、私は戻ってきた。
同僚たちは驚いた顔で私を迎える。
「美緒、どうしたの?まさか今夜のパーティーに誘いに来てくれたの?招待状、ちゃんと届いたよ。わざわざありがとうね」
今夜のパーティー?
思い当たるのは、蒼真と美雪のパーティーのことだった。
私は何も言わず、ただ笑って返した。
「うん、今夜は忘れずに来て。私、まだ用事があるから」
軽く手を振り、デスクに向かい、荷物を全部カバンに入れた。
最後に退職届を手にして、上司のオフィスに入った。
退職届を見た上司は、一瞬目を見開いたものの、驚いた様子は長く続かなかった。
彼女はため息をついて、少し苦言を呈した。
「前から思ってたの。あなた、毎日深沢の話ばかりしてたし、結婚を機に辞めるのかもって。専業主婦になるの?女性は自分の仕事を持つべきよ」
私は呆然とした。
まさか上司に、そんなふうに見られていたなんて。かつての私は、それほどまでに恋愛脳だったのだろうか。
私は苦笑いして首を振る。
「いえ、彼とは別れるつもりです。場所を変えて、新しい生活を始めようと思って」
上司の顔に、今度は別の驚きが浮かぶ。
でも彼女は詳しく聞かず、うなずいて応援してくれた。
「そう。過去を捨てて、新しいスタートを切るのね」
そして別の書類を取り出して見せてくれた。
「もし転職先を探しているなら、本社がC市に支社を出す予定があるの。人手が足りないみたいだから、よかったら考えてみて」
私は上司の好意に感謝して、帰って考えることにした。
会社を出たところで、蒼真から電話がかかってきた。
「結婚式まであと二十四時間、俺の最後の独身夜だ。今夜は友達と祝うから、お前は待たなくていい」
珍しく彼からの連絡。
かつての私なら、そんな言葉にも喜んだだろう。だが、今ではすべてが白々しく思える。
最後の独身夜、彼はみんなを招待して、私があまり親しくない同僚まで呼んだ。そしてそこに、私の席はなかった。
でも今回だけは私に連絡する必要なんてない。
だって、今夜はまだ彼の最後じゃないから。
電話の向こうの蒼真は、私がなかなか返事をしないので、少し困惑した。
「美緒?聞こえる?携帯の調子が悪いのか……」
私は黙ったまま、通信障害のふりをした。
蒼真はもうイライラしていた。
「だから電話なんかしなくていいって言ったんだ。どうせあいつは俺を束縛なんかしないし」
蒼真は携帯が切れたと思って、誰かと話している。予想通り、次の瞬間には聞き慣れた女性の甘ったるい声だった。
「蒼真、そんなこと言っちゃダメよ。もうすぐ結婚するんだから、美緒さんにどこにいるか言わないと、心配させちゃうわ」
「やっぱり美雪は優しいな。あいつがお前の半分でも優しけりゃ、俺も感謝するのに」
「私、そんなにいい子じゃないよ……」
そのあとの声は、もう耳を塞ぎたくなるほど甘かった。
私は無言で通話を切った。
一人で家に帰り、十年間暮らしたアパートを見渡す。
情けないと思わないか。
十年間で、元気いっぱいで何も恐れなかった少女が、いつしかびくびくと怯える女になっていた。
部屋の中は、蒼真との思い出で溢れていた。
蒼真に何度もお願いしてやっと飾らせてもらった二人の写真を外した。
サプライズで用意したのに蒼真が一度も使わなかったペアマグカップをゴミ箱に捨てた。
毎日花を贈ると言っていた彼の花瓶は、埃まみれのまま空っぽで、
一緒に笑いながら遊んだボードゲームも、棚の隅で忘れ去られていた。
私はそれらを一つ一つ袋に詰めていった。
最後に、重たいゴミ袋を抱え、十年分の思い出をすべて捨てた。
今、部屋は私の心と同じ。空っぽで清潔だった。
私はインスタを開いた。
みんな蒼真と美雪がパーティーでワルツを踊っている動画を投稿していた。
ダンスフロアで優雅に踊る二人。
蒼真の手は美雪の腰にそっと添えられ、世界で一番大切な宝物でも扱うかのように。
息の合った動きで回転し、ステップを踏む。
見つめ合う二人は、まるで世界に自分たちしかいないかのようだ。
みんなが感動している。理想のカップルだと。
私は黙っていいねを押して、コメントした。【本当にお似合い】
しばらくして、蒼真から電話がかかってきた。
その声は怒りに満ちていた。
「結婚間近なのに、まだ嫌がらせをするのか!美雪まで泣かせて、やっと落ち着いたと思ったのに、また元に戻ってる」
「俺と結婚したいなら、これからは美雪を実の妹のように大事にしろ。そうすれば、安心してお前を嫁に迎えられる。分かってるのか?」
「美雪は俺にとって、永遠に一番大事な存在なんだ」
ようやく、彼が本音を口にした。
でも悲しくはなかった。むしろ笑えてきた。
「分かったわ」
私がそう答えるのを聞いて、彼は電話を切った。
スマホの画面に表示された時間。
残り、十六時間。
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