結婚式を越えて第1話
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婚約者はラーメン屋で私と結婚式を挙げようとしていたのに、豪華なクルーザーで愛する人に永遠の愛を誓っていた。結婚式まであと四十八時間、私はもう彼はいらない。
* * *
私が一人で結婚式の準備に追われ、胃を壊していた頃、深沢蒼真(ふかさわ そうま)は白石美雪(しらいし みゆき)と独身最後の夜を楽しんでいた。
床に座り込んだまま、意識が遠のく寸前まで、彼の携帯は、何度かけても出なかった。
目が覚めたのは病院のベッドの上。そこで初めて、SNSを通じて彼の行動を知ることになった。
蒼真は独身最後の夜を、彼と美雪だけの特別なウェディングナイトにしてしまった。
動画には、もうすぐ私の夫になるはずの彼が美雪に愛を誓っている姿が映っていた。
「最高のものは全部、君のもの。あいつはただの形式的な嫁だよ」
豪華なクルーザーの上で、二人は情熱的にキスを交わしていた。
そして四十八時間後、私はあの安いラーメン屋でその男と結婚することになっている。
私はそっとスマホを閉じた。
もう、結婚式なんて何の意味もない。
……
結婚式まで、あと三十六時間。
家に戻ってドアを開けると、蒼真はすでに帰宅していた。
ソファに座っていた彼は、私に気づくと慌てて立ち上がり、勢いよく近づいてきて私が部屋に入るのを遮った。
「もうすぐ結婚だってのに、こんな時間まで何してたんだよ。みっともないと思わないのか」
文句を言いながら、私をドアの外へと押し戻す。
しかし、ドアが閉まりかけたその瞬間、奥の寝室から美雪が姿を現した。濡れた髪に、だぶだぶのメンズシャツを着ている。
私は玄関先に立ち尽くしていたが、気持ちは意外なほど落ち着いていた。
独身最後の夜まで美雪といたのなら、新婚初夜だって彼女と過ごすのだろう。
夜が更ける中、彼はきっと、入院して戻らなかった婚約者のことなど忘れてしまっているに違いない。
私が立ち去ろうとした時、再びドアが開いた。
蒼真が手招きする。
「入れよ。腹減った。飯作ってくれ」
私も何も食べていないし、やっと治った胃をまた悪くしたくはなかったので、黙ってキッチンに向かった。
美雪はワンピースに着替えていたが、薄い生地で体のラインが先より透けて見えていた。
彼女は蒼真の腕に抱きつき、可愛らしく微笑む。
「美緒さん、昨日は遊びすぎて帰るのが遅くなって、蒼真が心配して泊めてくれたの。怒ってないよね?蒼真が心配してくれただけだから」
私は淡々と答えた。「別に」
そう言ってキッチンへ入った。
私が怒らないのを見て、さっきからちらちらとこちらを窺っていた蒼真がほっとした顔になる。
「あいつが気にするわけないだろ。俺と結婚するんだから、これからは彼女も君の面倒を見るべきだ。美雪、遠慮すんな。困ったら美緒に頼めばいい」
私は包丁を持つ手を止めた。
まるで私は、都合のいいお手伝いさんだ。
沸騰する鍋の音が、「早く働け」とせかしてくるように聞こえた。
最後の味付けをしようとした時、美雪が急に声を上げた。
「あ、だめ!そのお醤油は塩分が強くて体に悪いの。私、食べられない」
だが、私はすでに醤油を入れてしまっていた。
彼女は唇を尖らせて、蒼真の服を引っ張りながら甘えた声を出す。
「もう、美緒さんったら」
蒼真が大股でこちらへ歩み寄ってきた。
「おい、美緒。今わざと入れただろ?美雪の言う通りに作り直せ」
そう言って、茹で上がった麺の鍋を持ちあげ、ゴミ箱に捨てようとした。
私はその瞬間、なぜかぼんやりと突っ立ったまま動けなかった。彼が鍋を傾けると、熱湯の一部が私の腕にかかった。
蒼真は慌てて私の腕を掴み、流しへと引っ張っていく。
「何やってんだよ……軟膏、まだあったよな?俺が取ってくる。水、かけとけ」
彼が薬を探しに行こうとしたとき、美雪が甘ったるい声で呼んだ。
「蒼真、お腹空いちゃった……もう胃が痛いくらい……」
「じゃあ、外に食べに行こう」
蒼真は一瞬の迷いもなく、軟膏を私に投げ渡して、美雪と一緒に家を出て行った。
ドアの前で、美雪が突然言った。
「美緒さんも、一緒に連れて行く?」
蒼真は振り返らず、吐き捨てるように言った。
「ぼーっと突っ立ってるから火傷するんだ。ラーメン一つ満足に作れない。ほっとけ、構う必要ない」
そして、ドアは閉まった。
私はその場に立ち尽くし、やっと治った胃がまたずきずきと痛み出すのを感じていた。
腕の火傷は、流れる水のおかげで少しずつ和らいでいく。
静かな部屋には、水の音だけが響いていた。
そういえば、まだ結婚式をキャンセルしていなかった。
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