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終わらない夢に、君を探して第3話

この話は約1895字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

蓮は望月寧々をしっかりと腕に抱き寄せた。声を出そうとしたけれど、喉の奥が締めつけられ、何も言葉にならなかった。

涙が頬をつたう頃には、もう彼の背中は遠ざかっていた。私は、どうしても今の彼を、あの十八歳の少年と重ねることができなかった。

――あの日、雪が降る駅前で「ずっと一緒に白髪になるまで」と笑ったあの人とは、もうまるで別人だ。

「……芽衣、もしお前が本当に死にそうだったとしても、俺は同じことを言うと思うよ」

彼は一度も振り返らず、そう言い残して出ていった。

「死んでくれるなら、やっと静かになる。だったらさっさと死ねばいい」

その瞬間、全身から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。

……ああ、この人、本気で私が死ぬことを願ってるんだ。

それからというもの、蓮は二度と家に戻ってこなかった。私ももう、何も期待していなかった。

遺品整理リストを作り、遺影用の写真を撮り、最期に着る服を買いに行った。

数日後、写真屋の店主から「現像できましたよ」と連絡を受け、私は受け取りに向かった。

帰ろうと角を曲がったところで――蓮と望月にばったり出くわした。

「……何してる。まさか俺を尾行でもしてるのか?」

くだらない言い合いはしたくなかった。腹の奥がまた疼きはじめていて、私はただその場を去りたかった。

「神谷さん、奥さま、写真を撮りに来たみたいです」

望月がそう言って、私の手元にある封筒に手を伸ばそうとした。私は思わず一歩引いた。

「奥さま、見られたくないみたいですね。そんなに秘密にして……もしかして、何か隠してるんじゃ?」

彼女の声音は一見控えめで、けれど含みをもったその言葉に、蓮が目を細めた。視線が私の腕の中の写真フレームへと向かう。

「何を隠してる?」

痛みがどんどん強くなる。それでもここで立ち去ることだけを考えていたのに、蓮が私の手首をぐっと掴んだ。

その瞳にあるのは、かつての優しさではなかった。あるのは――嫌悪と疑念。

でも、私はもうその目に傷つくような女ではなかった。

「別に……あなたには関係ないことよ」

私は静かに彼の手を振りほどこうとしたが、彼は封筒を掴んで離さなかった。その拍子に写真フレームが落ち、袋から滑り出た中身が地面に露わになった。

――私の遺影。モノクロの、それはもう「別れの準備」だった。

「……え? これ……白黒写真?」

望月が驚いたように言う。けれど、彼女の唇はわずかに笑っていた。

私はただ、その写真を見つめた。

――やっぱり、見られてしまったか。

彼は、これを見て後悔するだろうか。こんなにも冷たくしたことを、少しでも悔やむだろうか。

「これが……お前の『隠し事』か?」

冷ややかな声が響いた。

蓮の顔には、一切の哀しみも、動揺もなかった。あるのは、ただ冷酷な静けさ。

「……今度は本気で死ぬつもりか?」

かつて、私が咳をしただけで心配で眠れなかった人が――今の彼は、私の死すら「芝居」だと疑っている。

私はふと、笑ってしまった。

「ダメかしら? 少しくらい後悔するあなたの顔、見てみたかったの」

「じゃあ勝手に死ねよ」

そう言い捨てて、彼は私を突き飛ばし、振り向くこともなく歩き出した。

その瞬間、もう限界だった。私は崩れるように地面に倒れた。

「奥さま!?」

周囲から驚きの声があがる。望月が駆け寄り、私の身体を抱き起こした。

そして、私の耳元にそっと囁いた。

「見たでしょ? あの人はもう、あなたが死んでも微塵も動じない。……あなた、もう愛されてないのよ」

私は残された力で、彼女の手を振り払った。

その瞬間――

「……やめろ、寧々。構うなよ。どうせ、また芝居だ」

蓮の声がした。振り返りもせず、冷たい声で吐き捨てた。

「演技が好きなら、勝手に一人で演じてればいい」

私は通りすがりの人に助けられて、どうにか家へ戻った。

ソファに倒れ込むようにして、やっと一息つく。

痛み止めを飲んで、少しだけ腹の痛みが和らいだ。

けれど、心の中は真っ暗なままだった。

目を閉じると、あの言葉が何度も何度もよみがえる。

――「じゃあ、勝手に死ねよ」

私は思い出す。あの冬のことを。

私は重い肺炎にかかって、何度も危篤の宣告を受けた。お金もなくて、彼は親戚や友人の家を回り、頭を下げ続けた。

何度も断られ、罵倒されて、それでも必死だった。

そんな彼が、ある日、病室で私の足元に膝をつき、泣きながら手を握った。

「芽衣……お願いだ、薬を飲んで。……死なないでくれ」

――あの時、あんなにも私を生かそうとしてくれた人が、今は誰よりも私の死を願っている。

壁のカレンダーを見上げる。余命の「ひと月」は、もうすぐ終わる。

……良かったね、蓮。あなたの望んだ通りになる日が、もうすぐ来るわ。

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