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終わらない夢に、君を探して第2話

この話は約2813字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

数日ほど静養した後、私は馴染みのリユースショップの担当者に連絡し、手持ちの服やバッグ、アクセサリー類をすべて手放すことにした。

「奥さま、神谷社長はほんとに優しい方ですね。昨日、今季の新作をまとめて注文されたばかりなのに、今日にはもう衣装部屋を空けるなんて……」

そんな言葉を聞きながら、私はただ静かに微笑んだ。スマホの画面を指先で滑らせていくと、望月寧々のSNSが表示された。投稿されたばかりの写真には、まさに今季の新作バッグが映っている。

――どうやら、新しい「持ち主」は、もう決まったようだ。

業者を見送ったあと、私は親友の須藤ことり(すどうことり)を誘って「一つ付き合って」とだけ伝え、車を出した。目指したのは、郊外の静かな丘にある霊園だった。

車が霊園の前で止まったとき、ことりは驚いたように私を見る。

「……ここって、墓地じゃないの?」

私は何も言わず、彼女の手を取って管理棟へと向かった。

受付では、丁寧な対応のスタッフがパンフレットと区画図を渡してくれた。

案内を受けながら、私は樹木葬エリアを中心に見学した。桜の木の下、陽当たりのいい場所にある一角がなんとなく気に入って、そこに決めた。そして、その場で仮契約と内金の支払いも済ませた。

私には、もう身寄りがいない。両親は数年前に他界し、兄弟もいない。亡くなったあと、誰かがお墓を訪れることもないだろう。

だったらせめて、自分の最期くらいは自分で準備しておこうと思ったのだ。

……今まで、蓮が稼いできたお金を私はあまり使おうとしなかった。彼のためにと遠慮して、贅沢もそこそこにしてきた。だけど、ようやく「使ってもいい」と吹っ切れたときに、それが自分の墓になるなんて。

――男に尽くす人生なんて、本当に馬鹿らしい。

スタッフに「墓所名義のお名前をお願いします」と言われ、私は迷いなく自分の名前を書き込んだ。

「神谷……芽衣です。自分のために見に来たんです」

驚いた様子の職員と、目を丸くしたことり。その視線を気にも留めず、私は静かに手続きを終えた。

霊園を出たあと、ことりが運転席で怒鳴るように言った。

「芽衣!どういうこと!?なんで自分のお墓なんて見に来てんのよ!?」

その声には、焦りと不安、そして深い恐怖がにじんでいた。彼女は、私が消えてしまうことを本気で恐れている。

私はぼんやりとした目で窓の外を見ながら、淡々と答えた。

「膵臓がん。ステージ4なの。もう……余命、一ヶ月だって」

それはまるで、天気でも話すかのような平静さだった。

本当は、一人で来るつもりだった。

でも――こんなことを一人で抱えていると、あまりにも寂しすぎると思った。

それに、ことりには私の最期をきちんと見届けてもらいたかった。そう思った。

ことりの目に涙が浮かんでいるのを見て、私はふと、少しだけ嬉しくなった。

――ねぇ、蓮。

あなたはもう、私のことなんて何とも思ってないかもしれないけど……

それでも、まだ私を大切にしてくれる人が、ちゃんといるのよ。

しかしその瞬間、腹部を激しい痛みが襲った。

冷や汗が滲み、私は座席に身を倒しながら息を詰めた。

ことりはすぐに「病院に行こう!」と叫んだが、私はかすれた声で「……家に帰りたい」と頼んだ。

怖かった。無機質な病院のベッドも、機械音だけの孤独な空間も。そこで最期を迎えるのが、どうしても嫌だった。

ことりを心配させないように必死に意識を保っていたが、ついに限界がきて、私はそのまま意識を失った。

ぼんやりと意識が戻りかけたとき、隣で誰かが叫んでいるのが聞こえた。

「神谷蓮!あんたって人は……!今すぐ帰ってこい!この最低男!」

ことりの怒鳴り声だった。

蓮が家に戻ったとき、ことりの姿はもうなかった。

私は一人、ソファに座って、両手で湯呑みを握っていた。

たった数日で、すっかり痩せてしまった。以前はちょうどよかった服も、今では身体の上でぶかぶかしている。

――この病気は、本当に人を蝕んでいく。

「また何の茶番だ?いい加減にしてくれ。俺がどれだけ忙しいか分かってるのか?」

蓮は苛立ちを隠さずに眉をひそめた。

私は何も言い返せなかった。

そのとき、再び玄関のドアが開く音がした。入ってきたのは望月寧々で、手には果物の入った袋を提げている。

私が何か言う前に、彼女の方から急いで口を開いた。

「奥さま、私が無理に来たんです。午後、神谷さんと街で買い物してたときに、あなたが倒れたって聞いて……心配で……」

――つまり「忙しかった」って、愛人とデートしてたってこと?

私は鼻で笑った。

「何その態度……!」

蓮の眉間にシワが寄る。「芽衣、お前、いつからそんな礼儀知らずになった?」

「あなたの『礼儀』って、妻を裏切って外で浮気すること?」

私の冷たい一言に、彼は言葉を失った。

「奥さま、ごめんなさい。全部私が悪いんです。神谷さんを責めないでください……」

望月寧々の声は泣きそうに震えていたが、その表情にはどこか勝ち誇ったような余裕がにじんでいた。

「ご迷惑ですよね……今すぐ帰ります」

その瞬間、蓮が怒鳴った。

「俺も一緒に行く!こんなヒステリックな女がいる場所なんて、もう家じゃない!」

怒りに満ちた蓮の表情を見た瞬間、私はふと、引っ越してきた初日を思い出した。

あの日、彼は私の手を引いて、家の隅々を一緒に回ってくれた。

ソファに並んで座りながら、彼は言っていた。

――「お前がいる場所が、俺の帰る家だ」

それなのに、今の彼は「ここは家じゃない」と言い捨てた。

私は湯呑みを握りしめ、視線を落としたまま、必死に涙を堪えた。

蓮は彼女の手を取り、部屋を出ていこうとする。

だが、そのとき、電話の着信音が鳴った。彼は数秒ためらったのち、スマホを持ってベランダに出ていった。

蓮の姿が見えなくなると、望月寧々の表情が一変した。

ふっと肩の力を抜き、目線をテーブルの花瓶へと向けた。

「百合に変えたんですね。あなた、確かヒナギクが好きだったんじゃなかった?」

私は眉をひそめた。――どうしてそれを……?

「まさか、私が初めて来たと思ってる?」

彼女は微笑みながら、部屋の中を見渡した。

「このソファも、キッチンも、書斎も、そして……あなたたちのベッドさえも。私はあなたが思ってる以上に、この家のことをよく知ってるわ」

氷水を頭から浴びせられたような感覚。私はその場で凍りついた。

この家の家具はすべて私がこだわって選んだもの。

でも今は、それらすべてが吐き気を催すほどに汚らしく見えた。

「そうそう、書斎の椅子、もう変えた?あれ、ちょっと座り心地悪かったのよね……」

――もう耐えられなかった。

私は手を振り上げ、彼女の頬を打った。

パチンという音が室内に響く。望月寧々の頬が真っ赤に腫れ上がる。

彼女はかすかに笑みを浮かべた後、突然しゃくりあげるように泣き出した。

「奥さま……ごめんなさい……次はもうしませんから……」

その直後、荒々しい力が私を突き飛ばした。

「芽衣、お前また何してるんだ!?」

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