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秘密婚はご免!堂々と愛する先輩こそ本命第1話

この話は約2105字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

病室の中、川辺千春(かわべ ちはる)が甘えるように村瀬恭弥(むらせ きょうや)の胸へ身を寄せていた。

恭弥はひと匙ずつ、愛おしそうに彼女の口元へお雑炊を運んでいる。

「恭弥さん、あんまり激しくするから……血が出ちゃったじゃない」

甘えるような千春の言葉に、恭弥は優しく応じた。

「つい夢中になっちゃってさ。次は気をつけるから、いい子にして」

病室の外では、菅野麻奈美(かんの まなみ)が検査結果の用紙をぎゅっと握りしめて立ち尽くしていた。

胸が張り裂けそうに締めつけられ、息をすることすら苦しい。

用紙には「妊娠2か月、胎児の発育は順調」と記されている。

病室にいるのは、紛れもなく夫の恭弥だった。

かつて一生愛し続けると誓ってくれた男だ。

10日前、残業が続くと告げて家に戻らなかったのは、こうして別の女と密会を重ねていたからだった。

* * *

麻奈美は自分と瓜二つの千春の瞳を見つめながら、脳裏に過去の記憶が蘇る。

恭弥の家に初めて連れてこられた夜、ひどく緊張していた。

恭弥は優しい眼差しで自分の顔に黒い薄布を被せ、澄んだ瞳だけを覗かせた。

何度も熱い口づけを落とされ、すっかり身を委ねてしまったあの夜。

翌日、恭弥はまっすぐ見つめて問いかけてきた。

「俺と、秘密で結婚してくれる?」

麻奈美は小さく頷いた。

挙式はなく、ただ婚姻届を提出しただけ。

指輪が1つと、親しい知人2、3人からの祝福があるだけの慎ましい結婚だった。

それからの3年間、毎日のように愛し合って慈しまれた。

だが、千春が帰国したあの日――

恭弥はひどく酒に酔い、貪るように求めてきた。

事を終えた後、男は自分の首筋に顔を埋め、掠れた声で呟いた。

「……あのとき去っていったくせに、どうして今さら戻ってきたんだ?」

そのときになって、ようやく悟った。

恭弥は自分を見ていたのではなく、別の女を重ねていただけだったのだと。

自分はただ、千春の身代わりに過ぎなかった。

急に何もかもが虚しくなり、どっと疲労が押し寄せる。

3年の結婚生活も、もう潮時だった。

病室の外に立つ麻奈美に気づいた千春は、挑発的な笑みを浮かべ、恭弥の胸元へ甘えるように飛び込んだ。

「ねえ、結婚したって聞いたけど……私のこと、もう要らなくなっちゃったの?」

恭弥は愛おしそうに頭を撫で、優しく微笑む。

「そんなわけないだろ。俺が一番愛してるのはお前だけだ」

千春は勝ち誇ったように麻奈美を一瞥し、拗ねた声を上げた。

「でも昨日、避妊してくれなかったじゃない。妊娠したらどうするの?私、子供なんて産みたくないよ。体型が崩れちゃうもん」

「お前にそんな苦労はさせないさ。麻奈美が跡継ぎを産んだらすぐに離婚して、親権は俺が引き取る。そうすれば、お前がその子を育てて、ママって呼ばせられるよ」

頭を殴られたような衝撃が走る。溢れ出る涙を、もう止めることができなかった。

心から喜び、待ち望んでいた我が子の誕生。それなのに恭弥は、この子を奪い、千春に育てさせようとしている。

「じゃあ、あの人とはいつ離婚してくれるの?」

千春の問いに、恭弥は少し間を置いて答えた。

「もう少し先だな。今はお父さんが孫の誕生を心待ちにしてるから……」

その言葉が無慈悲に胸へ突き刺さる。

これ以上は耐えられず、麻奈美はふらつく足取りでその場を後にした。

恭弥は、一度たりとも自分を愛してなどいなかった。

都合のいい道具として見られていただけだ。

感情も、尊厳も、お腹に宿る我が子さえも、すべては千春を喜ばせるための駒に過ぎない。

あてもなく歩いていると、わずかに開いた診察室から医師たちの話し声が漏れ聞こえてきた。

「さっきの病室、人気女優の川辺千春だよな?付き添ってるのはムラゼテクニックの村瀬社長だろ。絵に描いたような美男美女だよな」

「病名は……黄体破裂による大出血か。ずいぶん激しかったみたいだな」

「相当アツアツらしいぞ。看護師の話じゃ、先日川辺さんが帰国したときも、村瀬社長が999本のバラを用意して迎えに行ったらしい」

頭を強く殴られたような衝撃に襲われ、麻奈美はその場に立ち尽くした。

どれほどの時間が流れただろうか。涙を拭い、産婦人科の診察室へと向かった。

「先生、中絶手術をお願いします。この子を産むわけにはいかないんです」

掠れた声は、わずかに震えていた。

医師は困惑と気遣いを滲ませ、眉をひそめる。

「菅野さん、胎児の発育は極めて順調ですよ。中絶は母体への負担も大きいですし、原則として配偶者の同意も必要ですが……」

自嘲の笑みが口元に浮かんだ。

ただの産む道具に成り下がることも、子供が身勝手な欲望の犠牲になることも、絶対に耐えられない。

「もう決めました。夫とは現在、離婚の手続きを進めています。婚姻関係の破綻に関する誓約書にはサインしますし、責任はすべて私が負います」

奥歯を噛み締め、告げた声に迷いは微塵もなかった。

3時間におよぶ手術を終え、処置台から降りたときには、顔から完全に血の気が引いていた。

壁にすがりながら廊下のベンチに腰を下ろす。

下腹部に残る鈍い痛みを感じながら、ずっと断り続けていた番号へ電話をかけた。

「多賀先輩ですか。私、『エリート計画』に参加します。15日後に出国します」

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