私の肝臓で生きるあなたへ、さよなら第2話
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振り返れば、私の人生はずっとろくなものじゃなかった。
父は筋金入りのギャンブル狂だった。
子供の頃から、まともに顔を合わせた記憶すらほとんどなかった。
それどころか、借金のかたに私と母を売り飛ばそうとしたことさえあった。
祖母が必死に守ってくれなければ、今頃私は見知らぬ土地で、どんな目に遭っていたか分からない。
そんな父から逃げるため、母は私と祖母を連れて家を出た。
それから母は、たった1人で必死に働き、年老いた祖母と幼い私を養ってくれた。
私が大学1年のとき、ずっと働き詰めだった母はとうとう体を壊し、そのまま亡くなった。
母を亡くした悲しみから立ち直る暇もないうちに、今度は何人もの男たちが家に押しかけてきた。
父がギャンブルで作った借金を取り立てに来たのだ。
大学1年も終わらないうちに、私は2000万円を超える借金まで背負わされることになった。
もう何もかも嫌になって、いっそ死んでしまいたいとさえ思った。
それでも、祖母だけは残していけなかった。
ずっと私を守り、大切にしてくれた祖母を1人きりにするなんて、どうしてもできなかった。
だから私は歯を食いしばって大学に通い続け、授業のない時間はすべてアルバイトにあてた。
そんなある日、バイト先のバーで彼に出会った。
初めて見たときから、ほかの客とはどこか違って見えた。
身なりはきちんとしていて、カウンターに静かに腰を下ろし、私が作ったカクテルをゆっくりと口にしていた。
その落ち着いた仕草に、私は思わず見入ってしまった。
私が見ていることに気づいたのか、彼はふと顔を上げ、カウンター越しにやわらかく笑った。
「ありがとう。このカクテル、すごく気に入ったよ」
その笑顔を向けられた瞬間、胸が高鳴り、ずっと張りつめていた心までふっと軽くなった。
あのとき、私は彼に恋をした。
あとで知ったのだが、准は資産家として知られる米沢家の次男で、しかも同じ大学の先輩だった。
それからというもの、大学ではつい准の姿を探してしまうようになった。
自分が彼に釣り合わないことくらい、よく分かっていた。
それでも、遠くから姿を見られるだけでよかった。
それだけで、疲れ切った心が少しだけ軽くなった。
准も私の視線に気づいていたのか、目が合うと、いつも微笑み返してくれた。
あの頃の私にとって、それが大学での何よりの楽しみだった。
ところが、ある時から、ぱったりと准の姿を見かけなくなった。
何日経っても大学に姿を見せず、私は次第に不安になっていった。
いてもたってもいられなくなり、必死に彼のことを調べた。
そこで初めて、准が生まれつき重い肝臓の病気を抱えていることを知った。
病状はすでにかなり進んでいて、適合するドナーが見つからなければ助からないという。
それを知った私は、その日のバイトを休み、迷わず病院へ向かった。
准のドナーになれないかと申し出て、必要な検査を受けた。
検査の結果、私は准のドナーとして適合していることが分かった。
あのときはただ嬉しかった。けれど、それが本当によかったのかは、自分でも分からなかった。
移植手術は無事に成功した。
あの頃の私は、准を救えたことがただ嬉しくて、自分の肝臓は彼を救うためにあったのかもしれないとさえ思っていた。
米沢家の人たちは、准のドナーになった私に心から感謝してくれた。
どう恩を返せばいいのか考えた末、まず父が作った借金をすべて肩代わりしてくれた。
さらに、私が准に想いを寄せていることを知ると、准に私と結婚するよう迫った。
当時の私は、これでようやく自分も幸せになれるのだと思っていた。
けれど、そのとき初めて知った。
准には、ずっと忘れられない女性がいたのだ。
移植手術からまだ日も浅いある日、准はひどく酒の匂いをさせながら、私の前に現れた。
「米沢さん……まだお酒なんて飲んじゃだめです……」
私が最後まで言い終えるより先に、彼は私を強く押さえつけた。
まるで理性を失った獣のように、准は私の服を乱暴に引き裂いていった。
「俺と結婚して、米沢家の嫁になりたかったんだろ?だったら、望みどおりにしてやるよ」
私は何も言えず、ただ目を閉じた。
頬を伝う涙を感じながら、この結婚を望んだこと自体が間違いだったのだと、ようやく気づいた。
その夜は、果てしなく長く感じられた。
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