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私の肝臓で生きるあなたへ、さよなら第1話

この話は約1824字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は米沢優衣(よねざわ ゆい)。

夫の米沢准(よねざわ じゅん)の初恋の人、神崎明里(かんざき あかり)が帰国したその日、私は息子の米沢翔太(よねざわ しょうた)を連れ、遠く離れた故郷へ向かうことにした。

それを最後に、私は彼の世界から姿を消した。

かつて窮地に陥っていた私を救ってくれた恩に報いるため、私は自分の肝臓の半分を彼に提供した。

けれど彼は感謝するどころか、それすらも私が彼と結婚するために仕組んだことだと思っていた。

私さえいなければ、ずっと忘れられずにいる初恋の人と結婚していたはずだと、彼は何度も口にしていた。

そして今、彼がずっと想い続けてきた明里が帰ってきた。

だから私も、彼のもとを離れることにした。

* * *

今日は私の誕生日だった。

幼稚園に通い始めたばかりの翔太が、うれしそうにプレゼントを差し出してくれた。

幼稚園のお絵描きの時間に、一生懸命描いてくれた1枚の絵だった。

絵には、私と翔太、それから准の3人が描かれていた。

明るい日差しが降り注ぐ芝生の上で、3人は手をつなぎ、花がほころぶような笑顔を浮かべていた。

「ママ、パパ今日いつ帰ってくるの?」

翔太が期待に満ちた顔で私を見上げた。

私は返事ができなかった。

そういえば、准はもう3か月近く家に帰ってきていなかった。

今日が私の誕生日だということも、きっととっくに忘れていたのだろう。

「翔太、パパに会いたい?」

しょんぼりした翔太を抱き上げ、そっと頭を撫でた。

「会いたい!」

まだ幼い翔太は、自分の気持ちを隠すことも知らず、大きな目を輝かせて私を見つめた。

「じゃあ、ママが今から寝かしつけてあげるね。起きたら、パパに会えるよ!」

そう言ってはみたものの、准がいつ帰ってくるのかは、私にもわからなかった。

ただ、今どこにいるのかだけは、だいたい見当がついていた。

「うん!」

翔太はうれしそうにベッドに上がると、枕に頭をのせ、ぎゅっと目を閉じた。

翔太が眠ったのを見届けてから、私は家を出た。

生体肝移植のドナー手術の後遺症で、今も体は思うように動かなかった。

胸の痛みをこらえ、足を引きずるようにして、准がいるはずの場所へ向かった。

案の定、馴染みの店に着くと、個室の中から准の声が聞こえてきた。

「明里が帰ってきた。なら、もう離婚するしかない。一度は自分の気持ちを押し殺したんだ。もうこれ以上、我慢する気はない」

その声に、迷いは少しもなかった。

それを聞いて、私は思わず小さく笑った。

あの夜の過ちで私が准の子を身ごもらなければ、彼が私と結婚することなどなかった。

私との結婚さえなければ、明里も彼のもとを去らず、何年も姿を消すことはなかっただろう。

思えば、私たちの結婚は、最初から冗談みたいなものだった。

結婚して3年になるというのに、私も翔太も、准と顔を合わせたのは数えるほどしかなかった。

家に帰ってこないこと自体が、私に対する彼なりの意思表示だった。

翔太が生まれたときでさえ、准は顔を見せなかった。

准は翔太を憎んでいた。

翔太さえいなければ、明里が怒って自分のもとを去ることもなかった――准はそう思っていたのだ。

そんなことを考えていると、個室の中から別の男の声が聞こえてきた。

「もう結婚して何年も経つんだし、奥さんとの間には翔太だっているんだろ?昔のことは、もう水に流してもいいんじゃないか……」

だが、男が言い終わる前に、准が遮った。

「水に流せるかよ。あの女にまんまと嵌められてできた子なんだぞ。そんな簡単に忘れられるわけないだろ!

肝臓を半分くれて、子供を1人産んだくらいで、何年も米沢家の嫁でいられたんだ。あの女にしちゃ、それだけでも十分すぎるだろ!

明里がまた俺の前に現れたってことは、もう一度やり直す気があるってことだろ。

今度こそ、絶対に後悔はしない」

准はきっぱりと言い切った。

「まあまあ。せっかくみんなで集まったんだし、そんな暗い話はやめようぜ。ほら、飲もう!」

別の男が、場を和ませるように明るい声で割って入った。

ところが、准が酒に手を伸ばしたのを見て、ふと思い出したように尋ねた。

「准、お前、肝移植を受けたんだよな?酒なんか飲んで大丈夫なのか?」

「別にいいだろ。いちいちそんなこと気にしてられるかよ。あの女の肝臓が俺の中にあると思うだけで、吐き気がするんだ」

准は吐き捨てるように言うと、そのままグラスの酒を一口あおった。

「うまいな。やっぱりここの酒はうまい!」

楽しそうな声だったが、私への嫌悪だけは隠しようがなかった。

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