私の死に、両親は遅すぎた後悔を第3話
この話は約1633字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は薬の受け取り窓口へ向かう。
画面に金額が表示される――5500円。
ポケットに手を入れる。
すべてのポケットを探ってみても、入っているのは1050円だけ。
私は列から抜ける。
病院の隅まで歩いていく。
診断書をきれいに折りたたみ、ズボンのポケットにしまう。
そして病院を出る。
冷たい風が頬を撫でる。
私は、数日前に綾音が言っていたことを思い出す。
冬になると、脚がひどく痛むらしい。
綾音は、ヒーターが内蔵された輸入品の膝サポーターを欲しがっている。
ずっとその話をしていた。
私は自分に言い聞かせる。
先に綾音の膝サポーターを買おう。
それを買い終わったら、自分の薬を買えばいい。
母はスマホを置く。
父を見て、首を横に振る。
「出ないわ」
綾音が眉をひそめる。
自分のスマホを操作しながら、ぽつりと呟く。
「愛理、今日はまだ連絡してこない」
声はひどく小さい。
「いつもなら、配達に出たら写真を送ってくれるのに」
リビングの空気が変わる。
まるで突然、時間まで凍りついたようだ。
テーブルの上では、スペアリブがまだ湯気を立てている。
誰も箸をつけない。
父はもう一度椅子に腰を下ろす。
母はスマホの画面をじっと見つめている。
綾音は車椅子の手すりを両手で強く握っている。
私は食卓のそばに立っている。
不安に曇った三人の顔を見つめる。
私は手を伸ばし、母の髪に触れようとする。
けれど、その手は何もない空気をすり抜ける。
この半月、私は毎日お金を計算している。
ヒーター付きの膝サポーターを買うために。
朝は冷たいパンを二つだけ持って家を出る。
昼は何も食べない。
夜は帰宅して、カップ麺を一杯だけ食べる。
毎日の食費を切り詰める。
携帯代の支払いも先延ばしにする。
冬を越すために持っていた唯一の厚手のゴム靴まで売る。
それで数千円を手に入れる。
そうして、持っているお金をすべてかき集める。
それでも、膝サポーターの値段には少し足りない。
私は診断書を取り出して、一度だけ目を通す。
そして、またポケットにしまう。
もう少しだ。
膝サポーターを買ったら、薬をもらいに行こう。
四日前の夜10時。
私は仕事を終えて帰宅する。
お腹が、まるで刃物で抉られているように痛む。
腰を曲げ、ドア枠につかまりながら家の中へ入る。
母は綾音に薬を飲ませている。
私は壁にもたれ、苦しそうに息をする。
「お母さん、何日もお腹が痛いの。
少しお金をくれない?薬を買ってきたいの」
母は顔すら上げない。
綾音の口元へ、スプーンを運ぶ。
「お姉ちゃんは毎日車椅子に座ってても、痛いなんて言わないわ。
たった何日間配達したくらいで、あっちが痛い、こっちが痛いって。
家のお金は全部綾音の薬代に使ってるの。ひと箱何万円もするんだから」
そこへ父が部屋から出てくる。
冷たい目で私を見る。
「先月も腹が痛いなんて言って、適当なことを言ってただろ。
何千円も検査代を無駄にしたくせに。
今度も同じ手を使うのか?
綾音がサプリメントを食べてるのが羨ましくて、仮病を使ってるんだろう?」
私は口を開く。
胃の中が激しくかき回される。
けれど、何も言葉にならない。
私は背を向け、自分の窓のない小さな部屋へ戻る。
ドアを閉める。
そして硬い板張りのベッドに身を投げ出す。
布団でお腹を必死に押さえる。
エビのように体を丸める。
歯を食いしばり、漏れそうになる呻き声を必死に飲み込む。
もうすぐ9時になる。
テーブルの料理は、すでに二度冷めている。
母は料理をキッチンへ運び、温め直してから、またテーブルへ戻す。
それでも、誰も食べない。
母はスマホを手に取り、もう一度私の番号へ電話をかける。
プルルル――プルルル――プルルル――
「申し訳ありません。おかけになった電話は、留守番電話サービスに接続されました」
機械的な女性の声が、静まり返ったリビングに響く。
母の手が震え始める。
「どうして留守番電話になるの?
愛理は、絶対に電源を切ったりしないのに。
電源を切ったら、配達の依頼だって受けられないでしょう」
父が窓辺まで歩いていく。そして窓を開け、下を覗き込む。
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