私の死に、両親は遅すぎた後悔を第1話
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五歳のとき、交通事故に遭い、姉の早田綾音(そだ あやね)は私を助けるために両脚を失った。
あの日から、両親が私に一番よく言う言葉は、いつも同じだった。
「お姉ちゃんの人生は、あなたのせいでめちゃくちゃになったのよ」
私は名門大学に合格する。すると綾音は部屋に閉じこもり、一晩中泣き続ける。
母は目を真っ赤にして、私の合格通知書をビリビリに破り捨てる。
「お姉ちゃんが歩けるようになってから、もう一度受験しなさい」
それから私は、毎日16時間も配達の仕事をする。稼いだお金は、一円残らず綾音のリハビリ費用のために貯める。
お腹が痛くて腰を伸ばせないほど苦しんでも、両親は私を責める。綾音がサプリメントを食べてるのが羨ましくて、仮病を使ってるんだろうって。
私はこっそり病院へ行く。診断書には、こう書かれている。
――重度の貧血、骨盤内炎症、胃潰瘍。
薬をもらうには五千円以上かかる。けれど、私にはそんなお金を出せない。
私は思う。まずは綾音のために膝サポーターを買えるだけのお金を貯めよう。自分の薬は、そのあとでいい。
けれど、大雨が降ったあの日、配達に遅れるのが怖くて、私は赤信号を無視して交差点へ飛び込む。そして、ダンプカーに撥ね飛ばされる。
雨の中に倒れた私は、手の中に買ったばかりの膝サポーターを握りしめている。けれど、もう二度と、自分の手で綾音に渡すことはできない。
* * *
再び目を開けたとき、私はもう宙に浮かんでいた。
ふと下を見ると、家の食卓には三品のおかずと味噌汁が並んでいる。
私は玄関のドアを開けようとする。
けれど、指先はそのまま防犯ドアをすり抜けてしまう。
私は呆然とする。
そこでようやく気づく。私は、もう死んでいる。
母はキッチンで忙しそうに料理をしている。
エプロンを外し、出来上がった豚の角煮を乗せた皿を持って出てくる。
湯気が立ち上っている。
母はそれをテーブルの真ん中に置く。
「愛理(あいり)は角煮が好きだから。今日はわざわざ作ったの」
私は母の顔を見つめる。
母がこんなに優しい声で私の名前を呼ぶのは、これが何年ぶりだろう。
最後にそう呼ばれたのは、13年前。
あの日、私は5歳だった。
市場は人でごった返していた。
私は母の手を振りほどき、道路の向こう側へ走り出す。
そのとき、一台のトラックが突っ込んでくる。
耳をつんざくようなブレーキ音。
綾音が後ろから飛び込んできて、私を思いきり突き飛ばす。
その代わり、綾音自身が車輪の下に倒れる。
病院の廊下は、ひどく冷たい。
母は処置室の前に跪き、声を上げて泣き続けている。
やがて医師が出てきて、静かに首を横に振る。
「両脚を残すのは難しいでしょう」
母は振り返り、私を睨みつける。
その目は真っ赤に充血している。
そして私の肩を力いっぱい掴む。爪が肉に食い込む。
「愛理。お姉ちゃんの人生は、あなたのせいでめちゃくちゃになったの。
忘れないで。
これから一生、あなたはお姉ちゃんに借りがあるんだから」
この言葉を、母は13年間、ずっと私に言い続けてきた。
そして13年後の今日、母の顔からは、あの憎しみが消えている。
母は壁に掛かった時計を見上げる。
そこへ父が箸を四膳持ってやってくる。
箸を並べながら、ため息をつく。
「愛理、このところずっとお腹が痛いって言ってるよな。
俺たち、本当にあの子が仮病だって決めつけるの、もうやめたほうがいいんじゃないか?」
母は椅子を引いて腰を下ろす。
「確かに、顔色が全然ないものね。
今日はわざわざスペアリブを買ってきたの。帰ってきたら、ちゃんと食べさせてあげよう」
二人は玄関を見つめ、私がドアを開けて帰ってくるのを待っている。
けれど、私はもう二度と帰ってこない。
私は食卓に置かれたスペアリブを見つめながら、半年前のことを思い出す。
あの日、私は名門大学の合格通知を手に、家へ帰った。
私だって、家族がこんなふうにご馳走を並べて、合格を祝ってくれると思っていた。
けれど、綾音は私の合格通知を見た途端、自分の部屋に閉じこもってしまう。
部屋の中からは泣き声と、物を叩きつける音が聞こえてくる。
「これからは、大学に受かった愛理ばっかり可愛がるんでしょ!」
母は綾音の部屋の前に立ち、目を真っ赤にしている。
そして振り返ると、私のところへ歩いてくる。
母は、私が手にしている合格通知をじっと見つめる。
そして手を伸ばし、ひったくる。
――ビリッ。
合格通知は、何度も何度も引き裂かれ、ばらばらに裂かれていく。
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