私の人生にあなたはいらない第1話
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親友の吉永優花(よしなが ゆうか)は婚約パーティーで婚約者の浮気現場を目撃した。
しかし、その婚約者は謝罪することもなく、大勢の前で嘲笑した。
「俺以外の誰がお前なんて受け入れると思う?」
優花は立っていられないほどにふらつき、大泣きしていた。
私はその瞬間カッとなり、彼氏の佐伯蒼大(さえき そうた)の手を引いて、優花の手と握らせた。
「優花を誰も受け入れないって?
優花、たった今から、この人があなたの彼氏よ」
その言葉に蒼大は驚いていた。
そしてすぐ、彼はスーツの上着を脱いで優花の肩にかけ、大勢が見守る中、優花の手を引いたまま会場を出ていった。
その日の夜、私たち三人は一緒にお酒を飲み、今回だけだからと、笑い合った。
しかし、それからというもの優花の元婚約者は頻繁に付きまとってくるようになった。
蒼大は彼氏のふりをして、優花が仕事帰りに迎えに行って、家に送り届け、彼女の両親とのやり取りも多くなってきた。
私は一度たりとも二人のことを疑ったことはなかった。
あるSNSの投稿を見てしまうまでは……
【浮気した元婚約者に仕返ししてやるために、親友の彼氏を借りたんだけど、本気になっちゃった。返したくないわ、どうしよう】
その投稿者は親友自ら彼氏を自分に貸してくれたのだと言っていた。
初めて手を繋いだのは演技のため……
初めて抱き合ったのも同じ理由で……
そして初めて彼女の家で一夜を過ごした時は、本気だった。
コメント欄には恩を仇で返すひどい女だと多くの罵るコメントが寄せられていた。
優花はそのコメントに返信した。
【彼はね、あの夜そういう関係になってしまったんだから、絶対に責任をとるって言っているの】
この時、私はリビングで三人一緒に撮った写真を見つめ、全身から血の気が引いていった。
私はただ、あの婚約パーティーで優花のプライドのために、彼氏を貸しただけだ。
たった一晩だけ恋人のふりをするはずだったというのに、まさかそのまま本物の恋人へと変わってしまうなんて……
* * *
翌日、優花の両親は婚約取消になった騒ぎを鎮めるために、わざわざ家族パーティーを開いた。
蒼大はまだ「新しい彼氏」という立場でそれに出席した。
彼は私のことも誘った。
そして彼は言った。
「柚乃、吉永さんは一番仲が良い親友だろう。
そんな君が証明してくれるからこそ、彼女のご両親は彼女が俺と付き合うことが、元婚約者に復讐するためじゃないんだって信じられるんだ」
私は蒼大を見つめて、小声で尋ねた。
「だったら、私はどんな立場で行けばいいのよ?」
蒼大は一瞬声を詰まらせて、すぐに笑顔になり、私の頭を撫でた。
「もちろん、親友としてだよ。
ただの演技なんだから、余計なことは考えなくていいんだ」
レストランに到着すると、店員が海鮮料理を私の目の前に置いた。
蒼大は私にはアレルギーがあることを覚えていて、無意識にそれを遠くに移動させ、熱々の茶碗蒸しと交換しようとした。
「気をつけてね、この店の茶碗蒸しはエビが入ってるかわからないから」
彼が私は何が食べられないか、忘れずに覚えていることに、私は少し気持ちが軽くなった。
そこへ優花が食欲がないと一言言うと、彼は私のために手にとった茶碗蒸しをおろした。
「ここの料理の味が口に合わない?」
すると彼女は首を横に振った。
蒼大はすでにサラダにあるトマトを他の皿に移し、店員にマンゴーが入っているデザートをさげるように言った。
「彼女はトマトは食べないんです。
あと、マンゴーを食べると胃が痛くなるそうで」
この時、さっきの熱々の茶碗蒸しはテーブルの端のほうへ追いやられて、すでに冷めていた。
彼が私に気を配るのを忘れているわけではなく、ただ優花が一言口を開くと、私の優先順位が下がるだけなのだ。
吉永家のパーティーが半分終わったところで、個室のドアを誰かが蹴り破った。
優花の元婚約者がアルコールの匂いを漂わせて、そこに立っていた。彼は蒼大が優花の手を握っているのを見て、冷笑した。
「新しい彼氏か?
あんた、そいつに尋ねてみろよ。隣にいる女は一体誰なのかをね」
彼は私のほうを向いて指さした。
「その女こそ、てめえが5年間付き合ってる正真正銘の彼女だろうが?」
その言葉に、個室は一瞬で静まり返った。
優花は顔を真っ青にして、無意識に蒼大から手を離そうとしたが、彼のほうが先に彼女を握る手に力をこめた。
「俺と緑川さんはずっと前に別れたんだ。
だから優花は俺たちの間に割って入ってきたんじゃない」
私はその場で硬直した。
その短い言葉によって、私たちの5年にも及ぶ愛情は消え去り、私は元彼にしつこくつきまとっている女にすり替わった。
優花が顔をあげて私をちらりと見た。
彼女の瞳からは罪悪感が溢れていたが、彼と手を離すことはなかった。それとは逆に蒼大の手をゆっくりと強く握り返していた。
あの日、私が握らせてやった手を、優花は今、頑なに離そうとしない。
優花の母親である吉永紀美子(よしなが きみこ)は半信半疑だった。紀美子は優花と蒼大の写真を撮って、それをSNSの吉永家の一族グループに送り、婚約取消の悪口をきれいに消してしまおうと提案した。
蒼大はスマホを私に渡した。
「柚乃、ちょっと俺たちの写真を撮ってくれない?」
スマホの壁紙はこの時、私と彼のツーショットだった。
それは去年の誕生日に、彼が浜辺で私を抱きかかえている時に撮ったものだ。
その時彼は、私たちが結婚したら、この写真を結婚式の披露宴で使おうと言っていた。
しかし、今スマホのカメラには、彼がジャケットを優花の肩に羽織らせ、懐に寄せる画面が映っている。
優花は最初ぎこちなくしていたが、蒼大が小声で言った。
「もっと近くに寄って。そうじゃないと恋人っぽく見えないじゃないか」
優花は少し黙っていたが、結局彼の肩によりかかった。
二人は一緒にスマホのほうに視線を向け、私はシャッターを押した。
彼氏のスマホで、私は自ら彼と私の親友が親密な関係だと証明させるのだ。
優花の両親はこれでやっと、娘と蒼大が本当に交際しているのだと信じた。
優花の元婚約者は私を見つめ、皮肉の笑みを浮かべていた。
「別れても、まだ諦めきれないとはね。
元彼は別の女と一緒になったんだ。あんたさ、ここに一緒にいて何やってんだ?」
蒼大は私に代わって状況説明をしてくれることもなく、ただ低い声でこう言った。
「柚乃、先に帰って。
俺はここに残って、優花さんとご両親に付き添わないと」
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