私のお墓にはお花を一輪置いてほしい第1話
この話は約1799字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
妹の夕凪灯(ゆうなぎ あかり)が、クラスの男子生徒にビンタされた。
父は血相を変えて学校に乗り込み、担任に説明を求めた。
母は普段の体裁など構わず、保護者のグループLINEで大騒ぎした。
なかでも兄は、その日の夜に不良仲間を七、八人引き連れて校門で例の男子生徒を待ち伏せし、たっぷり「教育」してやった。
だが、灯は不満げに言った。
「みんながこんなに騒ぐから、クラスメイトに笑われて、誰も遊んでくれなくなったじゃない!」
母は途端に焦り出し、手作りのカップケーキをクラス全員分焼いて、クラスのみんなに配るよう灯に持たせた。
兄と父も何度も「もうしない」と約束し、十万円のお小遣いを渡して、ようやく灯の機嫌を直した。
翌日、灯のケーキが私の手元に回ってきたとき、私はようやく勇気を振り絞った。
「お母さん……私、学校でいじめられてるの……」
母は灯のために料理を作るのに忙しく、上の空で答えた。
「もう、遥ってすぐ大げさに言うんだから。ただの悪ふざけかもしれないでしょ?」
「お兄ちゃん……お小遣いを取られて、テストの答案も破られたの……」
兄は灯のためにゲームのランクを上げることに夢中で、答える気配はなかった。
代わりに、傍で聞いていた父がいい加減な返事をした。
「お前がちょっかいを出さなければ、相手だって嫌がらせなんてしないだろ。自分のどこが悪かったのか、よく反省しなさい」
私は黙って自分の部屋に戻り、一晩中反省したが、結局、自分が何をしたのか分からなかった。
その後、私はいじめグループに路地裏で囲まれ、服を脱がされて写真を撮られ、血を吐くまで殴られた。
実家に何度も電話をかけたが、誰も出なかった。
結局、奴らはそのまま逃げていった。
あいつらの話では、前回ここまで殴られた人は、内臓破裂で死んだらしい。
ボロボロの体で家に帰ると、母と父と兄が、プリンセスドレスを試着する灯を囲んでちやほやしていた。
でも、今日は私の誕生日なのに……
私は何も言わず、手元に残ったわずかなお小遣いを使い、バスに乗って白峰斎場へ向かった。
私は白峰斎場の警備員に言った。
「おじさん、私、もうすぐ死ぬの。だから、お葬式の準備をしてくれないかな?」
* * *
私は警備員の馬場(ばば)さんに連れられて手を洗い、擦り傷を消毒液で処置してもらった。
彼はスマホを取り出し、私の代わりに実家へ電話をかけながら慰めてくれた。
「家族と喧嘩して家出してきたんだね。お父さんもお母さんも、きっとすごく心配してるよ。
迎えに来てくれるよう頼んであげるから、ね?」
心配してる。その言葉にハッとした。
馬場さんのスマホから聞こえる呼び出し音を聞きながら、私の心臓は激しく高鳴っていた。
以前、母が灯の欲しがっていたおもちゃを買ってあげなかったとき、灯は怒って家出したことがあった。
あのとき、家族全員がひどく心配した。
父は二十四時間も経たないうちに三度も警察に駆け込み、兄は仲間を連れて街中をくまなく探し回った。
やっとのことで灯がようやく見つかったとき、母は妹を抱きしめて号泣し、どんなワガママでも聞くと約束した。
兄と父も目を真っ赤にして泣いていた。
みんな、私のためにもこんなに心配してくれるだろうか?
心の奥底に再びほんの少しの希望が芽生え、私の目に光が宿った。
馬場さんはそれを見て心を痛めたのか、私の頭を優しく撫でてくれた。
電話がようやく繋がり、馬場さんが事情を説明した。だが、電話口からは兄の苛立った声が聞こえてきた。
「夜遅くにフラフラ出歩いて、何やってんだよ。灯がもう寝るってのに。
一晩くらい外で放っておけばいい。もう大人なんだから、自分のことは自分でなんとかするだろ」
私はその場に立ち尽くした。
電話の奥では、灯がまだ甘えていた。
「ママ、一緒にお風呂に入れて!お兄ちゃん、歯磨きはどこ?パパ、絵本を読んでくれる?みんな、ちゃんと私のそばにいてくれるよね、どっかに行っちゃダメだよ」
馬場さんはまだ何か言おうとしたが、電話はすでに切られていた。
私は俯いた。
こうなることくらい、とっくに分かっていたじゃないか。
小さい頃から、私は家で一番おとなしくて、聞き分けのいい子供だった。
私なら自分で自分の面倒を見られるから、気にかける必要はないと、全員が思い込んでいた。
だから当然のように、みんなの愛情は灯へと注がれた。
大丈夫……本当に大丈夫だから……
胸の奥が込み上げ、私は耐えきれずに、また一口血を吐いた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)