私たちの絆は、ここに断つ第1話
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「システム、私はこの世界からの離脱を申請します」
そう言った後、機械的な電子音がすぐに響いた。
「宿主の任務は、一途なサブキャラ・辻本茂仁(つじもと しげひと)を救済することでした。五年前に任務はすでに達成されましたが、当時、宿主が離脱を拒否したため、現在再び時空トンネルを開くには、辻本茂仁と別の女性との結婚を成立させる必要があります」
* * *
「システム、私はこの世界からの離脱を申請します」
そう言った後、機械的な電子音がすぐに響いた。
「宿主の任務は、一途なサブキャラ・辻本茂仁(つじもと しげひと)を救済することでした。五年前に任務はすでに達成されましたが、当時、宿主が離脱を拒否したため、現在再び時空トンネルを開くには、辻本茂仁と別の女性との結婚を成立させる必要があります」
その返答を聞いた橋本夕帆(はしもと ゆうほ)は一瞬呆然とし、続けて問いかけた。
「誰とでもいいの?」
「はい。こちらでは半月の時間を与えます。任務に失敗した場合、宿主は完全にこの世界に留まることになります」
誰にも知られていないが、夕帆はこの世界の人ではなかった。彼女はシステムによって小説世界に送り込まれた存在だ。
茂仁はこの物語の中で、ヒロインに狂おしいほどの愛情を注ぐサブキャラであり、彼女のためなら全てを捧げる覚悟を持っていた。
彼はヒロインにこう語った。
「雪華、君が俺と結婚するなら、辻本家すべてを結納にしよう。だがあいつを選ぶのなら、辻本家すべてを祝儀にしよう」
この一言で、何千万の読者の涙を誘った。
しかし、ヒロインの運命は主人公を愛すること。最後に選ばれるのは当然主人公であり、茂仁は若き日の狂気的な愛に囚われたまま、報われることなく孤独に老いていった。
夕帆に課された任務は、そんな彼を救い、その結末を変えることだった。
彼女は彼の世界に入り、彼が悲しみに沈んでいる時には寄り添い、堕落しそうな時には励まし、危険に晒された時には身を挺して守った。何度も、彼が必要とする時には必ずそばにいた。
茂仁はかつて彼女にこう尋ねた。
「なぜ、そこまで俺を助けてくれるんだ?」
その時彼女は彼を見つめ、瞳に深い愛情と決意を湛えていた。
「だって、私はあなたのためにここに来たのよ」
彼女は七年の歳月をかけて攻略に成功した。だが、システムから帰還可能だと告げられたとき、彼を手放すことができず、迷いなくこの世界に留まることを選んだ。
二人は恋人となり、幸せな時を過ごした。
やがて、原作のヒロイン・千川雪華(ちがわ ゆきか)と主人公の離婚の知らせが届いた。
雪華が再び茂仁の前に現れた時、彼の心はまるで宿命のように彼女へと向かっていった。
彼はかつて、自分が「これからの人生は君だけだ」と誓ったのも、すっかり忘れてしまったのだ。
雪華への愛が変えられない運命だった。そして同時に雪華も物語の制約から解き放たれ、主人公と離婚して茂仁の元へと戻ってきた。
ならば、今回は彼らを結ばせて、自分は元の世界に帰ればいい。
そうすれば、彼女は本来の世界へ帰還でき、彼は愛する人と結ばれる。
扉が開く音が思考を遮り、視線を向けると、そこには長身の茂仁と、その後ろにぴったりついてくる雪華の姿があった。
夕帆の視線が雪華に向けられて、離れないのを見た茂仁は、何気ない仕草で彼女を庇うように自分の後ろに隠した。
「雪華が住んでいるところ、最近物騒だから、しばらくうちに泊めることにした」
彼は優しく説明した。まるで彼女が怒るのを恐れているような口調だったが、その決定には揺るぎがなかった。
かつての彼女なら、その言葉を聞けばきっと怒っただろう。けれど、今の彼女はとても冷静だった。
「わかったわ」
その反応に茂仁は戸惑いを隠せなかった。
これほど穏やかな返答は予想外だったのだろう。だが最後は雪華への心配が勝り、彼女を連れて階段を上りながら、振り返ってこう言った。
「夕帆、俺と雪華のことはもう終わった。ここには俺しか頼れる人がいないから連れてきただけだ。怒らないでくれ」
ずっと彼の背後に隠れていた雪華も、その頭をそっとのぞかせて、微笑みながら言った。
「そうなのよ、夕帆。私と茂仁の間には本当に何も......」
だが、彼女の言葉は最後まで届かなかった。夕帆が淡々と視線を逸らし、すべてを悟ったような、何も気にしないような顔で遮った。
「わかってる。あなたたちはただの友達だ。気にしないし、怒ったりもしない」
その寛容すぎる一言に、二人の瞳に驚きがよぎった。
だがそれ以上の詮索もせず、二人はそのまま階段を上がっていった。
雪華は正々堂々と茂仁の別荘に住み始めた。
夕帆にとっては、二人を結びつけるという目的に沿うものであり、むしろ望ましい展開だった。
しかし、予想外のことが起きたのはその夜のことだった。
どうやって二人を取り持つか考えていた矢先、雪華に呼び出された夕帆は、目の前で彼女がわざと階段から落ちるのを目撃した。
彼女は一瞬驚いて、思わず駆け寄ろうとしたが、もう遅かった。
次の瞬間、誰かに激しく突き飛ばされ、彼女がよろけながら体勢を立て直した時には、既にあの人が駆け下りていた。
茂仁だ。
事態があまりにも急で、夕帆は何が起こったのか理解する暇もなかった。
彼は涙に濡れる雪華を愛しそうに抱きしめていた。
「茂仁、夕帆のことを責めないで。悪いのは私よ。二人はカップルなのに、私がここにいて邪魔してるだけ......もうすぐ出ていくわ」
まるで全ての苦しみを耐え忍びながら、それでも夕帆のために良いことを言おうとする健気な姿。
それを見た優しい男は、初めて夕帆の前で怒りを露わにした。
「もう何度言えばわかるんだ、俺と雪華はもう終わったって。昔の友情があったから泊めてるだけだ。なぜ、そんなに彼女を受け入れられないんだ?」
「私は......」
彼女の顔色は真っ青になり、まさか雪華が自分をここまで傷つけるとは思ってもみなかった。
弁解の言葉を口にしたとたん、彼は既に彼女を連れて去っていた。聞く気などなかった。
短い沈黙の後、夕帆の胸に鋭い痛みが走った。
もういい。どうせ彼の心には、すでに自分が犯人だと決めつけている。何を言っても無駄だ。
夕帆が雪華の病室を訪れた時、窓の外から、茂仁が献身的に彼女を看病する様子が見えた。
「茂仁、南区にあるあのお店のお粥が急に飲みたくなっちゃった......」
彼女は恥じらいに満ちた笑顔を浮かべ、彼は愛しげに彼女の頭を撫でた。
「食いしん坊だね。買ってきてやるよ」
彼が出て行こうとするのを見て、夕帆はそっと身を引き、彼の視線を避けた。
幸い彼は急いでいたため、彼女の存在に気付くことはなかった。
彼女は知っていた。南区にあるそのお粥専門店は有名で、町の反対側にあり、常に長蛇の列ができている。
ここからだとかなりの距離がある上、長時間並ばなければならない。時間も体力も消耗するだろう。
それなのに、雪華の一言で、彼はすぐに向かった。
やはり、心から愛している相手の望みなら、どんな手間でも厭わない。
彼の背中が角を曲がって消えていくのを見送った後、彼女は苦笑しながら病室に入った。
夕帆が入ってきた時、雪華の顔には相変わらずの笑み、そして目には明らかな優越感が浮かんでいた。
「茂仁は私がうるさくされるのを嫌がって、わざわざこのフロアを全部貸し切ったのよ。ちょっとした怪我なのに、彼ったら大げさに一番いい医者を呼んで......
夕帆、もしあの時私が間違った相手を選んでいなければ、今その奥様の座にいるのはあなたじゃなくて私だったはず。身の程を弁えて、とっとと離れたほうがいいわよ」
この言葉で彼女が怒ると思っていたのだろう。
だが夕帆はただ静かに彼女を見つめた。
相変わらず落ち着いた様子で、むしろ微笑みさえ浮かべながら言った。
「雪華、これからはもう私を陥れる必要はないわ。今日ここに来たのは、あなたと協力関係を結ぶためよ。
今日から、私は全力であなたと茂仁を結びつけてみせる。結婚するまで、ね」
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