私たちの家に幼馴染が住み着いた日、愛が試された第1話
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夫の幼馴染が重い病気にかかったらしい。
彼女は「唯一の願いは、彼の腕の中で死ぬこと」だと言い出した。
そして、堂々と私たちの家に住み着いたのだ。
当然、私は夫に抗議した。けれど、返ってきたのは怒鳴り声だった。
「彼女はもう半分足を棺桶に突っ込んでるんだぞ!そんな人にまで文句言うのか?少しぐらい大人になれよ!」
――その言葉に、私は冷笑で返すほかなかった。
半月後。私が別の男性、しかも桐嶋グループの後継者の家を頻繁に出入りしているところを週刊誌に撮られた。
真っ赤な目をした夫が私を問い詰める。
「どういうつもりだ!」
私は彼の真似をして、冷たく言い放った。
「何をそんなに気にするの?少しぐらい大人になれないの?」
* * *
出張を終え、久しぶりに家へ帰ると、珍しく夫がキッチンに立って料理をしていた。
「どういう風の吹き回し?」と声をかける間もなく、ソファに座る真っ赤なワンピースが目に飛び込んできた。
その人物は玄関の音に気づき、キッチンにいる夫から私に視線を移す。
目が合った瞬間、彼女は立ち上がり、にこやかに手を差し出してきた。
「由利(ゆり)さん、初めまして。私は綾瀬桃香(あやせももか)。悠真(ゆうま)とは幼馴染なんです」
自己紹介を聞いて、私はああそうかと納得したふりで彼女の手を握り返す。
「どうも、まあ、座って」
ソファに腰を下ろしたとき、どこかで見覚えのある顔だと気づいた。何度か視線を送り、数秒の後、思い出した。
この女――私たちの結婚式の日に来ていたではないか。
薄い顔色に涙目で、悠真を恨めしそうに見つめるその姿が、まるで世界で一番の悲劇のヒロインだった。
挨拶もそこそこに済ませたところで、キッチンの夫が二皿のあっさりした料理をテーブルに運んできた。
彼は私が帰宅していることに気づかず、まるで二人だけの世界に浸るように口を開いた。
「桃香、さあ食べよう。今日は君の体に優しいものを作ったから」
そう言いながら振り向き、彼女を優しく見つめた。
一瞬、私の方へ視線がずれ、ようやく私の存在に気づいた彼は驚きを隠せない様子だった。
「......いつ帰ってきたんだ?何で連絡しないんだよ?」
私はスマホを軽く振って見せた。
「昼間にメッセージ送ったけど?」
夫は気まずそうに視線をそらし、キッチンに戻ってもう一セットの食器を用意しながら適当に返す。
「そうだったか?気づかなかったな。まあ、食べよう」
彼女が先に立ち上がり、テーブルへ向かう。椅子を引こうとした瞬間、悠真はすぐさま箸と皿を置き、桃香のために椅子を引いてやった。
二人のその自然なやりとりに、私は小さな違和感を覚えた。けれど、それが何なのか、まだわからない。
二人のやり取りを見ていると、胸の奥で何か引っかかるものを感じた。ただ、それが何かはうまく言葉にできない。
食卓につき、用意された料理を見て思わず眉をひそめた。
そこに並んでいたのは、どちらもあっさりしたものばかり。普段なら気にしないが、なぜかその瞬間に食欲が消え失せた。
けれど、お客さんがいる手前、無愛想な態度を取るわけにもいかない。無理やり箸を動かして、二口ほど口に運ぶ。
そのとき、ふと気づいて視線をテーブルから外した。周囲を見回してみたが、どこにも探していた人の姿は見当たらない。
胸騒ぎがじわじわと膨らんでくる。私は夫に向かって尋ねた。
「悠真、あの......和代さんは?」
ちょうど桃香に箸で料理を取っていた彼は、面倒くさそうな顔をしながら返事をした。
「辞めてもらった」
思わず箸を止め、食卓にそっと置く。
「どうして?」
和代さんは、私が家政会社から紹介してもらった信頼できる人だ。
手際がよく、礼儀正しく、プライベートに踏み込むこともない。そして何より、彼女が作るスパイシーな中華料理は私のお気に入りだった。
そのため、多少の手間と費用をかけてでも、彼女に来てもらうように頼んでいた。
それを――辞めさせた?
訳がわからず、怒りがじりじりと湧き上がる。
だが、夫はまったく悪びれた様子もなく、鼻で笑うように冷たく言い放つ。
「家の使用人をどうするかなんて、俺の自由だろ?」
その言葉に、心底呆れて物も言えなくなった。
そこに桃香が口を挟んできた。少し恥じらうような態度で、申し訳なさそうに言う。
「あの......由利さん、実は、私がここに長く滞在することになったので......誰か他の人がいると、ちょっと落ち着かなくて......」
「ここに長く滞在する?」
彼女の言葉を遮るように、私は冷たい声で問い詰めた。
桃香は困ったように視線を悠真に向ける。
すると夫は立ち上がり、リビングから一枚の書類を持ってきて私の前に置いた。
それは、病院の診断書だった。
そこには、はっきりとこう記されている――「胃癌末期」
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